【完結】今日も女の香水の匂いをさせて朝帰りする夫が愛していると言ってくる。

たろ

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ざけんじゃないわよ!

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「ただいま」
朝早く小さな声でわたしの寝ているベッドにそっと声をかける夫。

そして、自分のベッドにもぐり込み、すぐに寝息を立てる夫。

夫はとてもモテる。
顔立ちの良さから女に不自由しない。

妻がいるのにアッシュに言い寄る女は沢山いる。
それでも結婚してからはわたしだけだと思っていた。

「はあぁ」

わたしはそんな夫を見て溜息を吐きながら、朝、目覚める。

そして、朝食用のパンを捏ねる。

「ったく、いっつも朝帰りして何しているの?朝から香水の匂いをプンプンさせて、臭いのよ!
バッカじゃないの!少しカッコいいからって女にモテると思って!調子に乗るんじゃないわ!」

パンを捏ねるのはストレス発散になる。

結婚して一年。

わたしは近くのレストランで昼間仕事をしている。

夫のアッシュは、伯爵家で料理人をしている。

なので勤務時間は不規則だ。

それでも早朝に帰ることは今までなかった。

早出、遅出はあっても、夜中に勤務して早朝帰ることなど料理人にはまずない。

それにこんなに香水の匂いをさせる料理人はまずいない。

だって料理人にとって匂いは大事だ。

なのに……

「そろそろ離婚かしら?」

パンを焼きながらスープを作る。

わたしはアッシュとは幼馴染だった。

今住んでいる界隈でずっと暮らしてきた。

両親は事故で亡くなり、お兄ちゃんと二人で苦労しながらなんとか生活してきた。

アッシュはわたし達の近所に住んでいて、アッシュの両親はわたしたち兄妹をなにかと気にかけてくれて世話を焼いてくれた。

アッシュとわたしは3歳違い。

わたしは気がつけばいつもアッシュといた。

アッシュといるのが当たり前で、アッシュと過ごす時間が当たり前になっていた。

わたしが17歳、アッシュが20歳の時に結婚した。

そして一年が経ち、気がつけばアッシュが家に帰らない日々が増えてきた。

それも匂いをさせて……

そんな朝帰りの日は、アッシュはわたしを抱きしめて「愛している…いいだろう」
と言ってわたしを抱く。
他の女の香水を身に纏い、誤魔化すようにわたしを求めてくる。
わたしはそれでもアッシュの愛情を確認したくて拒否できないでいる。

そんな生活も今日で終わり。

「まだ寝てるわ」
今日は夜勤なので夕方まで寝ているだろう。

わたしは焼いたパンをテーブルに置き、ガラスの蓋をして家を出た。


わたしは二週間前に職場のオーナーに頭を下げて辞めたいと告げた。

「突然ですがあと二週間で辞めさせてください」


「どうしたんだ?突然」

レストランのオーナーが驚いていた。
確かに唐突すぎたかも。

「アッシュと別れようと思っています」

「え?おしどり夫婦なのに?」

「そんな時もありました。でももうそんな関係は終わりました」

わたしの顔が怖かったのか、オーナーがビクビクしながら
「アッシュの浮気?」
と聞いてきた。

「し・り・ま・せ・ん」
わたしは横をプイッと向いてもう何も話しません!という態度をすると

「はあー、アッシュが浮気なんてするわけがないと思うぞ」

わたしは話したくないのに思わず言い返してしまった。

「じゃあ、最近よく朝帰りするのはどうしてだと思います?香水の匂いをプンプンさせて帰ってくるんですよ?」

「え?アッシュが?いや、それはアッシュに限ってないだろう」

「オーナー、アッシュの何を知っているんですか?あいつはう・わ・き・をしているんです!たまに服に口紅がついているのはどう庇います?」

「へ?く、口紅?」
さすがのオーナーももうアッシュを庇うのをやめてしまった。

「今朝は首にキスマークが付いていました」
わたしは大きな溜息を吐いた。

「オーナー、迷惑をかけてすみません。」

わたしが頭を下げると

「わかったよ、で、どこへ行くんだ?」

「アッシュに見つからないところです。出て行く時に離婚届を置いて行くつもりです」

「黙って出て行ったらどうやって離婚したとわかるんだ?」

「それは兄さんに手紙を書いて頼んだので、兄さんがアッシュに確認してくれる事になっています。
それまではわたしは暫くこの町を出るつもりです」

「行く当てはあるのか?」

「はい、場所は誰にも伝えていません。すみませんがよろしくお願いします。もしアッシュが来ても何も言わないでください」

そして二週間後の今日わたしはこの町を出た。

そしてもう一人の幼馴染のロリーのところへ向かった。

ロリーはわたしよりも一つ年下の17歳。

今はある侯爵家の騎士として雇われている。

若いのに騎士としての才能があったロリーは、そこの副団長さんからスカウトされて雇われる事になった。

この前たまたま実家に帰って来てわたしが働いているレストランに顔を出したロリー。

懐かしさから仕事終わりに一緒にうちのレストランで食事をした。
その時についアッシュの話しをしてしまった。

「アッシュ兄に少し心配させてみたらどうだい?」

わたしはその言葉に乗ることにした。
ついでに心配させて、離婚までしてしまうつもりだが、ロリーには伝えるのはやめた。

止められたらいけないもの。
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