【完結】色素も影も薄い私を美の女神と誤解する彼は、私を溺愛しすぎて困らせる。

すだもみぢ

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第4話 ミレーヌ

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私がこっそり家のドアを開けると、私の姿を見かけたメイドが他のメイドに声を掛け、数人がかりで私の存在をさりげない形で彼女たちの身体で隠してくれる。

「お嬢様がお帰りになったわ!」
「早く、お隠しして!」
 
 そのまま玄関ホールを抜けると、部屋へと続く二階の階段まで連れて行ってくれた。
 絶妙なる連携プレイだ。
 
 「レティエ!」
 
 私の帰りを待ってくれていたのだろうか。艶のある栗色の長い髪をなびかせた美少女が小声で叫ぶと階段を駆け下りてくる。
 息を切らせて薔薇色に染まった頬は健康的で、宝石のように深く青い瞳が心配そうに私を見つめてくる。
 彼女はミレーヌ。私のいとこだ。7歳の時にこの家に引き取られてきて、それから一緒に暮らしている。
 ミレーヌの両親……つまり私の叔父と叔母は雨の夜に事故で亡くなった。あの日、家で留守番をしていたミレーヌを残して。
 彼女が子供でなく一緒にパーティーに行く年齢だったらミレーヌも巻き込まれていただろう。
 今ではもう彼女のいないこの家なんて考えられないほどミレーヌはこの家になじんで、すっかり家族の一員だ。
 ミレーヌのその顔を見たら、私の中に無意識に張り詰めていた気持ちがようやく緩んだのか、ほっとしてその場に座り込みたくなってしまった。ちゃんと歩くけれど。
 
「メイドの応募どうだったの? 採用されたの?」
「よくわからないことになったのよ……話聞いてくれる?」
「よくわからない? どうしたの?」

 ミレーヌはドレスの裾を優雅に払って振り返ると、近くにいた侍女にお茶の用意を私の部屋に持ってくるように命じる。
 帰ってきたばかりの私が必要以上にひどく疲れていることを察してくれたようだ。
 私を部屋までエスコートして、そして平民のようなワンピースを着ていた私の着替えを手伝ってくれた。
 室内ドレスのリボンを彼女に結んでもらいながら、私はミレーヌに疑問を打ち明ける。
 
「ねえ、ミレーヌ……ファッションショーってなにかわかる?」
「それなら知ってるわ。最近行われるようになった、サロンに出張したモデルが新しいドレスを着せてみんなに見せて、そこでブティックにオーダーする方式でしょう?」

 だしぬけになんの話を始めたのだろう? とミレーヌが首を傾げている。
 さすがに社交的で情報通なミレーヌはファッションショーを知っていたようだ。彼女が参加していたサロンでもそういう催しがあったりしたのだろうか。

 今までの貴族は、社交シーズンが始まる前に自邸や城にブティックを呼んでドレスのオーダーをするのが主流だった。邸宅にデザイナーを呼べない下位の貴族の場合は自らブティックに足を運んだりして。
 その時にデザイナーが持参するのはデザイン画のみで、それを参考にしながら貴族は各自、好みのスタイルのドレスを新しく描かせ、それをオーダーするのだ。
 ひらひらしたケープのようなラバティンカラーの襟をイブニングドレスに向いたシースルーの布のバーサカラーに変えたり、布をドビー織から綾織の布に変えるなど、細かく丁寧に詰めていって。その場に持っていくのはせいぜい端切れや小物のサンプルくらいだった。
 しかしこの方法では新しいスタイルを打ち出す時はどういうものが出来上がるのかを想像するのが難しい。
 建築物を作る時も、詳細な模型を見た方が全体像を想像しやすくなるだろう。それと同じように今年流行しそうなものを数着仕立て、それを実際に身に着けた、等身大着せ替え人形マネキンを連れて行き、流行を視覚的に買う人たちに叩きこんで売るわけだ。費用はかかるが広告効果は以前に比べて絶大だろう。

「私、モデルとしてスカウトされたみたいなの」
「ええ!?」
 
 驚きに目を見開いているミレーヌに、私なんか地味な女がモデルに選ばれたことはやはり驚きよね、と自分では思っていたが、ミレーヌの驚きは違う場所にあった。
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