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新しい居場所
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侯爵家の騎士として働いているロリーの紹介で住み込みで働かせてもらうことになった。
広い敷地に大きなお屋敷。
さらに使用人の居住用の建物、手の行き届いた綺麗な庭。
侯爵家お抱えの騎士団。
広い敷地の中に騎士達専用の鍛錬場や厩舎もあり、使用人達もたくさんいる。
わたしが雇われたのは騎士団用の食堂。
レストランで働いていたので料理は得意。
それを知っているロリーがちょうど人手が足りなくなっていたので紹介してくれた。
「みなさん、よろしくお願いします」
わたしはたくさんの男の人達の前で挨拶をした。
よく見ると女性も十人ほどいたので少しだけホッとした。
流石に汗と体臭の男臭い中で働くのは少し怖い。
アッシュはどちらかと言うと優男で、たくましさとは無縁。
だから筋肉のある男の人はあまりみたことがない。
兄も商会で事務をしているのでやはり筋肉とは無縁だ。
「よろしくね、美味い飯を期待しているよ」
団長さんは優しく微笑んだ。
大柄だけど笑顔が優しそうな30歳前後くらいの人だ。
「よろしくお願いします」
「ユウナ、今日から頼む、俺、ミートパイが好きなんだ!」
「あ、俺はチキンならなんでもいいから!」
「俺はがっつりと肉系がいいな」
「俺はポテトが好きなんだ、あ、でもピーマンは苦手で……」
「お前達!自分の好きなものばかり言ってどうするんだ!ユウナさんが困ってるだろう」
わたしはみんながどんどん近づいて来るので、後退りしながら頭を縦にコクンと頷いていた。
「ユウナは人見知りが激しいんだ、慣れるまで少し時間がかかるけど、みんなよろしくな」
ロリーがみんなにそう言って紹介してくれたので、わたしは少し気が楽になった。
昔から慣れた人とは平気だけど、知らない人とは慣れるまでに時間がかかる。
「……お、お願いします」
わたしは寮に案内されて小さな鞄一つを置いてベッドに横になった。
「アッシュ……」
朝家を出て勢いだけでここに来た。
もちろんロリーには前もって連絡していたし、今日ここに来る予定にはしていた。
でもやはりアッシュが朝帰りして来た時には、ショックだった。
昨日の夜まではここに来ることを迷っていたが、アッシュが帰ってこない夜の時間がわたしを決心させてくれた。
レストランのオーナーには迷惑をかけたけど、わたしの代わりに新しい娘が入るように紹介はしておいたので、まぁ大丈夫だろう。
お兄ちゃんにもアッシュと別れることはもう伝えてある。
アッシュも今頃は離婚届を持ってお兄ちゃんのところへ行っているだろう。
やっぱりわたしと別れることを喜んでいるのかしら?
新しい彼女と再婚できるんだもんね、わたしなんかいらないよね……
あー、考えていると神経が昂ってきて寝られない。
明日からは早起きして朝食作りが待っているのに……
初めての場所での夜はやはり緊張して眠れない。
そっと外に出ると暗闇の中、星が綺麗に輝いていた。
今日もアッシュは、わたしのことなんか気にせず夜勤に行ってそのまま、またどこかで香水の匂いをつけているのだろうか。
わたしがいなくなったこと少しは気にしてくれているかしら?
それともこれ幸いと香水の女を家に連れ込んでいる?
あー、嫌だ!
考えるだけで暗くなる。
せっかくの綺麗な星。
わたしはボッーと星を見ていた。
「ユウナ?どうした?」
後ろから声をかけて来たのはロリーだった。
「うーん、眠れなくて星を見ていたの」
「本当はアッシュが気になるんだろう?」
「………まあ、そうだね……今日も仕事帰りに女の人の所へ行ってるのかなぁ……なんてつい考えちゃうよね」
「アッシュ兄に限ってないって思うけど……」
ロリーは頭をぽりぽり掻きながら、どう返事をしていいのか迷っていた。
「ロリーが考え込むことではないから大丈夫だよ!わたしも結構悩んだけどここに来て心機一転頑張ろうと思ったら少し気持ちが楽になったの。
さあ、寝よう!明日は朝早いもの、美味しい朝食作るからね」
「……うん、期待してるよ」
「ふふ、任せて」
わたしは明るい顔をしてロリーと別れた。
「眠くなくても寝ないと、明日がきついわ」
わたしは無理矢理目を閉じた。
◇ ◇ ◇
「おはようございます」
朝早く起きて厨房へ行くと、賄いを作っているヘリーさんとリオナさんがいた。
「おはよう、今日からよろしくね」
二人が笑顔で挨拶してくれたのでわたしもホッとしてなんとかやっていけそうだと思った。
「こちらこそ、よろしくお願いします。今日は何を作るのですか?」
「朝はパンとスープ、サラダ。それから何か肉類を一品出すの。今日は鶏肉が入ったから何をしようか悩んでいるの」
「鶏肉……チキンカツなんてどうですか?」
「それは何?焼くか煮るのがほとんどだから知らないわ」
「わたしが作ってみてもいいですか?パンと卵と小麦粉、油と調味料が有れば簡単に出来ます」
「あら?そんな材料だけでいいの?」
わたしはレストランで働いていたので、いろんな料理を作っていた。
一般の家庭料理では作ったことがないもの、食べることがないものもレストランでは作っていた。
少しは皆さんの役に立てそうなのでホッとした。
「おい、これなんだ?」
「珍しい食べ物だな」
「なんかいい匂いがする」
みんなが初めて見る料理に興味を持ってくれた。
わたしは調味料を混ぜてソースを三種類作り
「好きなものをかけて食べてみてください。パンに挟んで食べても美味しいと思います」
「ユウナ、これこの前店で食べたヤツだよね?いただきます!」
ロリーはこの前お店に来てチキンカツを気に入って食べてくれた。
美味しそうに食べる姿を見てホッとした。
内心朝からこんな油っこい物を食べさせていいのか心配したけど、体力勝負の騎士さん達の胃袋はやはり強靭だった。
他の人達も
「うわぁ、うまっ!」
「俺もう一個食いたい」
と、みんな喜んでくれた。
「一応おかわりも作っていますので良かったらどうぞ」
と言うと我先にとみんなが取りに来た。
ヘリーさんとリオナさんが笑いながら言った。
「ここはみんな元気だからね、慣れるまでに少し時間がかかると思うわよ」
うん、みなさん、迫ってきてとても怖い。
食欲が凄すぎて圧倒されてしまった。
広い敷地に大きなお屋敷。
さらに使用人の居住用の建物、手の行き届いた綺麗な庭。
侯爵家お抱えの騎士団。
広い敷地の中に騎士達専用の鍛錬場や厩舎もあり、使用人達もたくさんいる。
わたしが雇われたのは騎士団用の食堂。
レストランで働いていたので料理は得意。
それを知っているロリーがちょうど人手が足りなくなっていたので紹介してくれた。
「みなさん、よろしくお願いします」
わたしはたくさんの男の人達の前で挨拶をした。
よく見ると女性も十人ほどいたので少しだけホッとした。
流石に汗と体臭の男臭い中で働くのは少し怖い。
アッシュはどちらかと言うと優男で、たくましさとは無縁。
だから筋肉のある男の人はあまりみたことがない。
兄も商会で事務をしているのでやはり筋肉とは無縁だ。
「よろしくね、美味い飯を期待しているよ」
団長さんは優しく微笑んだ。
大柄だけど笑顔が優しそうな30歳前後くらいの人だ。
「よろしくお願いします」
「ユウナ、今日から頼む、俺、ミートパイが好きなんだ!」
「あ、俺はチキンならなんでもいいから!」
「俺はがっつりと肉系がいいな」
「俺はポテトが好きなんだ、あ、でもピーマンは苦手で……」
「お前達!自分の好きなものばかり言ってどうするんだ!ユウナさんが困ってるだろう」
わたしはみんながどんどん近づいて来るので、後退りしながら頭を縦にコクンと頷いていた。
「ユウナは人見知りが激しいんだ、慣れるまで少し時間がかかるけど、みんなよろしくな」
ロリーがみんなにそう言って紹介してくれたので、わたしは少し気が楽になった。
昔から慣れた人とは平気だけど、知らない人とは慣れるまでに時間がかかる。
「……お、お願いします」
わたしは寮に案内されて小さな鞄一つを置いてベッドに横になった。
「アッシュ……」
朝家を出て勢いだけでここに来た。
もちろんロリーには前もって連絡していたし、今日ここに来る予定にはしていた。
でもやはりアッシュが朝帰りして来た時には、ショックだった。
昨日の夜まではここに来ることを迷っていたが、アッシュが帰ってこない夜の時間がわたしを決心させてくれた。
レストランのオーナーには迷惑をかけたけど、わたしの代わりに新しい娘が入るように紹介はしておいたので、まぁ大丈夫だろう。
お兄ちゃんにもアッシュと別れることはもう伝えてある。
アッシュも今頃は離婚届を持ってお兄ちゃんのところへ行っているだろう。
やっぱりわたしと別れることを喜んでいるのかしら?
新しい彼女と再婚できるんだもんね、わたしなんかいらないよね……
あー、考えていると神経が昂ってきて寝られない。
明日からは早起きして朝食作りが待っているのに……
初めての場所での夜はやはり緊張して眠れない。
そっと外に出ると暗闇の中、星が綺麗に輝いていた。
今日もアッシュは、わたしのことなんか気にせず夜勤に行ってそのまま、またどこかで香水の匂いをつけているのだろうか。
わたしがいなくなったこと少しは気にしてくれているかしら?
それともこれ幸いと香水の女を家に連れ込んでいる?
あー、嫌だ!
考えるだけで暗くなる。
せっかくの綺麗な星。
わたしはボッーと星を見ていた。
「ユウナ?どうした?」
後ろから声をかけて来たのはロリーだった。
「うーん、眠れなくて星を見ていたの」
「本当はアッシュが気になるんだろう?」
「………まあ、そうだね……今日も仕事帰りに女の人の所へ行ってるのかなぁ……なんてつい考えちゃうよね」
「アッシュ兄に限ってないって思うけど……」
ロリーは頭をぽりぽり掻きながら、どう返事をしていいのか迷っていた。
「ロリーが考え込むことではないから大丈夫だよ!わたしも結構悩んだけどここに来て心機一転頑張ろうと思ったら少し気持ちが楽になったの。
さあ、寝よう!明日は朝早いもの、美味しい朝食作るからね」
「……うん、期待してるよ」
「ふふ、任せて」
わたしは明るい顔をしてロリーと別れた。
「眠くなくても寝ないと、明日がきついわ」
わたしは無理矢理目を閉じた。
◇ ◇ ◇
「おはようございます」
朝早く起きて厨房へ行くと、賄いを作っているヘリーさんとリオナさんがいた。
「おはよう、今日からよろしくね」
二人が笑顔で挨拶してくれたのでわたしもホッとしてなんとかやっていけそうだと思った。
「こちらこそ、よろしくお願いします。今日は何を作るのですか?」
「朝はパンとスープ、サラダ。それから何か肉類を一品出すの。今日は鶏肉が入ったから何をしようか悩んでいるの」
「鶏肉……チキンカツなんてどうですか?」
「それは何?焼くか煮るのがほとんどだから知らないわ」
「わたしが作ってみてもいいですか?パンと卵と小麦粉、油と調味料が有れば簡単に出来ます」
「あら?そんな材料だけでいいの?」
わたしはレストランで働いていたので、いろんな料理を作っていた。
一般の家庭料理では作ったことがないもの、食べることがないものもレストランでは作っていた。
少しは皆さんの役に立てそうなのでホッとした。
「おい、これなんだ?」
「珍しい食べ物だな」
「なんかいい匂いがする」
みんなが初めて見る料理に興味を持ってくれた。
わたしは調味料を混ぜてソースを三種類作り
「好きなものをかけて食べてみてください。パンに挟んで食べても美味しいと思います」
「ユウナ、これこの前店で食べたヤツだよね?いただきます!」
ロリーはこの前お店に来てチキンカツを気に入って食べてくれた。
美味しそうに食べる姿を見てホッとした。
内心朝からこんな油っこい物を食べさせていいのか心配したけど、体力勝負の騎士さん達の胃袋はやはり強靭だった。
他の人達も
「うわぁ、うまっ!」
「俺もう一個食いたい」
と、みんな喜んでくれた。
「一応おかわりも作っていますので良かったらどうぞ」
と言うと我先にとみんなが取りに来た。
ヘリーさんとリオナさんが笑いながら言った。
「ここはみんな元気だからね、慣れるまでに少し時間がかかると思うわよ」
うん、みなさん、迫ってきてとても怖い。
食欲が凄すぎて圧倒されてしまった。
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