【完結】今日も女の香水の匂いをさせて朝帰りする夫が愛していると言ってくる。

たろ

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久しぶりのご対面。

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お兄ちゃんと別れた。

アッシュは家にいるのかしら?

それとも女のところ?

トボトボとゆっくり家路につく。

家の中には灯りが見えた。

帰ってる……ドキドキしながら扉を開けた。

「………」
わたしは無言で中に入った。
いや、言葉が何も出てこなかったんだけど。

「……ユウナ?」
アッシュがわたしを見て驚いていた。

「ユウナ?ユウナ!ユウナぁ!!」
アッシュはわたしに近っいたと思ったらギュウギュウと抱きしめてきた。

「い、痛い!」
わたしがアッシュからなんとか逃れようとしていると

「嫌だ!もう離れない!」
と、さらに力一杯抱きしめてくる。

わたしは苦しさと腹立たしさで、足を蹴り上げて無理やり体を離した。

「っいっ…い、痛い」
アッシュの力が緩んだ隙に離れて呼吸を整えた。

「死ぬかと思った!もう!!」

「ご、ごめん…だってずっと探し続けたんだ……いきなり居なくなって心配したんだ」

「あら?出ていく前に何度かアッシュに言ったわよね?わたしに内緒にしている事はない?嘘は嫌いよって!」

「………う、うん、言われた気がする……」

「わたし言ったわよね、嘘吐いたら出ていくって!」

「そ、それは結婚する前にした約束だろう?」

「前でも後でも関係ないわ!アッシュがわたしに嘘をついていたのは認めるのよね?」

「嘘は吐いていない……」

「ふうん、ではあの香水の匂いはどこで付けているの?首筋のキスマークは?朝帰りはどうしてなの?
いつもわたしから目を逸らしていたのはどうして?」

「…………」

「ハア、何も言えないのね。聞いてもムダならもういいわ、ここに離婚届の紙があるわ、さっさとアッシュの名前を書いてちょうだい。それだけ貰えばわたしは出ていくから」

「だ、だめだ。ユウナもうどこにも行かないで!愛しているんだ」

「わたし浮気男って嫌いなの!知ってるわよね?」

「…………」

「ほら、そのことになるとダンマリが始まるの。いつもそうやって黙ってしまう。だからわたしは黙って出て行ったの!聞いてもムダってわかってるから!」

イライラする。
わたしが酷いことを言っているみたい。
悪者はわたしなの?
そんな辛そうな顔をしないで!

「もういいわ、離婚したくないのならしないわ」

「じゃあ、また一緒に暮らせるんだね」

アッシュが嬉しそうにしていた。

「いいえ、一生別居でいいわ。ここにサインした離婚届を10枚置いておくから。出したくなったらいつでも出して。じゃあわたしは帰るわ。
さようなら」

わたしはもう離婚は諦めた。
別に再婚したい相手がいるわけでもないし、もうこの際、離婚に拘るのはやめた。

「ユウナ、待って!もう離れたくない!行かないで!愛しているんだ」

わたしは玄関のドアノブを持ったまま、振り返った。

「わたしは貴方の本当の理由を知りたかったの。何度聞いても答えてくれない。なのにまた貴方は香水の匂いをさせて帰ってくるのを我慢して待っていろと言うの?」

「………そ、それは……」

「わたしは嫌なの!だからもうお終い。わかってくれる?」

「理由を言えば戻ってきてくれる?」

「ごめんなさい、内容によるわ」

「………そうだね…」
アッシュはしばらく黙っていた。

そして……ポツリポツリと話し出した。

「仕事の帰りに雨が降り出したんだ……傘もなくてずぶ濡れで走って帰っていたら前を見ていなくて人とぶつかったんだ。
その人が転んで怪我をさせてしまった。
放っておけないしその人を家まで送ったんだ」

「そう」

「とにかく怪我の治療をしたんだ。そしたら歩くのに少し困っていて、僕の所為だからしばらく彼女の家に行って手助けをすることにしたんだ。その人は40歳くらいの女性で家には子どもが三人いたんだけど、父親は亡くなっていなくて彼女と長女が働いて生活を支えていたんだ」

「ふうん」

「僕は仕事が終わった後彼女の家に行って、料理をして帰って来ていたんだ」

「ふうん、夜中に作って朝帰るの?」

「あ……いや…そ、そ、その……最初は夕方作って帰っていたんだ。でも怪我した彼女と長女が夜勤の時、子ども二人になるので僕が留守番をしていたんだ」

「ほお、おいくつの子供なのかしら?香水にキスマークなんて」

「……そ、それは、子ども二人は10歳と13歳の男の子だから違うよ」

「だったらその怪我した女性?それとも長女?」

「………長女」

「へえ、やっと認めたのね」

「ち、違うんだ!愛しているとかではないんだ。ただ彼女達は娼婦で……その……好きでもない男に抱かれる毎日で辛いと言って……僕にその、気持ち悪い男達のことを忘れさせて欲しいと頼まれたんだ」

「へえ~」

「そ、それで、…あ、でも、本番はしてない!添い寝を頼まれていたんだ」

「……まあ、だったら仕方がないわよね?添い寝ってキスマークもつくのね」

「そ、そうなんだ。中には入れてない。だから帰ると我慢できなくてユウナを抱いていたんだ」

「うん、よくわかったわ」

わたしはドアノブを回して扉を開けた。

「アッシュ、さようなら」
わたしは「バタンっ!」と、扉を閉めてそのまま走って街の方へと駆け出していた。

気持ち悪い、気持ち悪い。

他の女を寸前まで抱いて、性欲の捌け口でわたしを抱いていたなんて……

吐き気と鳥肌で体が震える。
でもあの場所に居たくないし、アッシュが追いかけて来たら絶対に絶対に嫌なので、走り続けた。

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