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アッシュとの再会は?
しおりを挟む「ユウナってやっぱり……」
みんなが私の顔を一斉に見た。
「………はあー、………は、はい」
わたしは渋々頷いてみせた。
でもわたしはみんなに人差し指を唇に当てて
「シーッ」
と静かに言った。
みんなもなんとなくわかってくれたのか黙ってくれた。
よし、わたしが此処にいること気づいていない。
アッシュよ、気づかず去っていけ!
なのにまだロリーとアッシュは食堂で話を続けた。
「アッシュ兄、あれ何?あんな女に入れ上げていたの?」
「……同情しただけだ」
「はあ……ユウナが可哀想、あんな気持ち悪い勘違い女のせいで傷つくなんて」
ーーロリー、ありがとう。わたしの気持ちを代弁してくれて
「あの変な女、また来るかもしれないね、どうするの?」
「…………ハッキリと言ったつもりだ。でも、ここには迷惑はかけられない……」
ロリーは冷たい目でアッシュを見ていた。
「やめるつもりだ」
「そうだね、あんな変な女にうろうろされたら迷惑だ」
ーーえ?アッシュやめるの?
「早めに出て行くよ」
アッシュは厨房をチラッと見てみんなに
「お騒がせしてすみません、ご迷惑をおかけしました」と言って出て行った。
わたしは咄嗟にしゃがみ込んだので、たぶん、うん、気づかれなかったと思う。
そして数日後アッシュは侯爵家をやめて出て行くことになった。
わたしは一度も彼と顔を合わせることがなかった。
さよなら、アッシュ。
もう二度と会うことはない、馬鹿な女に引っかからないことを願うわ。
◇ ◇ ◇
ユウナが侯爵邸の騎士団で働いていることに気がついていた。
でも彼女に気づかないフリをしていた。
だって今さら会っても彼女が困るだろうから。
ここに来たのは偶然だった。
伯爵家をやめて街を出て行こうとした時、ポールが侯爵家で働く料理人に友人がいて、いま人手不足だからと紹介してくれたのだ。
侯爵家で働き出してすぐに、厨房で用事で来たユウナの姿を見つけた。
僕の背中を見て気がついたユウナは咄嗟に隠れた。
でも、僕はわかったんだ。
ユウナの気配に。そして彼女の甘い優しい匂いに。
彼女は香水をつけない。
でもいつも石鹸の優しい匂いをさせている。
ユウナの優しい匂いに僕は涙が出そうになった。
こんな偶然があるのか?
離婚して街を出た。
全てを捨てて新しい暮らしを求めた。
なのに振り返ればユウナがいる。
でも振り返らない。
ユウナは新しい生活を始めているんだ。
僕は何があっても気づかないフリをしようと決めた。
そして、その数日後ロリーが現れた。
ロリーは僕に言った。
「ユウナは新しい生活を始めたんだ、関わらないであげて」
「わかってる、偶然なんだ」
「うん、だってアッシュ兄は僕がここで働いていることは知らないはずだから」
「ユウナはロリーの紹介?」
「久しぶりにユウナに会いにレストランに行ったらユウナが落ち込んでてアッシュ兄の浮気の話を聞いたんだ、だから家を出ることを勧めた」
「そっか、僕が馬鹿だったんだ」
「そうだね、ユウナを悲しませたんだ、もうこれ以上ユウナを惑わせないで」
「紹介で入ったからすぐにはやめられない。でも早めに他へ行くつもりだ……それまでは僕はユウナには気が付かないフリをするつもりなんだ」
「わかった……じゃあ、行くね」
自分の甘さが全てを失った。
ユウナからの愛情も温かい家庭も、親達からの信頼も友人も知人も……
そしてなんとか就職したここも早くやめなければ……
そう思いながら仕事をしていたら、騎士団の人が僕に会いに来た。
「リリーさんという恋人が君に会いに来ているらしい、今は騎士団の食堂に待たせているから会いに行って!」
僕は一瞬何を言われたかわからなかった。
「リリー?」
「え?君の恋人だろう?わざわざ遠くから君に会いに来たらしい」
「………とにかく会ってきます」
ふざけんな!何が恋人だ!
リリーの見た目に儚い女性だと勘違いして同情したのは確かだ。
でも一度も恋人になった覚えはない。
僕が食堂に行こうと歩いているとロリーが話しかけてきた。
「アッシュ兄の恋人が来ているって聞いたんだ」
「違う、離婚の原因になったリリーだ、決して恋人なんかじゃない」
「ふうん」
ロリーの疑いの目に言い訳をしても無駄だと思いながら急いで騎士団の食堂へ向かった。
ユウナがそこで働いている。
これ以上嫌な思いをさせたくない。
食堂には一人でまったりとお茶を飲むリリーが座っていた。
そして訳のわからないことを言い出す。
厨房にユウナの姿を見つけた。
でも気づかないフリをした。
リリーとの会話を聞かれている。
早く終わらせてリリーを追い出さないと、ユウナをこれ以上傷つけたくない。
焦りながらも追い返すことに成功した。
ユウナに聞こえるように
「お騒がせしてすみません、ご迷惑をおかけしました」と厨房のみんなに向かって言って出て行くことにした。
そして数日後僕は侯爵邸での仕事をやめて出て行くことにした。
門の影にユウナの姿に気がついた。
ユウナの石鹸の優しい匂いがした。
これで、もうユウナに会うことはない。
最後までユウナに気づかないフリをして門を出た。
ユウナの優しい石鹸の匂いに見送られながら……
ユウナ、ごめん、最後まで君に謝ることができなかった。
幸せにすると誓ったのに……
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