短編。

たろ

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短編

恋の終わらせ方

「好きです」
 貴方に何度告げたかな。

 わかってる、わかってるの。

 貴方には好きな人がいることを。だっていつも婚約者として隣にいるんだもの。

 貴方の視線はわたしの親友ばかり見ているわ。

 わたしは伯爵令嬢、隣にいる貴方は同じ伯爵令息。婚約して三年。来年の18歳になれば学校を卒業して結婚する。

 だからあと半年。彼がわたしの親友の男爵令嬢を見つめていても我慢すればいい。そうすれば結婚できる。この国は愛人や浮気は絶対に許されない。

 国王陛下は今の奥様をとても大切にされている。だから一度愛する人と結ばれたら何か事情がなければ離縁も浮気も許されない。

 もし明るみに出れば相手も当人も罰を受ける。

 その罰は、色々で罰金から爵位剥奪、収監されて懲役まである。

 だから国民は結婚すると何があってもバレないように浮気はしても愛人は作らない。

 ただし、結婚までの自由恋愛は許される。だから最近は結婚するのが皆遅くなってきている。

 わたし達のように18歳での結婚は珍しくなっている。

 彼のお父様が「早めに結婚をさせよう」と言い出した。わたしと彼は3年前一目惚れでお互い好き合った。政略結婚のはずが恋愛結婚に。

 だから親達は二人は相思相愛なんだと思っている。

 まさかわたしの親友に彼が恋をするなんて誰も思っていないから。




「みんなで昼食食べましょう」

「ええ、今日は食堂?それともカフェ?」

「あっ、俺も一緒に食べてもいい?」
 親友と仲の良い男子が加わる。

「あ、じゃあ俺も!」

 さらにもう一人男子。

 親友はクラスでとても目立つ。美人で頭が良くて気立もいい。誰にでも好かれる。

 そして常に人が寄ってくる。

 ほら、わたしの婚約者も「俺も」と言ってやってきた。

「じゃあみんなで食べましょう」
 親友の柔らかな微笑み、もうその笑顔だけでクラスのみんなはほわっと心を満たされる。

 気がつけば婚約者は親友の隣の席に座っていた。楽しそうに語り合う二人。見つめ合う二人。

 そこにわたしは入れない。

 もう慣れているのだけど。婚約者の友人の一人がわたしに気を遣い話しかけてくれる。

「大丈夫?」

「うん、このパンとても美味しいわ。だけどもうお腹いっぱいなの。こちらのプレートは口をつけていないからよかったら食べてくれない?」

「え?もちろん!喜んで食べるよ」

 男の子ってすごい食欲!見てて気持ちがいいくらいよく食べる。

 わたしがクスクス笑っていると向かいの席から視線が……

 あっ、婚約者と親友がわたしを見ていた。

 うーん、こう言う時は……笑顔?

 わたしはにこりと笑った。

 親友はいつもの素敵な笑顔を返してくれた。少し上からに感じたのは気のせい?

 婚約者はプイッと向こうを向いた。
 バツが悪かったのかしら?わたしを放って親友と仲良くしていたから。

 それともわたしが貴方の友人と仲良くしていたからヤキモチ?そんな訳ないか。

 わたしはもう二人の視線を気にしないことにした。だって一日一日、日が経つに連れ、恋心が薄れていくのがわかる。

 二人が仲良くなって半年。気持ちはもう半分くらいまで減ってしまった。

 貴方に「好きです」と言わなくなってひと月。でも貴方は気づかないでしょう?親友に夢中だから。

 半年経たずに恋心が消えれば……婚約解消。

 結婚まで貴方への想いがほんのカケラでも残っていればそのまま貴方の妻になる。

 わたしは今日も貴方の隣で黙って微笑むの。



 卒業まであと二月。

「キャサリナ!」

「マック?」

「今日も一緒に食べに行かない?」

 最近は毎日のように貴方の親友がわたしに声をかけてくれる。多分……わたしに餌付けされたみたい。

 お屋敷の料理人が婚約者と親友の分もお弁当を作ってくれる。だけど二人はいつもの集団と食堂へ行く。

 だけどお弁当の量はそのままにしてもらっている。

 最近わたしはランチルームにマックと他の友人達とみんなでシェアしながら昼食を食べている。

 親友を中心としたたくさんの男子に囲まれる食事はとても疲れて喉を通らない。そんなわたしを心配した他の女友達がランチルームで食べることを勧めてくれた。

 それからは女子も男子も関係なく友人として接することができるグループと仲良くしている。

 この恋心が消えるまであと少し。

 卒業まではあと二月。

 ふふっ、わたしの賭けは婚約解消かしら?


 最近はよく婚約者と親友の視線を感じる。もう話すこともない二人。

 何か言いたそうにしているけど、わたしから話しかけることはない。


 卒業式の日。

 わたしは最後の制服を着てみんなと最後の日を過ごした。


 そして卒業パーティー。

 わたしはドレスを身に纏う。
 わたしにとって一番綺麗なドレス、一番豪華な宝石をつけて、念入りにお化粧をして髪を結いあげ、精一杯のおしゃれをした。

 親友のドレス姿には負けるけど。

「キャサリナ?」

 驚いた顔をした婚約者。

「あら?お久しぶりね?」

 もう三ヶ月喋っていない婚約者。

「どうして?」

 震える声でわたしのドレス姿を見た。

「何がかしら?」

「そのドレス……」

「ふふふっ、似合ってるかしら?」

「あっ……う、うん。とても似合ってる」

「そう、ありがとう」

 わたしは彼に微笑んだ。多分今までで一番美しい笑顔で。

 それが貴方への返事。

「キャサリナ、行こう」

「ええ、マック」

 わたしはマックの手を取る。わたしとマックはお揃いの色を身に纏って。

「………キャサリナ」婚約者……いえ元婚約者は消えそうな声でわたしの名を呼んだ。


「わたしの名を呼べるのは婚約者だけなの。貴方は婚約者だった時、わたしの名を呼ぶこともなかったわ………わたしもだから貴方の名を呼ぶことはなかったの。元婚約者の貴方、さよなら」

 わたしは昨日お父様にお願いをして婚約解消した。

 そしてマックと婚約を今日結んだ。

 わたしは予定通りひと月後マックのお嫁さんになる。

 公爵夫人としてマックの隣で幸せな笑顔で過ごすの。
 マックはわたしだけを永遠に愛してくれる。わたしもマックだけを愛するわ。



 元婚約者は我が家からの支援を取り消され、支援されたお金の返金に追われているらしい。
 親友はたくさんの男と体の関係を持ったため誰の子かわからない子供を妊娠したらしい。

 生まれた子は……元婚約者にそっくりだったと友人達が教えてくれた。

 愛情がほんのひとかけらでも残っていなくてよかった。

 離縁はこの国では難しかったもの。親友は元婚約者と結婚するらしい。

 借金地獄の中二人は幸せに暮らすかしら?

 彼女の微笑みはいつまで続くかしら?


 ーーーお幸せに。




        終わり



追伸。

 あ、わたし、貴方達が、学校の空き教室で淫らな行為をしているところを見てしまったの。

 思わず友人達と口に手を当てて叫ばないようにしたわ。

 貴方達は夢中で気が付かなかったみたいね。

 おかげでお父様にご報告して簡単に婚約解消できたのでよ?マックがずっとわたしのそばにいてくれたの。

 貴方達のおかげで、幸せになれたわ。





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