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2話

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アンと孤児院へ行くことになった。

公爵家の護衛騎士4人とわたし、侍女のアン、それからリザがついて来てくれた。

孤児院は屋敷から馬車で20分程かかった街外れにあった。
わたしは実はこの孤児院には、死ぬ前の半年間通い詰めていた。

父親から軟禁状態にあっている間に、部屋の抜け道を見つけ、外を出て回っていた。
たまたま知り合った子に連れてこられたのがこの孤児院だった。

なんとなく暇だったのでいつも通っていた。
子ども達に本の読み聞かせをしたり字を教えてあげた。
そして簡単な計算も教えていた。

孤児院の子にとって字を読めて書けることは生きていく上で役に立つのだ。

先生たちも忙しくなかなか教えられないので助かると言っていた。


今度はわたしが笑い方を習うのか。

確かに前回の人生で、笑わないといけないと思ったことがなかった。 
もちろん怒ることも悲しいと思ったこともあまりない。

友人二人と話さない時や会えない時は何か物足りなくて、会えると何故か心が踊った。

あれは嬉しいという感情に近いものなのかもしれない。

前回の記憶があるわたしからすると、孤児院の先生達は若くなっていて、子ども達はほとんど知らない子達だった。

その中に3歳の男の子がいた。

名前はカンジス。わたしがこの孤児院に通うきっかけになった子だ。

カンジスは赤ちゃんの時に孤児院の前に捨てられていた男の子。
金色の髪にミルクブラウンの瞳、13歳なのにとても聡明な子で、綺麗な顔立ちで女の子かと思うほど華奢だった。
道で倒れているのを助けたのがきっかけだった。

破落戸に財布を盗られたらしく、抵抗して身体中あざだらけで必死で抵抗したことが伺えた。

わたしは軟禁状態だったのでバレないようにカツラを被りメイクを変えて抜け道から屋敷を出て道を歩いていた。

彼に孤児院へ連れていって欲しいと頼まれたので、彼を肩に掴まらせて引きずるように孤児院まで運んだ。

彼を孤児院の大人達に託して帰るつもりだったが小さな子に手を握られて連れて行かれて、わたしは気がつけば子ども達と遊んでいた。
と言っても本を読んであげるだけだった。

帰ろうとすると
「また来てね」
と何人もの子どもに言われた。

わたしは屋敷を抜け出し、市井で暮らすための準備をするつもりで街に出ていた。

でも気がつけば孤児院に通う毎日だった。

屋敷を抜け出して近くの馬車乗り場へ行き、孤児院の近くに降ろしてもらっていた。

そしてそこで子どもたちと過ごした。
わたしは、何故自分がそこへか通うのかわからなかった。
ただ、そこへ行けばホッとして落ち着くのだ。

子ども達といる時は王太子殿下のことを考えなくて済む。
お父様のことも考えなくて済む。 

わたしは二人のことを諦めていた。

だから、街に出て一人で暮らすための家探しをするつもりだった。

でも宝石を売り寄付をして孤児院で先生をして暮らすのもいいかなと思い始めていた。

なのに殿下に無理矢理王宮に連れて行かれ、なんの罪もないわたしを処刑した。

捕まってから処刑までが早かった。

わたしはお父様様に軟禁されていたから知らなかったが、わたしは殿下の愛する人を殺そうとしたらしい。

全く知らない。身に覚えもない。
というか、わたしは全く殿下を愛してなどいなかった。
だから、どうしてわたしが殿下の愛する人を殺さないといけないのかわからない。






わたしは3歳の男の子を見て
「カンジス…」
と名前を呼んだ。
カンジスはわたしを見て首を傾げていた。

わたしが知るはずのない名前を呼んだのだ。

アンもリザもキョトンとしていた。

周りにいる先生達も驚いていた。

「お嬢様?」

「あ、ごめんなさい。この子の顔を見たら何故かそんな名前が出てきたの、この子の名前は何と言うの?」
と慌てて誤魔化した。

わたしは、子どもながらに表情がないので焦っていても相手にはわからなかった。

「あ、この子の名前はカンジスです。まさか当てるとは…」
先生達は驚いていた。

「そうなのですか?」
わたしは興味なさげに他所を向いた。

内心ドキドキだったが6歳の女の子だし公爵令嬢なのでこれ以上の追及はなかった。

そしてアン達に誘われて子ども達と鬼ごっこという遊びをした。
ひたすら走り回った。

体は6歳だが中身は16歳のわたしにこれを楽しめとは所詮無理。適当に走り掴まらないように適当に逃げた。
鬼になると追いかけ回さないといけなくなるのでそれだけは勘弁して欲しかった。

鬼ごっこが笑う勉強だとは思わなかった。

いや、無理だろう。

笑えなかった。



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