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逃げる。
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カインの街に着いたのは早朝。街は静かな時を刻んでいた。
ルドルフはルドーの屋敷がどこにあるのか分かっていて、不思議なくらい迷いもせずに向かった。
「やあ、ルドルフよく来たな」
門の前に待ち構えていたのはルドー伯爵自らだった。
「姫様、ご無事に帰って来られて安心しました」
「ここに来ることを知っていたの?」
驚きを隠せずルドーの顔を見ると彼はふっと笑った。
「前もってソラから城を出るとの伝言が届いておりました。ただ、どれくらいでここに着くかと心配をしておりました」
ソラさんとルドーは知り合いだったようだ。同じ城に勤めていたのだから職場は違っていても接する機会はあったのかもしれない。
「荷物を取りに来たの。でも追われているからゆっくりはできないわ」
ルドーに迷惑はかけたくない。早急にカインから出ようと思っていた。
「大丈夫です。追っ手がここに来ることはございません」
あまりにもはっきりと言い切ったルドーに驚いてしまう。
「どうして?」
「姫様、お疲れでしょう?まずは中に入ってください」
断ろうとしたのに、ルドルフが勝手に屋敷の敷地へと入って行った。
ルドルフも一晩中走り続けたのでかなり疲労しているようだ。
おいしい干し草と寝床を確保してあげたい。そう思っているのがすぐにルドーにも伝わったらしく「ルドルフは厩舎へ連れて行きゆっくりと休ませてあげましょう」と言ってくれた。
ルドーが大好きなルドルフは嫌な態度も取らず、素直に使用人について行ってしまった。
「ルドー、ごめんなさい。迷惑ではないの?」
「お腹が空いていませんか? ずっと馬の上に乗ったまま、緊張の中ここまで来たのでしょう?温かいスープを用意しております」
思わずゴクっと唾を飲み込む。
もちろんお腹も空いているし喉も乾いていた。
おじちゃんがくれた食べ物が鞄に入ってはいるけど、これはあくまで非常食なのでできるだけ我慢しようと思っていた。
グーっとお腹が鳴った。
「……ありがとう……お腹が空いていたことを思い出してしまったわ」
恥ずかしいけどルドーの前では平気だった。
だって護衛騎士として側にいてくれている間、わたしが転んで泣いている姿や目の前においしいご馳走があって我慢できずにつまみ食いをする姿など、醜態をどれだけ見せてきたことか。
国王である両親よりもルドーの方がよっぽど家族に近くて、甘えたり一緒に笑ったりしながら過ごしてきた。
だからこそ迷惑をかけたくない。大切な人だから。
なのにルドーは、そんなわたしの気持ちをわかっているくせに引き止めようとする。
それはとても甘くて抗えないほど。どこにも行き場がなく、誰からも愛してもらえない、そんなわたしの心に苦しいくらい響いてしまう。
屋敷に入るとすぐに食堂へと通された。
そこに並ぶのはわたしの大好きだった料理ばかり。
柔らかなパンに搾りたてのオレンジジュース。カリカリのベーコンに野菜のマリネ。ローストビーフにコーンスープ。
テーブルに飾られている花はかすみ草とブルースター。花瓶に生けられた星型の青いブルースターの花と白いかすみ草に朝日が当たりキラキラと輝いて見えた。
「ルドー、美味しそうだね。それに……とても綺麗だわ」
花へと手を伸ばし、優しくそっと触れた。
花を綺麗だと思ったのはどれくらいぶりだろう。
前世でも今世でもゆっくりと花を見ることはなかった。
いつも忙しくてそんな余裕はなかった。
ああ、でも、沙耶香として生きていた頃はよく花屋へ行って、部屋に花を飾っていた。彼を迎えるために。
有紗に奪われてからは花を買うことも無くなった。
だけど今ここにある花は、穏やかに、そして優しくわたしを迎え入れてくれた。
椅子に座るとゆっくりと食事を摂った。
こんな落ち着いて食事をしたのはいつだったかな。
村でおじちゃん達と笑いながら食事をしていた頃が懐かしい。あの時が一番幸せだった。
おじちゃんに会いたい。
気がつけば涙が溢れていた。
ルドーは何も言わずにそっと部屋を出た。
誰もいない部屋でわたしは声を出して泣いた。
ルドルフはルドーの屋敷がどこにあるのか分かっていて、不思議なくらい迷いもせずに向かった。
「やあ、ルドルフよく来たな」
門の前に待ち構えていたのはルドー伯爵自らだった。
「姫様、ご無事に帰って来られて安心しました」
「ここに来ることを知っていたの?」
驚きを隠せずルドーの顔を見ると彼はふっと笑った。
「前もってソラから城を出るとの伝言が届いておりました。ただ、どれくらいでここに着くかと心配をしておりました」
ソラさんとルドーは知り合いだったようだ。同じ城に勤めていたのだから職場は違っていても接する機会はあったのかもしれない。
「荷物を取りに来たの。でも追われているからゆっくりはできないわ」
ルドーに迷惑はかけたくない。早急にカインから出ようと思っていた。
「大丈夫です。追っ手がここに来ることはございません」
あまりにもはっきりと言い切ったルドーに驚いてしまう。
「どうして?」
「姫様、お疲れでしょう?まずは中に入ってください」
断ろうとしたのに、ルドルフが勝手に屋敷の敷地へと入って行った。
ルドルフも一晩中走り続けたのでかなり疲労しているようだ。
おいしい干し草と寝床を確保してあげたい。そう思っているのがすぐにルドーにも伝わったらしく「ルドルフは厩舎へ連れて行きゆっくりと休ませてあげましょう」と言ってくれた。
ルドーが大好きなルドルフは嫌な態度も取らず、素直に使用人について行ってしまった。
「ルドー、ごめんなさい。迷惑ではないの?」
「お腹が空いていませんか? ずっと馬の上に乗ったまま、緊張の中ここまで来たのでしょう?温かいスープを用意しております」
思わずゴクっと唾を飲み込む。
もちろんお腹も空いているし喉も乾いていた。
おじちゃんがくれた食べ物が鞄に入ってはいるけど、これはあくまで非常食なのでできるだけ我慢しようと思っていた。
グーっとお腹が鳴った。
「……ありがとう……お腹が空いていたことを思い出してしまったわ」
恥ずかしいけどルドーの前では平気だった。
だって護衛騎士として側にいてくれている間、わたしが転んで泣いている姿や目の前においしいご馳走があって我慢できずにつまみ食いをする姿など、醜態をどれだけ見せてきたことか。
国王である両親よりもルドーの方がよっぽど家族に近くて、甘えたり一緒に笑ったりしながら過ごしてきた。
だからこそ迷惑をかけたくない。大切な人だから。
なのにルドーは、そんなわたしの気持ちをわかっているくせに引き止めようとする。
それはとても甘くて抗えないほど。どこにも行き場がなく、誰からも愛してもらえない、そんなわたしの心に苦しいくらい響いてしまう。
屋敷に入るとすぐに食堂へと通された。
そこに並ぶのはわたしの大好きだった料理ばかり。
柔らかなパンに搾りたてのオレンジジュース。カリカリのベーコンに野菜のマリネ。ローストビーフにコーンスープ。
テーブルに飾られている花はかすみ草とブルースター。花瓶に生けられた星型の青いブルースターの花と白いかすみ草に朝日が当たりキラキラと輝いて見えた。
「ルドー、美味しそうだね。それに……とても綺麗だわ」
花へと手を伸ばし、優しくそっと触れた。
花を綺麗だと思ったのはどれくらいぶりだろう。
前世でも今世でもゆっくりと花を見ることはなかった。
いつも忙しくてそんな余裕はなかった。
ああ、でも、沙耶香として生きていた頃はよく花屋へ行って、部屋に花を飾っていた。彼を迎えるために。
有紗に奪われてからは花を買うことも無くなった。
だけど今ここにある花は、穏やかに、そして優しくわたしを迎え入れてくれた。
椅子に座るとゆっくりと食事を摂った。
こんな落ち着いて食事をしたのはいつだったかな。
村でおじちゃん達と笑いながら食事をしていた頃が懐かしい。あの時が一番幸せだった。
おじちゃんに会いたい。
気がつけば涙が溢れていた。
ルドーは何も言わずにそっと部屋を出た。
誰もいない部屋でわたしは声を出して泣いた。
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