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入院中です。イリーンさん①
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一週間も意識不明の状態が続き眠り続けていた。
わたしは疲れていたのだろう。
毎日お金のこととお父様のこと、領地のこと、他にも色々考えないといけないことも多いし、仕事も始めて半年経ったところで、やっと少し覚えて来たけど、慣れない仕事で心も疲れ切っている。
そして、やはりお父様が働き出したので、張っていた気が緩んでしまった。
もう一人で踏ん張らなくてもなんとかなる。
そう思ったのがいけなかった。
体が鉛のように重い。
『セスティ、ごめんな。君に辛い思いをさせて、守ってあげるつもりだったのに守ってあげられなかった』
誰?
聞いたことがある懐かしい声。
こんな優しくわたしに話しかけてくれる人なんていないのに。
お母様、わたし、疲れちゃったよ、もうそっちに行ってお母様とゆっくり過ごしたい。
お母様がわたしに微笑んでくれた。
やっと会えた。
ずっとずっと会いたかったお母様。
わたしを抱きしめて「セスティ、苦労をかけてごめんね」とわたしの頭を撫でてくれた。
「お母様、わたしねずっと辛かったの。お父様が辛いのはわかっていたのよ、でも生きていくには泣いてばかりではいられなかった。だから泣かないで必死でお父様とカムリを守ろうと思ったの」
「お父様はセスティに苦労をかけて、辛い思いをさせたのね、ごめんなさい」
お母様は夢の中で悲しそうにしていた。
「ゆっくりわたしのそばで過ごしたい?セスティ?しばらくここでゆっくりするといいわ」
わたしは、ずっとこのあったかい夢の中で過ごすことにした。
何も考えず、何もしないで……
そう、このままずっとお母様と一緒に………
◇ ◇ ◇
「セスティ・アイバーンが意識を失ってもう一週間すぎています。このままでは彼女は死んでしまうのではないのですか?」
イリーンは毎日セスティの見舞いに来ていた。
ベッドに眠るセスティ・アイバーンの顔色は悪く、ただ息をしているだけのように見えた。
半年前学園を卒業したばかりの少女が財務管理課の職員として入って来た。
サラサラのピンクゴールドの長い髪が腰まで伸びていて、18歳にしては小柄で細く、とても可愛い顔をした女の子。
庇護欲を誘うあどけない笑顔、周りの男どもはみんなチラチラとセスティ・アイバーンのことを気にかけている。
そこにいるだけでみんなが注目してしまう女の子、この子は自分の魅力をわかっていてそれを武器にしている感じの悪い子だと思った。
所長に訳ありなので面倒を見るように頼まれた。
訳あり?
それはこの子のあざとい性格のこと?
こんな子の面倒なんて無理だわ。
厳しくすれば彼女が所長に泣きついてさっさとわたしはお役御免になるかしら?
わたしは徹底的に厳しい態度で彼女を指導した。
みんなにニコニコ笑顔で対応する。
もちろんわたしにも嫌な顔もせずどんなに理不尽なことを言っても、頑張って仕事をこなしてくる。
周りは可哀想になり庇ってあげたりするが、その態度はあざとくずるいからではない。
本当にこの子には出来ない仕事をわたしが押し付けているから周りが助けているのだ。
周りが助けなければ、セスティ・アイバーンは人に尋ねながらでもなんとか自分で仕事をこなしてくる。
この子は本当に優秀なのだ。
一度聞いたことは完全に覚えているし、周りの空気や動きもわかって行動している。
仕事が忙しくピリピリ空気の時に、笑顔でみんなにお茶を淹れて配って、部屋中の嫌な空気を変えてしまう。
セスティ・アイバーンがいるだけで、空気が優しく変わるのだ。
「どうしてセスティ・アイバーンは能力があるのに、あんなあざとい態度をとっているのかしら?」
わたしがボソッと呟いたのを聞いて、所長が昼休みわたしに話しかけて来た。
「あの子は王太子殿下の婚約解消の時に何もしていないのに、婚約者の令嬢に濡れ衣を着せられて、殿下に媚びて婚約者から殿下を奪った男爵令嬢にさせられたんだ。その所為で自分の婚約者からも婚約解消されてしまったんだ、殿下がセスティ・アイバーンは何もしていないときちんと説明されたが、彼女の周りに人が戻ることはなかったらしい。ずっと一人で学園で過ごして来たんだ、それに母親が亡くなり父親は働かない、最近の不天候で領地の不作であの子は大変苦労しているらしいんだ」
「だからあの子はにこにこしていてもどこか影があるんですね、人を信用していないし深くは関わろうとしませんものね」
「だから、君に頼んだんだよ、あの子に男達の所為でこれ以上嫌な思いをさせたくないからね。
見た目の可愛さで周りがチヤホヤすれば、またあの子は周りからキツく当たられるだろう?」
「そうですね、あの子の見た目は可愛くて庇護欲を誘いますもの」
「見た目とは違い中身はかなり優秀なんだけどね、馬鹿なフリをしているけどね」
「そうですね、一度教えたことはきちんと覚えていて失敗などしません。それをみんなに悟られないようにしていますけどね」
「自分を守るために馬鹿なふりをするしかないんだと思うよ、あの子なりにここでどう過ごすべきか考えてのことだろう」
わたしはセスティ・アイバーンの話を聞いても特に同情することはなかった。
でも彼女を色眼鏡で見ることなく、この子の能力をきちんと見極めて、伸ばしてあげたいと思った。
だから今まで以上に厳しくすることにした。
わたしは疲れていたのだろう。
毎日お金のこととお父様のこと、領地のこと、他にも色々考えないといけないことも多いし、仕事も始めて半年経ったところで、やっと少し覚えて来たけど、慣れない仕事で心も疲れ切っている。
そして、やはりお父様が働き出したので、張っていた気が緩んでしまった。
もう一人で踏ん張らなくてもなんとかなる。
そう思ったのがいけなかった。
体が鉛のように重い。
『セスティ、ごめんな。君に辛い思いをさせて、守ってあげるつもりだったのに守ってあげられなかった』
誰?
聞いたことがある懐かしい声。
こんな優しくわたしに話しかけてくれる人なんていないのに。
お母様、わたし、疲れちゃったよ、もうそっちに行ってお母様とゆっくり過ごしたい。
お母様がわたしに微笑んでくれた。
やっと会えた。
ずっとずっと会いたかったお母様。
わたしを抱きしめて「セスティ、苦労をかけてごめんね」とわたしの頭を撫でてくれた。
「お母様、わたしねずっと辛かったの。お父様が辛いのはわかっていたのよ、でも生きていくには泣いてばかりではいられなかった。だから泣かないで必死でお父様とカムリを守ろうと思ったの」
「お父様はセスティに苦労をかけて、辛い思いをさせたのね、ごめんなさい」
お母様は夢の中で悲しそうにしていた。
「ゆっくりわたしのそばで過ごしたい?セスティ?しばらくここでゆっくりするといいわ」
わたしは、ずっとこのあったかい夢の中で過ごすことにした。
何も考えず、何もしないで……
そう、このままずっとお母様と一緒に………
◇ ◇ ◇
「セスティ・アイバーンが意識を失ってもう一週間すぎています。このままでは彼女は死んでしまうのではないのですか?」
イリーンは毎日セスティの見舞いに来ていた。
ベッドに眠るセスティ・アイバーンの顔色は悪く、ただ息をしているだけのように見えた。
半年前学園を卒業したばかりの少女が財務管理課の職員として入って来た。
サラサラのピンクゴールドの長い髪が腰まで伸びていて、18歳にしては小柄で細く、とても可愛い顔をした女の子。
庇護欲を誘うあどけない笑顔、周りの男どもはみんなチラチラとセスティ・アイバーンのことを気にかけている。
そこにいるだけでみんなが注目してしまう女の子、この子は自分の魅力をわかっていてそれを武器にしている感じの悪い子だと思った。
所長に訳ありなので面倒を見るように頼まれた。
訳あり?
それはこの子のあざとい性格のこと?
こんな子の面倒なんて無理だわ。
厳しくすれば彼女が所長に泣きついてさっさとわたしはお役御免になるかしら?
わたしは徹底的に厳しい態度で彼女を指導した。
みんなにニコニコ笑顔で対応する。
もちろんわたしにも嫌な顔もせずどんなに理不尽なことを言っても、頑張って仕事をこなしてくる。
周りは可哀想になり庇ってあげたりするが、その態度はあざとくずるいからではない。
本当にこの子には出来ない仕事をわたしが押し付けているから周りが助けているのだ。
周りが助けなければ、セスティ・アイバーンは人に尋ねながらでもなんとか自分で仕事をこなしてくる。
この子は本当に優秀なのだ。
一度聞いたことは完全に覚えているし、周りの空気や動きもわかって行動している。
仕事が忙しくピリピリ空気の時に、笑顔でみんなにお茶を淹れて配って、部屋中の嫌な空気を変えてしまう。
セスティ・アイバーンがいるだけで、空気が優しく変わるのだ。
「どうしてセスティ・アイバーンは能力があるのに、あんなあざとい態度をとっているのかしら?」
わたしがボソッと呟いたのを聞いて、所長が昼休みわたしに話しかけて来た。
「あの子は王太子殿下の婚約解消の時に何もしていないのに、婚約者の令嬢に濡れ衣を着せられて、殿下に媚びて婚約者から殿下を奪った男爵令嬢にさせられたんだ。その所為で自分の婚約者からも婚約解消されてしまったんだ、殿下がセスティ・アイバーンは何もしていないときちんと説明されたが、彼女の周りに人が戻ることはなかったらしい。ずっと一人で学園で過ごして来たんだ、それに母親が亡くなり父親は働かない、最近の不天候で領地の不作であの子は大変苦労しているらしいんだ」
「だからあの子はにこにこしていてもどこか影があるんですね、人を信用していないし深くは関わろうとしませんものね」
「だから、君に頼んだんだよ、あの子に男達の所為でこれ以上嫌な思いをさせたくないからね。
見た目の可愛さで周りがチヤホヤすれば、またあの子は周りからキツく当たられるだろう?」
「そうですね、あの子の見た目は可愛くて庇護欲を誘いますもの」
「見た目とは違い中身はかなり優秀なんだけどね、馬鹿なフリをしているけどね」
「そうですね、一度教えたことはきちんと覚えていて失敗などしません。それをみんなに悟られないようにしていますけどね」
「自分を守るために馬鹿なふりをするしかないんだと思うよ、あの子なりにここでどう過ごすべきか考えてのことだろう」
わたしはセスティ・アイバーンの話を聞いても特に同情することはなかった。
でも彼女を色眼鏡で見ることなく、この子の能力をきちんと見極めて、伸ばしてあげたいと思った。
だから今まで以上に厳しくすることにした。
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