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111話  アル

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 ◇ ◇ ◇ ◆  アル

「おかあしゃん、どこ?」
 目が覚めたら、おかあしゃんがいない。

 ここどこ?

 きょろきょろと見まわす。

 あっ!ここ、ギュレンの、いるおうち。

 ベッドから起き上がっておりようとしたら、ボテっと、おちた。

 い、いたい!おかあしゃん!いたい、の。

 だけど、ぼく、なかない。
 お目目に涙はいっぱいたまってるけど、なかないの。

 おかあしゃんが、ないたり、ギュレンにあいたいって、いったら、かなしそうなかお、するの。

 だから、泣かない。

 だけど、おかあしゃんがいないから、さびしいの。お目目さめたから、おかあしゃんにあいたい。

 ギュレンはもういない?いる?

 ギュレンは、やくそく、まもるかな?

 おもたいとびらを、「うんしょ」って、がんばってあけた。

 そっとろうかに、かおをだした。

「おかあしゃん?ギュレン?」

 声をだして、よんだのに、だれもへんじ、ないの。

 ろうかを、てくてく、あるいた。

 ーーーうわぁ、ひとり、たのしい。

 ぼく、おにいちゃん、みたいなの。

 おひざはいたくて、ちょっと、ち、でてる。

 アル、なかなかった。『えらいぞ』ってギュレン、いうかな?

 おかあしゃん、『アルはおりこうさんね』っていうかな。

 てくてく、あるいたのに、おかあしゃんもギュレンも、いないの。

 おじちゃんたちも、いないの。

 おねえちゃんたちも、いないの。

 でも……なんだかいいにおい、する。

 あまくて、おいしそう。

 おかし、かな。

 アルね、くっきー、すきなの。
 えっとぉ、けーき、もすき。

 おかあしゃん、かなしそうにするから、すきって、いわない。たべたいって、いわないの。

 だけどね、おじちゃんたち、『どうぞ』って。
 そしたら、たべていいんだって。

 ちょっとおなか、すいたぁ。

 ちょっと、みても、いい?

 おおきな、おじちゃんたちが、けーき、つくってる!

「うわぁ、けーき!」

 おもわず声を、だして、「いけない!」
 お口をおててでふさいだ。

「うん?坊主、誰だ?」

 でっかいおじちゃん、こわいの。

「ぼ、ぼく、アルですっ。ギュレンとおかあしゃん、さがしてるの」

「アル?おっ、噂のアルか!こっちにおいで!今アルのためにケーキ作ってたんだ」

「アルの?なんでっ?」

「グレン様に頼まれてアルの好きな生クリームいっぱいのケーキ作ってたんだ」

「いちごも?」

「おお、そうそう、苺もたくさん乗せてるぞ。中にもたくさん入ってる」

「すっごいねっ!たくさん?」
 おててをばんざいした。

「たくさん、だ!」

 ぼく、このおじちゃん、すき!たべたいっ!

 あっ、だけど、ギュレンとおかあしゃん、さがすの。

「おじちゃん、ギュレンに、あいたいの」

「料理長、アル様は迷子みたいですよ?」

「迷子か?」

「ちがうの。アルが、さがしてるの!」

「すまんすまん、じゃあ、一緒に探しに行くか?」

「うん!」

 おじちゃんが、だっこしてくれたの。

 うわぁ、たっかい!すごい!

「膝から血が出てるぞ」

「アルね、なかなかったの、だから、おかあしゃんもギュレンも、いいこいいこ、してくれるの」

「泣かなかったのか?じゃあ、おじちゃんもいい子いい子してやる」
 おじちゃん、力いっぱい、かみをグシャグシャ、よしよし、してくれた。

 ふふ、おじちゃんのだっこ、あまいにおい、する。

 おいしそう。

 おかおを、おようふくに、ひっつけて
「おいしいにおい、するの」

「お腹が空いたか。グレン様のところに行ったらケーキ食べるか?」

「うん!」



 おじちゃんがギュレンのところに、つれていってくれたの。


「ギュレン!」

「アル!起きたのか?」

「ギュレン、いなかったから、さがしたの、いたいの、なかなかったの、いいこいいこ、して?」

 グレンはアルをみて、

「おっ、膝から血が出てるぞ、泣かなかったのか?えらいぞ!お兄ちゃんだな!」

 いいこいいこ、してくれたの。

 だからね、もう、………ないていいよね。

「うっわ~ん!!ギュレン……」

 ぼくは、わんわん、ないたの。

 だって、ほんとは、こわかったんだもん。

 おかあしゃんが、「アル?」ってやさしく、ぼくのなまえを、よんだの。

 そしたら、いっぱい、いっぱい、なみだが、でたの。

 ーーーおにいちゃん……だって、なくもん!




 おじちゃんの、けーき、おいしかった。

 ギュレンとおかあしゃん、にこにこして、みんな、なかよし。

 だからね、ぼくも、うれしいの。

 ずっと、いっしょ、って、ギュレンがいうの。

 すっごい、でしょ?

 ずっと、いっしょ、なんだよ!!





 いっぱいないたら、また、ねむたくなった。

「ひつじしゃん、おかあしゃん、ギュレンのおよめしゃん、なるの。アルもギュレンのおよめしゃん?」

「羊さんではなく執事さんです。アル様」
 ひつじしゃんがひつじしゃんだといった。

 ーーーよくわかんない。

「アル様のお母様はグレン様のお嫁さんになりますが、アル様はグレン様の息子になります」

「???ギュレン、アルのむすこ?」

「ふふふっ、グレン様の息子です。今度からグレンではなく「お父様」と呼ぶことになるのですよ」

「おとうしゃま?」

「はい、そうです」

 ひつじしゃんは、いつも、アルにやさしいの。

 きょうは、いつもより、もっと、やさしいの。

だけど……「ギュレンはギュレンだよ?」

ーーーやっぱり、よくわかんない。


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