【完結】今夜さよならをします

たろ

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新しい恋。

バズール編①

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 ミレガー伯爵が爵位を剥奪された。

 そして牢に入れられ今も裁判中だ。
 密輸に加え孤児達の人身売買もしていたらしい。

 さらにライナを攫い脅して殺そうと企てていたこともあり罪はかなり重いものになりそうだ。

 ミレガー夫人も同じように人身売買に関わり夫の仕事を手伝っていたことで裁判中。

 リーリエ嬢は、名誉毀損で訴えられてはいるが身分も剥奪され平民になり引き取り手すらいない状況らしい。あれだけいろんな男にチヤホヤされていたのに伯爵令嬢の身分がなくなり平民になると手のひらを返すように誰も相手をしなくなった。

 このまま市井に放り出せば男の体を知ってしまっている彼女の行く先は娼館だけ。

 さすがに未成年の15歳には生きていくには辛かろうとライナの父親は修道院へ入れてあげることにしたらしい。

 多額の寄付金を出してリーリエ嬢を王都からかなり離れた西の土地にある修道院へと送った。
 これはライナにもう二度と関わらせないようにするため、そしてライナの心がリーリエ嬢のこれからのことを知り悲しまないようにするためだった。

 俺は何度も反対した。

 あんな子に少しでも情をかけるなんて!
 どれだけライナを苦しめたか!

 でも叔父上の方が俺なんかより考えが深かった。

 リーリエ嬢のことを自身が面倒をみるのは全て彼女の行動を把握するためでもありそれがライナを守ることにつながる最善だからだと言われた。

 俺は感情だけで反対していたが確かにどんな行動を取るのかわからないお花畑のリーリエ嬢のことだから市井に放り出せばライナに逆恨みで何をするのかわからない。
 また男を体で落として、ライナに訳のわからないことを仕掛けてきそうだ。 


 それならこちらの手のひらの中だけに閉じ込めておくに限る。

 そしてシエルは………

 目標だった王宮騎士になる夢は潰えた。

 ライナと婚約解消して跡取りとして生きる未来はなくなり、今は別の貴族の屋敷で護衛騎士として働いている。
 シエル自身は犯罪を犯したわけでもなく浮気をしたわけでもない。

 だが、王宮騎士になる推薦状はミレガー伯爵から貰えることもなく、また一からやり直しになる。
 普通なら彼の頑張りを知り他の貴族から推薦状をもらえるのだけど、シエルの場合、ライナへの酷い態度を知っている者達が高位貴族の令嬢達にたくさんいるため、誰も助けると手を上げなかった。

 もちろん叔父上も俺の父上もシエルに関しては手助けはしようとしなかった。

 シエル自身もライナへの態度を後悔していて、また一から出直そうと頑張り始めた。

 ライナはそんな話を一切知らない。
 知る前に叔父上はオリソン国へとさっさと留学させた。

 俺も同じ国への留学が決まっていたので後を追うようにオリソン国へ行くことにした。

 ライナに何度か彼らの状況を聞かれたがまだ裁判中だとしか答えなかった。
 一年後、国へ帰ればわかってしまうことだが今はそんなこと気にせずに学生生活を楽しんで欲しい。

 そう思っていたのに……


 ライナはギルバート様に気に入られてしまった。

 もちろんそこに恋愛感情はない。……はず。


 俺とライナが一緒に学校で昼食を摂るため、中庭のガゼボに座っていた時だった。

「そこ!退いてくれ!うわぁぁ」

 こちらに向かってやってくる男性に呆然としながらもライナと二人慌てて席を立ち避けるように右によけた。

 バサッ。

 沢山の本を持っていた男性は本と一緒に思いっきり転んだ。

「大丈夫ですか?」
 ライナが心配そうに聞いた、

 そしてライナと一緒に慌てて駆け寄り本を拾うことにしたが、
 男性に手を差し伸べたのは俺。
 本を拾うのはライナ。

 男の手なんかライナに触らせたくない。

「ライナは本を拾ってやって」

「う、うん、わかったわ」

 ライナが一生懸命に拾っている姿を見て俺はつい微笑む。
 ライナと同じ空間で同じ時間を過ごせることがとても嬉しい。
 彼女の可愛い姿を見るだけで満足してしまう。

 なのにこの訳のわからない男のせいで邪魔をされた。ついムカつきながら手を差し出すと「すまない、ありがとう」と言って立ち上がった。

「あ……この本……」

 ライナが拾っていた本の一冊を見つめて動きを止めた。

「うん?君どうしたんだい?」

「わたし読みたくて探していたんです……『オリソン国における政治政策と経済政策の関係』……」

「へぇ、珍しい本を探していたんだね?」

「はい、一年しか留学期間がないので勉強できるこは少しでも勉強して帰りたいのです」

「ふうん、君はなんの教科を取ってるの?」

「文化や政策に関する科目を中心に取っています」

「なるほどね……僕は政策の研究をしているんだ。一応この大学で少しだけ教員としても勉強を教えているんだ。ま、ほとんど研究室で調べ物をしているけどね。気が向いたら研究室に来たらいいよ、資料なら沢山あるからね。僕の名前はギルバート・オリソン、君の名前は?」

「わたしはライナ・パシェードと申します。モルード王国から来ています、あ、隣の彼もわたしと同じ留学生です。バズール・フェルドナーです。従兄弟なんです」

「恋人かと思ったよ」

 俺は二人のやり取りを黙って聞いていた。

 ライナは目をキラキラさせてギルバート様を見ていた。
 ライナはこの国に来て貪欲に勉強に励んでいる。読みたい本があるのに図書館になくて貸し出されていると嘆いていた。

 その読みたい本が目の前にある、さらに勉強したいことが目の前にぶら下がっている。
 ライナは思いっきり食いついてしまった。

 次の日からライナはギルバート様のところへ通い始めた。
 もちろん二人っきりでいるわけではない。
 他にも数人の生徒達が常に出入りしている。
 ギルバート様は国王陛下の父親の弟で公爵様だ。と言っても陛下と年はあまり変わらない。
 腹違いの兄弟でかなり歳の離れた兄弟だと聞いている。

 ライナはギルバート様自身には興味はなさそうだけど勉強が楽しいらしく最近は俺との時間が作れないらしい。

 ーーったく、やっと俺との時間が取れるようになったのに!

 ライナになんとかこの一年で振り向いてもらおうと計画しているのにとんだ邪魔が入ってムカついている。




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