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21話

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帰る最後の一週間は、アリシアが俺を離さなかった。

「にいたん、にいたん」
と可愛い笑顔で話しかけて来るので、俺はつい甘やかしてしまう。

「アリシア、今日は何をする?」

「ほん、ほん、よむの」

俺はアリシアを膝の上に座らせて、絵本を読んであげた。

アリシアは絵本をじぃっと見つめて、絵本の世界に入ってしまっているのか、返事もせずに見入っている。

俺はそれが面白くて途中で話の内容を勝手に変えて読んでいると、
「にいたん、ちがう!めっ!」
と怒り出す。
2歳でも話の内容はしっかり覚えているみたいだ。

アリシアとこんなに一緒に居たのは初めてだった。

父上が俺たちのそばに来てニコニコと話しかけてきた。

「アラン、お前もそろそろ結婚を考えてもいい年だろう?君に釣書が来ているんだ。どう思う?」

「俺にですか?俺は平民ですよ?」

俺に縁談なんて来るはずがないと否定した。

「アラン、君は優良物件として捉えられているんだ」

「何処がですか?何も持たない俺なのに」

「君は元侯爵令息でいずれ公爵当主になる男だ。高位貴族達が放っておくわけがないだろう」

「チッ」

俺は思わず舌打ちをした。

「平民のアランではなく公爵子息としてのアラン。そしてメアリーという毒母の息子で、グランデ侯爵の息子と偽って育てられた男。ラウル・ベルアートという色欲に負けて身を落とした男の隠し子。
………そんな俺になんの価値があるんですか?
俺を放っておいてください」


「にいたん、いいこ、ね?」
アリシアが俺のおかしな様子に気がついて、俺に抱きついてきた。

「アリシア、ごめんね。今日の絵本を読むのは終わりにしよう」
俺はアリシアを父上に渡して、部屋を出て行った。

「……アラン」

屋敷を出て、いつの間にか町をぶらぶらして歩いていた。

「アラン様?」

振り返るとフレアさんが、俺のおかしな様子に気づいて心配そうに話しかけてきた。

「フレアさん……」
俺は何故か彼女を抱きしめていた。




そしてそのまま彼女の部屋へ行き、初めて女の人を……。

愛しているわけでもない。

ただ誰かに縋りたかった。

俺をただの俺として見てくれる人はいるのだろうか。

「アラン様……」
フレアさんの甘い声に俺はハッとした。

彼女をベッドに押し倒してキスをしたが、そこで手を止めた。

こんな形で愛してもいない女性を勢いだけで抱くなんて、絶対にしないと誓っていた。

「すまない」
俺は急いで彼女から離れて、謝った。

「どうして?わたしは貴方のことが好きなんです。どうして止めるのですか?そんなにエイミー様が好きなんですか?」

フレアさんは涙を流しながら俺に抱きついてきた。

俺はその手をそっと離して、ベッドから離れた。

「俺はエイミーのことはなんとも思ってはいない。ただ好きでもない女を抱くのは嫌なんだ。君だってなんとも思われていない男に抱かれるなんて嫌だろう?」

「酷い。わたしは貴方が好きです。抱かれてもいいと思っています。それでは駄目ですか?」

「ごめん、俺は好きになった人でないと抱きたいと思わない。ずるいかもしれないが、俺は帰らせてもらう」

「いやあ!帰らないで!」
フレアさんが泣き叫んで俺に縋ろうとしたが、俺はそのまま振り返らずに家を出た。

屋敷に一旦戻ると、メイド長に会いに行った。

メイド長は50代の女性でしっかりしていて、怖いところもあるが話すと優しい人だ。

俺は先程のフレアさんとのことを正直に話した。

そして俺はこの屋敷から出て行くが、少し気にかけて欲しいことだけ伝えた。

そして詫びの手紙を渡して欲しいと頼んだ。

メイド長は
「うちのメイドが貴方にご迷惑をお掛けしてすみませんでした」
と頭を下げて謝られた。

「いえ、わたしが彼女に勢いだけで抱こうとしたんです。最低な男です」

「アラン様、フレアが貴方に迫っていたのはみんな知っています。貴方のことを好きになっていたのでしょうがそこまで愚かなことをしたとは……色仕掛けで迫ってすみませんでした」

「俺が悪いのです。もうこちらに伺うことは無いと思います。ご迷惑をおかけしました」

俺はルーベン様とシリル様に挨拶をして屋敷を出て行った。

みんなのせっかくの好意を俺は台無しにしてしまった。











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