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112話  ラフェ

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 ◇ ◇ ◇  ラフェ

 アレックス様にお会いするためにやって来た。
 王都にいる時間より辺境伯領で過ごすことの多いアレックス様はもうすぐ王都のタウンハウスを発つ予定だと聞いた。

 執事さんにお願いしてお会いできるように頼んで、また今日タウンハウスへと一人でやって来た。

 アルバードは隣のおばちゃんにお願いした。

「ラフェ、久しぶりだな」

「アレックス様、あの時は失礼な態度をとって申し訳ありませんでした」

「気にするな。ラフェに隠し事をし過ぎていた。どこまで伝えるべきなのかタイミングを逃してしまったのは事実だ」

「グレン様に全て聞きました。わたしがもし渦中にその話を知ってしまえば、冷静ではいられなかったと思います。全て終わったあとだから多少は驚き…怒りもありましたが、受け入れられたと思います。
 アレックス様のご配慮に深く感謝申し上げます、ありがとうございました」

「うーん、ラフェ、お前は元夫のこと、もういいのか?」

「はい、グレン様にも伝えました。もう彼はエドワードではなくリオというわたしが知らない人になっています。彼からわたしに回されるお金があると説明を執事さんから聞きました」

「そうだ、リオは、平民になった。今はある貴族の屋敷で働きながら国が建て替えた賠償金を返済している。その中の一部はラフェたち親子にも渡されることになっている。
 それはお前が今までもらってもおかしくない金だ。リオはエドワードとして父親である義務を放棄して来たんだ。いくら記憶がなくてもあいつは全て知っていて、今の家族だけを選んだ。
 だからその金はアルの子育てのための養育費だ。もらって当たり前の金だ」

「ありがとうございます。アレックス様達が動いてくださったこと嬉しく思います。わたしは確かにお金にいつも困っていたし、苦しい生活で過ごして来ました。アレックス様を始めみんなが助けてくださいました。だから今があると思っています。
 ………でもわたしにも意地があります。アルバードに関するお金は、わたしが働いて、わたしが頑張って稼いだお金で育てたいと思っています。そのことに関しては、誰からも施しを受けたくないのです」

「それがお前が貧しくてもアルを育てるために頑張って来た意地なんだな」

「はい……グレン様に求婚されました。でも出来ればわたしに仕事をしないかとアレックス様が仰ってくださった通り、わたしを働かせてもらえないかと思っております」

「グレンのこと断るのか?」
 アレックス様が眉根を寄せた。

「い、いえ、あの、グレン様のおそばにいたいです。ただ、守られるだけでなく、自分が出来ることは頑張りたいのです。わたしの縫い物を喜んでくれる人がいるのなら出来れば続けていきたい。
 それにアルバードには胸を張って生きていきたい。グレン様に全て委ねて生きるのは嫌なんです。わたしはアルバードの母としてあの子の前で堂々と立っていたいんです」

 わたしの気持ちをアレックス様に伝えた。

「俺はお前の縫い物の素晴らしさは知っている。出来ればその技術が欲しい。我が領地の者達にもその縫い方を指導して欲しいと思っている。うちの領地はずっと他国からの侵入を防ぐためにずっと戦い続けて来た。お前が縫った騎士服は動きやすいんだ。そして丈夫で長持ちする。
 それが何故なのか俺には全く見当もつかない。だが、お前の作った服のおかげで騎士達の動きが良くなって来ているのも事実。
 辺境伯領は厳しい気候の土地柄のため仕事が少ない。特に女子供の仕事は限られているんだ。
 だからお前のその技術をみんなに教えてやってくれないか?」

「……わたしは特別なことはしていません。だけどそう言って頂けて光栄だと思っております。グレン様について辺境地へ行くのですから少しでもお役に立てるなら幸いです」

「助かる、感謝する」

「わたしも皆さんに少しでも恩返しができること嬉しく思います」


 ずっとアレックス様にお礼が言いたかった。わたし達を守ってくれたこと。そしてやっと言えたことにホッとした。


「ラフェ、俺はもうすぐ王都を発つつもりだ。グレンはコスナー達の後始末のためもうしばらくこの王都で過ごす。ラフェもバタバタになると思うがグレンが帰る時に一緒に我が領地へ来て欲しい」

「ありがとうございます。よろしくお願いいたします」

「待ってるぞ」

「はい」






 アレックス様の執務室を出て廊下を歩いていると、グレン様が壁に寄りかかりじっと立っていた。

「グレン様?」

「やっと出て来た」

 グレン様はわたしの顔を見てホッとした顔をした。

「どうしました?」

「アレックス様とどんな話をしたのかつい気になって仕事にならないから、まっ、ラフェが出てくるのを待ってたんだ」

 グレン様の言葉にくすくす笑いながら

「アレックス様にお礼を言ったんです。それとお詫びを。………わたしグレン様が辺境伯領に帰る時について行くことになりました。ごめんなさい、勝手に話を進めて」

 頭を下げて謝りながら報告する。

「アレックス様、俺より先についてくるように話を進めたのか?ったく、俺がきちんと話したかったのに!」

「あっ、違うんです。以前働かないかと言われて、わたしが辺境地で働きたいとお願いしたから、そんな話になったんです」

「ラフェが働く?お前は子爵夫人としてのんびり暮らせばいい」

「ううん、わたしはアルバードの母として胸を張って生きたい。向こうでわたしの縫い物の技術を教えることになりました。少しでも皆さんの役に立てるなら頑張りたい」

「………お前の作る服は不思議と着心地がいいんだ……助かる、俺からもお願いしたい。領民達の仕事が増えることはありがたい」

「グレン様の隣に胸を張って立てるように頑張ります」

「じゃあ、俺もラフェとアルのために、もっと精進する、お前達が辛い思いをしないように幸せにするからな」

「ありがとうございます、わたしもグレン様を幸せにしたいです」


「よろしく頼む、お前がそばにいてくれるだけで俺は幸せになれる」

 グレン様が頭を掻きながら照れていた。大きな体のグレン様なのになんだか可愛く感じてしまった。



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