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第22話

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アイシャが行方不明になってから三日目。

 エマもジャンもエリック殿下もルイズも見つけることが出来なかった。

 そこに急ぎ帰ってきたウィリアムも合流してまだ見落としたところがあるのではと町や宿、民家を訪ね歩いた。

 アイシャの身体では遠くには行けないはず。
 それだけは確信していた。

 それ程身体が弱っていたからだ。

 その日何故かキリアンがグズって泣いた。

「おねぇたん、いくぅ」
 いくらサラが宥めすかしてもエマが抱っこしても泣き止まなかった。

「おねぇたん、だぁめ」

 アイシャを求めて泣き続けた。

 ゴードンもアイシャを探しに町へ行くことにしていたが、一旦エマの家へ立ち寄っていた。

「キリアンが泣き続けているのか………聞き分けの良いキリアンが泣きやまないなんておかしい……」

 ゴードンはキリアンをじっと見つめて聞いた。

「キリアン、一緒に探したいのか」

 キリアンはゴードンの言葉に頷いた。

「あい」

「キリアンはアイシャ嬢が心配なんだな」

 そしてエマの反対も聞かずにゴードンはキリアンを連れて行ってしまった。

「先生、キリアンを連れて行ったら足手纏いにしかならないのに……」
 エマは溜息を吐きながらも、
「わたしももう一度探してくるわ」
 と言ってゴードンの後を追った。






 ゴードンは焦っていた。
 ルビラ王国から来てくれたリサとカイザなら『癒し』の魔法と時間を少しの間止める事が出来る『時』の魔法でアイシャを助ける事が出来る。

『癒し』をかけ少しずつ『時』を止めてアイシャの体の負担を減らし、ルビラ王国へ連れて行く。

 そして二人の魔法と医療技術を駆使すれば心臓手術をする事が出来る。
 今ある中の最大限の治療法だ。

 でも二人が我が国にいるのは今日まで。
 今日までに見つけ出さなければ明日には二人は帰ってしまう。

 そんな焦りの中のキリアンの異常な泣き方。
 キリアンにはアイシャ嬢の何かが見えているのか、ふとそんな馬鹿な気持ちになった。

 だからキリアンを連れて捜索することにしたのだった。

 キリアンはゴードンに抱かれている間

「おねぇたん、だぁめ」とか
「おねぇたん、ねんね」とか

 意味がないようなでもわかって言っているような不思議な気持ちに襲われた。

「キリアンはアイシャ嬢が何処にいるのかわかるのか?」

「あーい」
 と、嬉しそうに返事をした。

 時間がない中でキリアンに思わず縋ってみたい気持ちになった。

「ハウザー様、その子はどうされたのですか?」

 エリック殿下が聞いてきた。

「この子はエマの子どもです。
 アイシャ嬢ととても仲良しだったんですよ、キリアンがアイシャの居所を見つけてくれそうな気がするんです」

 ゴードンの話に少し呆然としていたが

「子どもだと侮るよりも彼にしか見えないものがあるのかもしれないですよね、僕が抱っこを代わります」
 と言ってゴードンからキリアンをもらい抱っこする。

「キリアン、アイシャを一緒に助けてくれるかい?」

「あい!」
 キリアンは返事をすると、右に曲がるように指差した。

「あっちは宿が沢山あるところだ。昨日も探した場所なんだよ」

 エリックの言葉にキリアンは
「めっ!」
 と言って怒ってやはり右に曲がるように指差してエリックをじっと見つめた。

「右に曲がるんだね、わかった。行こう」

 キリアンの言葉に促されるように宿の方にゴードンとエマや騎士達も向かった。

 沢山の宿屋が並ぶ道を歩いていると、キリアンは指を差した。

「おねぇたん!おねぇたん!」

 昨日も訪れた宿屋の前で、キリアンは嬉しそうに何度もアイシャを呼んだ。

「もう一度探してみましょう」

 エリックは、みんなに言うとダメ元で探してみようと言うことになり、宿屋を訪ねた。

 宿屋の主人は「またか」と言う顔をしたが、王族や貴族達の手前、嫌な顔も出来ず「どうぞ」と受け入れた。

 今日は泊まっている客一人一人の部屋も見てみたいと主人に頼み、主人について来てもらった。

 流石に一度は「それはちょっと…」と断られたが、エリック殿下は自分の身分を告げた。

 すると主人はぺこぺこと頭を下げて、ついて回ることも一部屋一部屋訪ねることも了承した。

 だが、キリアンは部屋の前に行くと

「いや!」
 と言ってイヤイヤをする。


 何部屋も同じことを繰り返して未だに一部屋も訪ねさせてはくれない。

 そんな中キリアンが嬉しそうに
「おねぇたん!」と言って下ろせ!と体をバタバタさせ始めた。

 暴れて落ちると危ないのでエリックが慌ててキリアンを下ろした。

 キリアンはドアをバンバン叩き始めた。

 ドアが開いたと思ったらその隙間からキリアンは入って行った。

「おねぇたん、おねぇたん、だぁっこぉ」
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