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ああ、そうか!
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三人は急ぎ病院へと向かった。
「お父様!」
病室にはまだ目覚めることがないマックが静かに眠っていた。
「お父様はまだ目覚めないのですか?」
ミルヒーナはお医者様の腕を掴み、必死で訴えた。
「すまないな、わたし達の力ではこれ以上治療は出来ないんだ。治癒魔法も薬もこれ以上は逆に体に負担をかけてしまう。
傷は少しずつ治っていくはずだ。ただ、ほぼ魔力を使い果たしてしまっていたんだ。魔力をそこまで使ったということは持っている生命力も一緒に失ってしまったんだよ」
「………聞いたことがあります。最後の最後まで魔力を使おうとしたら生命力まで失ってしまうと……だから魔力は全部使ってしまってはいけないと……」
ミルヒーナの瞳には大粒の涙が溢れていた。
「だったら、魔力を回復できたら治るんじゃないのですか?わたし、お父様に魔力をあげました。なのに目覚めないのはどうして?」
「生命力が残っていないからだよ」
「お父様は死ぬの?」
「わからない……普通ならもうとっくに死んでいるはずだ。だが、魔力だけは回復しているんだ。こんなこと症例がないからわからない。君の魔力を父君に渡したのかい?」
「…………はい」
「今の話は聞かなかったことにするよ」
「えっ?」
「君の父上にはずっと世話になっているんだ。僕が医者になれたのはカイヤ伯爵が援助してくれたからなんだ。僕は平民で王立学園へ行くのがやっとだった。そんな僕に医学の道へ進む手助けをしてくれたのが君の父上なんだ。
君は【譲渡】のことは口にしてはダメだ。その魔法は善にもなるし悪にもなる」
「わかっています。だから……今まで隠していたんです」
「そうだね……こんな大事故がなければ……」
「お父様は絶対目覚めます!」
ミルヒーナの言葉はマックには届いていない。
「お父様、わたしね、しばらくそばにいられないみたいなの。だけどすぐに帰ってくるから待っててね」
それでもミルヒーナは必死でマックに話しかけた。
マックの手を握り別れの挨拶をした。
事故現場に向かう時に持って来た小さなカバンを持つと馬車が来るのを待った。
しばらくすると連絡を受けた従兄のルイスが現れた。
「ミル!遅くなってごめんね」
「ううん、兄様がここに来るのに時間がかかるのは仕方がないよ」
ルイスの住む屋敷は王都から少し離れたところにあった。
事故現場の領地までは急いでも一日はかかる距離なのに、半日で着いたのだから十分早い。
ミルヒーナは病院へ着く前に馬車の中でトーマスにあらかたの説明は受けていた。
ルイスに頼みオリソン国に無理やり留学という形で向かう。
急を要するので今日この国を旅立つことになる。
朝は普段と変わりなく過ごしたのに……夜には夜逃げのようにこの国を去らなければいけなくなった。
ミルヒーナはルイスの胸で泣いた。
いつものリヴィなら嫌味の一つでも言ってくるのに始終静かで、ミルヒーナはリヴィのことを気にもしていなかった。
ーーここに戻ってくる時にはリヴィと結婚しているのね。
ロザリナとの別れの挨拶が終わるとミルヒーナはリヴィのところへ。
「リヴィ、今日はいろいろありがとう。とても助かったわ……不本意なのはわかってる……わたしなんかが嫁いでくるのは嫌だと思う……だけど今はそれしかないみたい。
あなたを振り回すことになって謝罪するわ……しばらく離縁はできないかもしれない。だけど、あなたの愛する人のためにも早く離縁できるように努力するわ」
「俺の愛する人?」
リヴィはミルヒーナの言葉にどう答えていいのかわからずに固まってしまった。
(俺が好きなのはミルなのに……)
「ええ、共同事業のことで政略的な婚約から始まって、わたくしの所為で今度は結婚なんて……リヴィには好きな人がいるのでしょう?」
「なんでそう思うんだ?」
「だってわたくしに冷たい態度を取るのも意地悪なことを言うのも、好きな人に誤解されたくないからでしょう?」
ーーうん、きっとそうよ。
でも考えてみたら仕方がないわよね。わたしみたいな魔法もまともに使えない幼馴染がいたら恥ずかしくて、近くにいたらリヴィの好きな人も嫌だと思うわ。
あの取り巻きの誰かかしら?
ミルヒーナがぼんやりと考えているとリヴィの声が聞こえて来た。
「ミル、ねえ、ミル?聞こえてる?」
リヴィの少しイラついている声が近くで耳に入って来た。
「あっ……ごめんね」
ーーリヴィ……なんでこんなに接近して来て話すのよ!
す、少し、離れてよ!
「俺は……ミルのこと迷惑なんて思っていない」
キョトンとしたミルヒーナに「ミルのこと俺も守るから」と言ったリヴィ。
いつもの意地悪なリヴィとは違う言葉に思わず戸惑った。
「あ、ありがとう?」
「ミル!急ぐぞ!少しでも早く旅立った方がいい。船乗り場までとりあえず向かおう。早朝の船に乗ればこの国を出られるから」
ルイスの言葉に「わかったわ!」と慌てて答えた。
リヴィは思わずミルヒーナの腕を持って引き止めようとした。
「リヴィ??」
「あっ………ご、ごめん。気をつけて」
リヴィは結局いろんな言葉を用意していたのにうまく言えずミルヒーナが乗った馬車の姿が見えなくなるまでじっと見送った。
(俺待ってるから、今度こそ大切にする)
馬車に乗ると考えるのは家族のことばかり。
ーーふぅ、なんとか乗り切って落ち着いたらさっさと離縁して、次は好きなことを探さないといけないわ。
まずはガトラにお手紙を書こう。
ーーこんなに会えなくなるなんてとても寂しいわ。ガトラは泣いていないかしら?
お父様は目覚めないし、わたしもいなくなるし……ガトラ、そばに居てあげられなくてごめんね。
ルイスはさっきの二人の会話を聞いて思わず苦笑した。リヴィの気持ちがミルヒーナに全く伝わっていなくて流石に少し気の毒に感じた。
そして……
ーーミルらしいんだけど……こんな二人が結婚して上手くいくのかな?
なんとなく先行きあやしく感じてしまう。
「お父様!」
病室にはまだ目覚めることがないマックが静かに眠っていた。
「お父様はまだ目覚めないのですか?」
ミルヒーナはお医者様の腕を掴み、必死で訴えた。
「すまないな、わたし達の力ではこれ以上治療は出来ないんだ。治癒魔法も薬もこれ以上は逆に体に負担をかけてしまう。
傷は少しずつ治っていくはずだ。ただ、ほぼ魔力を使い果たしてしまっていたんだ。魔力をそこまで使ったということは持っている生命力も一緒に失ってしまったんだよ」
「………聞いたことがあります。最後の最後まで魔力を使おうとしたら生命力まで失ってしまうと……だから魔力は全部使ってしまってはいけないと……」
ミルヒーナの瞳には大粒の涙が溢れていた。
「だったら、魔力を回復できたら治るんじゃないのですか?わたし、お父様に魔力をあげました。なのに目覚めないのはどうして?」
「生命力が残っていないからだよ」
「お父様は死ぬの?」
「わからない……普通ならもうとっくに死んでいるはずだ。だが、魔力だけは回復しているんだ。こんなこと症例がないからわからない。君の魔力を父君に渡したのかい?」
「…………はい」
「今の話は聞かなかったことにするよ」
「えっ?」
「君の父上にはずっと世話になっているんだ。僕が医者になれたのはカイヤ伯爵が援助してくれたからなんだ。僕は平民で王立学園へ行くのがやっとだった。そんな僕に医学の道へ進む手助けをしてくれたのが君の父上なんだ。
君は【譲渡】のことは口にしてはダメだ。その魔法は善にもなるし悪にもなる」
「わかっています。だから……今まで隠していたんです」
「そうだね……こんな大事故がなければ……」
「お父様は絶対目覚めます!」
ミルヒーナの言葉はマックには届いていない。
「お父様、わたしね、しばらくそばにいられないみたいなの。だけどすぐに帰ってくるから待っててね」
それでもミルヒーナは必死でマックに話しかけた。
マックの手を握り別れの挨拶をした。
事故現場に向かう時に持って来た小さなカバンを持つと馬車が来るのを待った。
しばらくすると連絡を受けた従兄のルイスが現れた。
「ミル!遅くなってごめんね」
「ううん、兄様がここに来るのに時間がかかるのは仕方がないよ」
ルイスの住む屋敷は王都から少し離れたところにあった。
事故現場の領地までは急いでも一日はかかる距離なのに、半日で着いたのだから十分早い。
ミルヒーナは病院へ着く前に馬車の中でトーマスにあらかたの説明は受けていた。
ルイスに頼みオリソン国に無理やり留学という形で向かう。
急を要するので今日この国を旅立つことになる。
朝は普段と変わりなく過ごしたのに……夜には夜逃げのようにこの国を去らなければいけなくなった。
ミルヒーナはルイスの胸で泣いた。
いつものリヴィなら嫌味の一つでも言ってくるのに始終静かで、ミルヒーナはリヴィのことを気にもしていなかった。
ーーここに戻ってくる時にはリヴィと結婚しているのね。
ロザリナとの別れの挨拶が終わるとミルヒーナはリヴィのところへ。
「リヴィ、今日はいろいろありがとう。とても助かったわ……不本意なのはわかってる……わたしなんかが嫁いでくるのは嫌だと思う……だけど今はそれしかないみたい。
あなたを振り回すことになって謝罪するわ……しばらく離縁はできないかもしれない。だけど、あなたの愛する人のためにも早く離縁できるように努力するわ」
「俺の愛する人?」
リヴィはミルヒーナの言葉にどう答えていいのかわからずに固まってしまった。
(俺が好きなのはミルなのに……)
「ええ、共同事業のことで政略的な婚約から始まって、わたくしの所為で今度は結婚なんて……リヴィには好きな人がいるのでしょう?」
「なんでそう思うんだ?」
「だってわたくしに冷たい態度を取るのも意地悪なことを言うのも、好きな人に誤解されたくないからでしょう?」
ーーうん、きっとそうよ。
でも考えてみたら仕方がないわよね。わたしみたいな魔法もまともに使えない幼馴染がいたら恥ずかしくて、近くにいたらリヴィの好きな人も嫌だと思うわ。
あの取り巻きの誰かかしら?
ミルヒーナがぼんやりと考えているとリヴィの声が聞こえて来た。
「ミル、ねえ、ミル?聞こえてる?」
リヴィの少しイラついている声が近くで耳に入って来た。
「あっ……ごめんね」
ーーリヴィ……なんでこんなに接近して来て話すのよ!
す、少し、離れてよ!
「俺は……ミルのこと迷惑なんて思っていない」
キョトンとしたミルヒーナに「ミルのこと俺も守るから」と言ったリヴィ。
いつもの意地悪なリヴィとは違う言葉に思わず戸惑った。
「あ、ありがとう?」
「ミル!急ぐぞ!少しでも早く旅立った方がいい。船乗り場までとりあえず向かおう。早朝の船に乗ればこの国を出られるから」
ルイスの言葉に「わかったわ!」と慌てて答えた。
リヴィは思わずミルヒーナの腕を持って引き止めようとした。
「リヴィ??」
「あっ………ご、ごめん。気をつけて」
リヴィは結局いろんな言葉を用意していたのにうまく言えずミルヒーナが乗った馬車の姿が見えなくなるまでじっと見送った。
(俺待ってるから、今度こそ大切にする)
馬車に乗ると考えるのは家族のことばかり。
ーーふぅ、なんとか乗り切って落ち着いたらさっさと離縁して、次は好きなことを探さないといけないわ。
まずはガトラにお手紙を書こう。
ーーこんなに会えなくなるなんてとても寂しいわ。ガトラは泣いていないかしら?
お父様は目覚めないし、わたしもいなくなるし……ガトラ、そばに居てあげられなくてごめんね。
ルイスはさっきの二人の会話を聞いて思わず苦笑した。リヴィの気持ちがミルヒーナに全く伝わっていなくて流石に少し気の毒に感じた。
そして……
ーーミルらしいんだけど……こんな二人が結婚して上手くいくのかな?
なんとなく先行きあやしく感じてしまう。
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