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54話
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ふと気づくと俺の屋敷も賑やかになった。
元々いた三人の
サマンサとエレヌとガゼル。
おじちゃんおばちゃんの
シルマとセレン。
そして街で出会った
リベル。
隣の離れに住むガゼルの家族の妻と子ども二人。
ガゼルの息子は5歳でリベルになつき、いつもあとを追っかけてついて回っている。
俺は休みの時にみんなと昼食を賑やかに食べるのが楽しみになっている。
そこに何故か俺の休みを知っているジリニア侯爵が強制参加してくる。
最近はそのことを何処からか知って父上のレオナルドも参加してくる。
「アラン、今日はうちのシェフにチキンを焼いてもらってきたぞ」
当たり前のように彼専用の席があるジリニア侯爵は、当たり前のようにそこに座り、当たり前のようにみんなと食事をする。
「遅れてすまない」
父上が急いで来た。
もちろん……気の利くガゼルは父上の席も予め用意している。
「アランの大好物のローストビーフシェフに焼いて貰ってきた、たくさん持ってきたからみんなで食べよう」
本当にたくさん持ってきた。
みんな初めは侯爵家当主と同じ席に座るなど、そんな恐れ多いことは出来ないと席を立とうとしたが、この家は平民の家。
貴族のしきたりは気にしないで、無礼講で行こうと侯爵が言った。
もちろん侯爵家の使用人の前では絶対に出来ないことだ。
侯爵についてくる者は、執事一人だけ。
執事にも一緒に席に着いてもらい、本当にここだけの昼食会をしている。
父上の執事のロイは、ガゼルの父親でもある。ガゼルの父親のロイは渋い顔をしながらも可愛い孫とのひと時を楽しんでいる。
和やかな時間の中、侯爵が話し出した。
最近ジリニア侯爵夫人が不機嫌らしい。
「アランこの昼食会に妻が参加したいらしいのだがどう思う?」
「……この場所は侯爵夫人には相応しくない席だと思います。もちろんお二人にも。出来ればこられるべきではありません」
「アラン、僕は父親だ。君の暮らしを見る権利が僕にはある。だからこの席は僕の指定席なんだ」
俺は父上の必死な顔を見て苦笑いするしかなかった。
ジリニア侯爵は大体考え方が貴族的ではない。
だから平民の俺に娘と結婚させようとするのだと思う。
嫌な顔もせず俺たち平民の昼食に参加する貴族なんてまずいない。
まあ、一度も誘ったことはないのだが、勝手に来て無理やり食べていく。
でも俺は作った笑顔で心の中を探り合う貴族の世界より、貧しくてもみんなで分かち合い心温まる今の平民の生活のほうが好きだ。
もちろん金はないと困る。
でも今の生活なら贅沢さえしなければ十分生活していける。
だが、侯爵はイーゼ嬢との結婚を俺に求めている。
俺はイーゼ嬢に特別な感情はない。
でも別に嫌いではない。
今まで知り合った女性の中で好感が持てると思っている。
でも貴族令嬢、それも侯爵令嬢と平民の結婚などあり得ない。
「アラン、オレはいつも言うがお前が好きだ。だから結婚してくれ」
ジリニア侯爵のこのセリフ……
聞く人が聞けば、おっさんが俺に求婚しているように見える。
これも毎回のことなので、この席にいる者は皆知らんふりをして聞き流す。
「ジリニア侯爵、俺はイーゼ嬢と結婚はしません、と言うよりイーゼ嬢の方が嫌だと思いますよ」
このセリフももう何度言っただろう。
「だったら妻と娘も昼食会に参加させてもいいか?」
ほんと、この人、他人の話を聞かない。
「ハアー、もういいですよ、いつでも来てください」
侯爵夫人や令嬢を呼ぶような席ではない。
何度も断っているのにこの人はしつこい。
だが何故か憎めない。
そんな俺を見て父上は横で少し寂しそうにしていた。
父上は、普通で考え方も行動も貴族らしい貴族だ。
今この場だから一緒に食事をしているが、自分の屋敷ではまずあり得ないことだと思う。
でも父上の考えが普通の貴族なのだ。
ジリニア侯爵は、「じゃあ、次は三人で来るからな」と、嬉しそうに言って帰って行った。
「アラン、お前はあいつの娘と結婚するのか?」
俺は溜息を吐きながら父上に「俺は平民ですよ」と答えた。
元々いた三人の
サマンサとエレヌとガゼル。
おじちゃんおばちゃんの
シルマとセレン。
そして街で出会った
リベル。
隣の離れに住むガゼルの家族の妻と子ども二人。
ガゼルの息子は5歳でリベルになつき、いつもあとを追っかけてついて回っている。
俺は休みの時にみんなと昼食を賑やかに食べるのが楽しみになっている。
そこに何故か俺の休みを知っているジリニア侯爵が強制参加してくる。
最近はそのことを何処からか知って父上のレオナルドも参加してくる。
「アラン、今日はうちのシェフにチキンを焼いてもらってきたぞ」
当たり前のように彼専用の席があるジリニア侯爵は、当たり前のようにそこに座り、当たり前のようにみんなと食事をする。
「遅れてすまない」
父上が急いで来た。
もちろん……気の利くガゼルは父上の席も予め用意している。
「アランの大好物のローストビーフシェフに焼いて貰ってきた、たくさん持ってきたからみんなで食べよう」
本当にたくさん持ってきた。
みんな初めは侯爵家当主と同じ席に座るなど、そんな恐れ多いことは出来ないと席を立とうとしたが、この家は平民の家。
貴族のしきたりは気にしないで、無礼講で行こうと侯爵が言った。
もちろん侯爵家の使用人の前では絶対に出来ないことだ。
侯爵についてくる者は、執事一人だけ。
執事にも一緒に席に着いてもらい、本当にここだけの昼食会をしている。
父上の執事のロイは、ガゼルの父親でもある。ガゼルの父親のロイは渋い顔をしながらも可愛い孫とのひと時を楽しんでいる。
和やかな時間の中、侯爵が話し出した。
最近ジリニア侯爵夫人が不機嫌らしい。
「アランこの昼食会に妻が参加したいらしいのだがどう思う?」
「……この場所は侯爵夫人には相応しくない席だと思います。もちろんお二人にも。出来ればこられるべきではありません」
「アラン、僕は父親だ。君の暮らしを見る権利が僕にはある。だからこの席は僕の指定席なんだ」
俺は父上の必死な顔を見て苦笑いするしかなかった。
ジリニア侯爵は大体考え方が貴族的ではない。
だから平民の俺に娘と結婚させようとするのだと思う。
嫌な顔もせず俺たち平民の昼食に参加する貴族なんてまずいない。
まあ、一度も誘ったことはないのだが、勝手に来て無理やり食べていく。
でも俺は作った笑顔で心の中を探り合う貴族の世界より、貧しくてもみんなで分かち合い心温まる今の平民の生活のほうが好きだ。
もちろん金はないと困る。
でも今の生活なら贅沢さえしなければ十分生活していける。
だが、侯爵はイーゼ嬢との結婚を俺に求めている。
俺はイーゼ嬢に特別な感情はない。
でも別に嫌いではない。
今まで知り合った女性の中で好感が持てると思っている。
でも貴族令嬢、それも侯爵令嬢と平民の結婚などあり得ない。
「アラン、オレはいつも言うがお前が好きだ。だから結婚してくれ」
ジリニア侯爵のこのセリフ……
聞く人が聞けば、おっさんが俺に求婚しているように見える。
これも毎回のことなので、この席にいる者は皆知らんふりをして聞き流す。
「ジリニア侯爵、俺はイーゼ嬢と結婚はしません、と言うよりイーゼ嬢の方が嫌だと思いますよ」
このセリフももう何度言っただろう。
「だったら妻と娘も昼食会に参加させてもいいか?」
ほんと、この人、他人の話を聞かない。
「ハアー、もういいですよ、いつでも来てください」
侯爵夫人や令嬢を呼ぶような席ではない。
何度も断っているのにこの人はしつこい。
だが何故か憎めない。
そんな俺を見て父上は横で少し寂しそうにしていた。
父上は、普通で考え方も行動も貴族らしい貴族だ。
今この場だから一緒に食事をしているが、自分の屋敷ではまずあり得ないことだと思う。
でも父上の考えが普通の貴族なのだ。
ジリニア侯爵は、「じゃあ、次は三人で来るからな」と、嬉しそうに言って帰って行った。
「アラン、お前はあいつの娘と結婚するのか?」
俺は溜息を吐きながら父上に「俺は平民ですよ」と答えた。
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