【完結】今日も女の香水の匂いをさせて朝帰りする夫が愛していると言ってくる。

たろ

文字の大きさ
5 / 35

あ、あれ?……はあ??

しおりを挟む
おばちゃんに挨拶をして

「じゃ、また」
と、言って鍵をあけて家に入った。

いや、思わず入ってしまった。

3ヶ月ぶりの我が家には誰もいなかった。

変わらない部屋。

うん?少し埃っぽいかも……

とりあえず窓を開けて、空気の入れ替えをした。

テーブルには食べかけのパンや食器、台所もかなり散らかり汚れていた。

洗濯物もたくさん汚れたまま置かれていた。

わたしが居なくなってアッシュはあまり家事をしていなかったみたい。

仕方なく掃除を始めた。

洗濯だけでもかなりの量がある。

洗濯板で洗い、最後は絞り機をかけて裏庭の洗濯干場に大量の洗濯物を干した。

気がつけばもうお昼をとっくに過ぎていた。

この家にはまともに食べるものがない。

買い物に行くとみんなに会うので少し悩んだが、お腹が空いたので仕方なく市場へ向かった。

「ユウナ、久しぶり」
「アッシュが最近暗かったよ」
「やっと町に戻ってきたんだ」
と、みんな温かく迎えてくれた。

わたしが離婚届を置いて出て行ったと誰も思っていなくて、
「ユウナ、仕事が落ち着いたんだ、もうこっちで仕事に戻るんだ」
と言われた。
わたしは仕事でしばらく遠い町に行ってたことになっていた。
どんな仕事で遠い町に行くと言うのだろう。
しがないレストランの店員が……

わたしは愛想笑いと適当な返事をして、さっさと買い物を済ませた。

家に帰って今日もパンを捏ねた。

明日の朝には美味しいパンが焼ける。

今日はとりあえず市場で買ったパンとサラダでお腹を満たした。
ついでに離婚届をもう一度役場で10貰ってきた。
そして10通全てにわたしのサインをして1通だけをテーブルに置いて残りは鞄に入れた。

そしてお腹を満たした後、お兄ちゃんの働く商会に顔を出した。

休憩の時間まで待つつもりでその間お店の商品を見ながら、騎士団のみんなへのお土産を見ていた。

商会の人たちとは顔見知りで、わたしに気がつくとお兄ちゃんに取り継いでくれた。


「お兄ちゃん!」

「ユウナ……突然顔を出したから驚いたよ」

「心配かけてごめんなさい。お兄ちゃんの休憩時間にちょっと会えないかなと思って顔を出したの」

「変わりなさそうで安心したよ」

「お兄ちゃん、アッシュのこと迷惑をかけてごめんね、仕事が終わったら話できないかな?」
わたしはそのことを伝えたくてここに来たのだ。

普通なら手紙を書いていつ帰るからいつ会えるか、と約束するのだが昨日の今日突然帰ることになったので、お兄ちゃんに会う約束すらない取り付けることができなかった。

「あと2時間したら上がれると思う。お前が働いていた店で待ち合わせしよう」

「うん、わかった。仕事中お邪魔してごめんなさい」



◇ ◇ ◇

久しぶりに前職場に顔を出す。

ドキドキしながら入ると

「お!久しぶり!」
「ユウナ~!」
「元気にしてた?」

みんなが変わらない態度で接してくれた。

うっ…涙が出そう。

「オーナーが奥にいるわよ」

「うん、ありがとう、ちょっと失礼して行ってくるね」

わたしはお世話になりながら辞めてしまったオーナーに挨拶に行った。

「ユウナ、元気にしていたか?」

「はい、突然帰ってきてすみません」

「………アッシュには会ったのか?」

「いえ、10時頃家に着いたので、とりあえず家の中を片付けてから出てきました」

「そうか……あいつ、ユウナをいまだに探し回っているぞ、俺のところにも何度も訪ねてきてる」

「迷惑をかけてすみません、わたし仕事で遠くに行っていることになっているみたいで近所の人や市場の人に仕事から帰ってきたのかと言われたんです…レストランで働いていて一体どんな出張があるのか疑問ですが」
わたしが苦笑いしていると

「アッシュの奴、ユウナが離婚届を置いて出て行ったことを認めたくなくて、よその町に勉強のために行っていると言ってるんだ」

ナルホド……

わたしはオーナーに迷惑をかけてすみませんと何度も頭を下げて、とりあえずお店でお兄ちゃんが来るのを待った。




「ユウナ、待たせたな」

わたしは紅茶を飲みながら待っていた。

「俺、腹が減ったから何か食べよう」

お兄ちゃんはすぐに出てくる料理を頼んで、話より先に勢いよく食べた。

お兄ちゃんのそんな姿を懐かしくなりながら見ていた。
結婚して一年と4ヶ月。

ずっとこうやって一緒に食事をして泣いて笑って過ごしていたのに、いつの間にか離れてお互い別の道を進むようになってしまった。

アッシュとももうすぐこうなるのかしら?

わたしとアッシュとお兄ちゃん、そしてロリーもみんないつも一緒だった。

一緒に遊んでずっと過ごしてきた。

ずっとずっと一緒にいられると思っていたけど、大人になりそれぞれの新しい道を行くことになった。

それでもアッシュとは結婚して一緒にいるのだと思っていた。
なのに……浮気する奴だったなんて。

「ユウナ、手紙で書いた通りだ。アッシュはお前と別れる気はないみたいだ。
浮気のことも聞いたが、あいつはそのことになると黙ってしまうんだ」

「は?はあ?」
わたしは周りにお客さんがいるのに思わず大きな声で叫んでいた。



つづく。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

一番悪いのは誰

jun
恋愛
結婚式翌日から屋敷に帰れなかったファビオ。 ようやく帰れたのは三か月後。 愛する妻のローラにやっと会えると早る気持ちを抑えて家路を急いだ。 出迎えないローラを探そうとすると、執事が言った、 「ローラ様は先日亡くなられました」と。 何故ローラは死んだのは、帰れなかったファビオのせいなのか、それとも・・・

幼馴染

ざっく
恋愛
私にはすごくよくできた幼馴染がいる。格好良くて優しくて。だけど、彼らはもう一人の幼馴染の女の子に夢中なのだ。私だって、もう彼らの世話をさせられるのはうんざりした。

我慢しないことにした結果

宝月 蓮
恋愛
メアリー、ワイアット、クレアは幼馴染。いつも三人で過ごすことが多い。しかしクレアがわがままを言うせいで、いつもメアリーは我慢を強いられていた。更に、メアリーはワイアットに好意を寄せていたが色々なことが重なりワイアットはわがままなクレアと婚約することになってしまう。失意の中、欲望に忠実なクレアの更なるわがままで追い詰められていくメアリー。そんなメアリーを救ったのは、兄達の友人であるアレクサンダー。アレクサンダーはメアリーに、もう我慢しなくて良い、思いの全てを吐き出してごらんと優しく包み込んでくれた。メアリーはそんなアレクサンダーに惹かれていく。 小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。

幼馴染と夫の衝撃告白に号泣「僕たちは愛し合っている」王子兄弟の関係に私の入る隙間がない!

ぱんだ
恋愛
「僕たちは愛し合っているんだ!」 突然、夫に言われた。アメリアは第一子を出産したばかりなのに……。 アメリア公爵令嬢はレオナルド王太子と結婚して、アメリアは王太子妃になった。 アメリアの幼馴染のウィリアム。アメリアの夫はレオナルド。二人は兄弟王子。 二人は、仲が良い兄弟だと思っていたけど予想以上だった。二人の親密さに、私は入る隙間がなさそうだと思っていたら本当になかったなんて……。

壊れていく音を聞きながら

夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。 妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪 何気ない日常のひと幕が、 思いもよらない“ひび”を生んでいく。 母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。 誰も気づきがないまま、 家族のかたちが静かに崩れていく――。 壊れていく音を聞きながら、 それでも誰かを思うことはできるのか。

婚約者が番を見つけました

梨花
恋愛
 婚約者とのピクニックに出かけた主人公。でも、そこで婚約者が番を見つけて…………  2019年07月24日恋愛で38位になりました(*´▽`*)

この恋に終止符(ピリオド)を

キムラましゅろう
恋愛
好きだから終わりにする。 好きだからサヨナラだ。 彼の心に彼女がいるのを知っていても、どうしても側にいたくて見て見ぬふりをしてきた。 だけど……そろそろ潮時かな。 彼の大切なあの人がフリーになったのを知り、 わたしはこの恋に終止符(ピリオド)をうつ事を決めた。 重度の誤字脱字病患者の書くお話です。 誤字脱字にぶつかる度にご自身で「こうかな?」と脳内変換して頂く恐れがあります。予めご了承くださいませ。 完全ご都合主義、ノーリアリティノークオリティのお話です。 菩薩の如く広いお心でお読みくださいませ。 そして作者はモトサヤハピエン主義です。 そこのところもご理解頂き、合わないなと思われましたら回れ右をお勧めいたします。 小説家になろうさんでも投稿します。

ある辺境伯の後悔

だましだまし
恋愛
妻セディナを愛する辺境伯ルブラン・レイナーラ。 父親似だが目元が妻によく似た長女と 目元は自分譲りだが母親似の長男。 愛する妻と妻の容姿を受け継いだ可愛い子供たちに囲まれ彼は誰よりも幸せだと思っていた。 愛しい妻が次女を産んで亡くなるまでは…。

処理中です...