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アッシュの言い訳。
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僕が朝帰りし始めた理由。
ユウナに何度聞かれても答えられなかった。
仕事帰り雨の中走って帰っていたら女性にぶつかり怪我をさせた。
名はサリファ。
40歳には見えない綺麗な人だった。
足から血が出ていた。
家が近いと聞いてそこまで肩を貸して連れ帰った。
家の中には10歳くらいの男の子ともう少し年上の男の子が二人留守番をしていた。
「お母さん、どうしたの?」
「僕とぶつかって転んだんだ、薬ある?」
「うん、ここにあるよ」
僕はとりあえず怪我の処置をして謝って帰った。
でも気になって次の日に食べ物を持って顔を出した。
そこには昨日いなかった女性がいた。
「あ……すみません、昨日サリファさんとぶつかって怪我をさせてしまったアッシュと言います。気になったので様子を見に来ました」
「あ、お母さんならもう大丈夫ですよ。仕事に行きました」
「そうですか、安心しました。お詫びにこれ貰ってください」
僕が仕事の合間に作ったカップケーキだった。
男の子達は嬉しそうに
「ありがとう」
と言ってさっさとパクパク食べていた。
「お兄ちゃん、これ美味しい」
「そうか、よかったよ、喜んでくれて」
「あ、姉ちゃん、このお兄ちゃんに頼もうよ」
「どうしたんですか?」
「電球を替えようとしていたんですが、ちょっと調子が悪いみたいで、今誰かに見てもらおうかと話ていたところなんです」
「僕でよければ見てみます」
厨房でよく電球の取り替えはしているので見てみると、線が外れかかっていた。
道具を借りて簡単に直すことができた。
「ありがとうございます」
女性の名はリリー。
サリファさんの娘で僕の一つ年上。
お礼にと出されたお茶をいただき少し三人と話をした。
父親は亡くなっていて、サリファさんとリリーが仕事をして生活を支えていた。
三人と仲良くなって時々料理を持っていくようになっていた。
四人と過ごす時間はとても良い居心地が良くて楽しかった。
だからと言ってユウナとの家庭がつまらないとか居心地が悪いわけではない。
ただみんなと話すのが楽しくてつい仕事帰りに寄ることが増えていた。
新しい友人が出来て楽しかっただけだ。
そんなある日、仲良くなってから知った二人の職業。
二人は交代で仕事に出掛けていたので知らなかった。
昼間も夜も営業している娼館で働いていた。
たまに二人とも夜仕事に行くと二人の子どもが心配なんだと言ったので僕が二人の時は泊まるよと軽く言ってしまった。
特に何も考えず、気楽に言ったつもりだった。
そして本当にたまに泊まるようになった。
ユウナに事情を説明すればいいのだが本当のことを言っても信じてもらえそうにないし、あの家族と過ごす時間は僕の息抜きにもなるのでなんとなく言いたくなかった。
サリファさんとリリーとの仲より、二人の男の子との方が仲が良かった。
弟が出来たみたいで楽しくて、仕事のストレスも彼ら二人と会うと癒された。
だから決して浮気ではなかった。
サリファさんとリリーとはそこまで関わっていなかった。
だけど、僕が泊まった日、トイレで目が覚めて彼らの部屋から出るとリリーが早くに帰宅していたみたいで泣いていた。
聞くと、酷い客に乱暴に抱かれて辛かったらしい。
僕は何も言えず黙っていると
「少しでいいので抱きしめて欲しい」
と頼まれた。
「それは、ちょっと……僕には愛する妻がいるので」
「お願い、辛いの」
涙ながらに頼まれて彼女を優しく抱きしめた。
小刻みに震えるリリー、僕はユウナだけを愛しているのにこの時だけはユウナのことを忘れていた。
そしてたまに泊まりに行くとリリーはなぜかその時だけは早く仕事から上がって来て、僕に抱きしめて欲しいと懇願するようになった。
最初はやんわりと断っていたが別に変なことをするわけでもないので、抱きしめてあげていた。
それがいつの間にか添い寝するようになり、気がつけば彼女は僕に抱きついたまま寝ることが増えた。
もちろん抱いてしまいたくなる時もあった。
でもユウナが好きな僕にはリリーを抱くことは出来なかった。
だから家に帰るとユウナを抱き潰した。
リリーからの誘惑に抗い続けた。
まさかキスマークがついているなんて思ってもみなかった。
香水のこともあまり深く考えていなかった。
何度かそれとなくユウナが
「ねえ、アッシュ、何か隠し事はない?」
と聞いて来たけど適当に誤魔化していた。
それがいけなかった。その時、リリーに会いに行くのをやめていれば良かった。
朝目が覚めると離婚届だけを置いてユウナは居なくなっていた。
「嘘をついたら出て行く!」
ユウナは結婚前から言っていた。
でも僕は嘘は吐いていない。
ただ黙っていただけだ。
それに浮気はしていない。
リリーと添い寝をしていただけ。
たまにキスをねだられたが絶対にしなかった。
抱いていない、中に入れていない。
もしかして……中に入れていない。
と言ったのがまずかったのか……
僕は本当に添い寝しただけで彼女と一切そういう性的な行為はしていないんだ!
ただ男だからそれなりにモヤモヤする。
だから帰ると激しくユウナを抱いてしまう。
でもそれはユウナだけを愛しているからだ。
キスマークに関しては僕は全く身に覚えがない。
ユウナが出て行った後、リリーに聞くと僕が寝ている隙にユウナにわかるようにつけていたと知った。
添い寝をしていた僕は、浮気ではないけど浮気だと思われるのが怖くてユウナにもユウナの兄ちゃんのリュウにも本当のことが言えなかった。
僕の甘さが狡さがユウナとの関係を壊してしまった。
でもそれでもユウナが好きなんだ。別れられない。
ユウナに何度聞かれても答えられなかった。
仕事帰り雨の中走って帰っていたら女性にぶつかり怪我をさせた。
名はサリファ。
40歳には見えない綺麗な人だった。
足から血が出ていた。
家が近いと聞いてそこまで肩を貸して連れ帰った。
家の中には10歳くらいの男の子ともう少し年上の男の子が二人留守番をしていた。
「お母さん、どうしたの?」
「僕とぶつかって転んだんだ、薬ある?」
「うん、ここにあるよ」
僕はとりあえず怪我の処置をして謝って帰った。
でも気になって次の日に食べ物を持って顔を出した。
そこには昨日いなかった女性がいた。
「あ……すみません、昨日サリファさんとぶつかって怪我をさせてしまったアッシュと言います。気になったので様子を見に来ました」
「あ、お母さんならもう大丈夫ですよ。仕事に行きました」
「そうですか、安心しました。お詫びにこれ貰ってください」
僕が仕事の合間に作ったカップケーキだった。
男の子達は嬉しそうに
「ありがとう」
と言ってさっさとパクパク食べていた。
「お兄ちゃん、これ美味しい」
「そうか、よかったよ、喜んでくれて」
「あ、姉ちゃん、このお兄ちゃんに頼もうよ」
「どうしたんですか?」
「電球を替えようとしていたんですが、ちょっと調子が悪いみたいで、今誰かに見てもらおうかと話ていたところなんです」
「僕でよければ見てみます」
厨房でよく電球の取り替えはしているので見てみると、線が外れかかっていた。
道具を借りて簡単に直すことができた。
「ありがとうございます」
女性の名はリリー。
サリファさんの娘で僕の一つ年上。
お礼にと出されたお茶をいただき少し三人と話をした。
父親は亡くなっていて、サリファさんとリリーが仕事をして生活を支えていた。
三人と仲良くなって時々料理を持っていくようになっていた。
四人と過ごす時間はとても良い居心地が良くて楽しかった。
だからと言ってユウナとの家庭がつまらないとか居心地が悪いわけではない。
ただみんなと話すのが楽しくてつい仕事帰りに寄ることが増えていた。
新しい友人が出来て楽しかっただけだ。
そんなある日、仲良くなってから知った二人の職業。
二人は交代で仕事に出掛けていたので知らなかった。
昼間も夜も営業している娼館で働いていた。
たまに二人とも夜仕事に行くと二人の子どもが心配なんだと言ったので僕が二人の時は泊まるよと軽く言ってしまった。
特に何も考えず、気楽に言ったつもりだった。
そして本当にたまに泊まるようになった。
ユウナに事情を説明すればいいのだが本当のことを言っても信じてもらえそうにないし、あの家族と過ごす時間は僕の息抜きにもなるのでなんとなく言いたくなかった。
サリファさんとリリーとの仲より、二人の男の子との方が仲が良かった。
弟が出来たみたいで楽しくて、仕事のストレスも彼ら二人と会うと癒された。
だから決して浮気ではなかった。
サリファさんとリリーとはそこまで関わっていなかった。
だけど、僕が泊まった日、トイレで目が覚めて彼らの部屋から出るとリリーが早くに帰宅していたみたいで泣いていた。
聞くと、酷い客に乱暴に抱かれて辛かったらしい。
僕は何も言えず黙っていると
「少しでいいので抱きしめて欲しい」
と頼まれた。
「それは、ちょっと……僕には愛する妻がいるので」
「お願い、辛いの」
涙ながらに頼まれて彼女を優しく抱きしめた。
小刻みに震えるリリー、僕はユウナだけを愛しているのにこの時だけはユウナのことを忘れていた。
そしてたまに泊まりに行くとリリーはなぜかその時だけは早く仕事から上がって来て、僕に抱きしめて欲しいと懇願するようになった。
最初はやんわりと断っていたが別に変なことをするわけでもないので、抱きしめてあげていた。
それがいつの間にか添い寝するようになり、気がつけば彼女は僕に抱きついたまま寝ることが増えた。
もちろん抱いてしまいたくなる時もあった。
でもユウナが好きな僕にはリリーを抱くことは出来なかった。
だから家に帰るとユウナを抱き潰した。
リリーからの誘惑に抗い続けた。
まさかキスマークがついているなんて思ってもみなかった。
香水のこともあまり深く考えていなかった。
何度かそれとなくユウナが
「ねえ、アッシュ、何か隠し事はない?」
と聞いて来たけど適当に誤魔化していた。
それがいけなかった。その時、リリーに会いに行くのをやめていれば良かった。
朝目が覚めると離婚届だけを置いてユウナは居なくなっていた。
「嘘をついたら出て行く!」
ユウナは結婚前から言っていた。
でも僕は嘘は吐いていない。
ただ黙っていただけだ。
それに浮気はしていない。
リリーと添い寝をしていただけ。
たまにキスをねだられたが絶対にしなかった。
抱いていない、中に入れていない。
もしかして……中に入れていない。
と言ったのがまずかったのか……
僕は本当に添い寝しただけで彼女と一切そういう性的な行為はしていないんだ!
ただ男だからそれなりにモヤモヤする。
だから帰ると激しくユウナを抱いてしまう。
でもそれはユウナだけを愛しているからだ。
キスマークに関しては僕は全く身に覚えがない。
ユウナが出て行った後、リリーに聞くと僕が寝ている隙にユウナにわかるようにつけていたと知った。
添い寝をしていた僕は、浮気ではないけど浮気だと思われるのが怖くてユウナにもユウナの兄ちゃんのリュウにも本当のことが言えなかった。
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