【完結】勇者と国王は最悪。なので私が彼らを後悔させます。

凛 伊緒

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3話

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「これより、エルザームの裁判を開始する!」

「罪状は、『王族に対する不敬罪』だ。さらに、相手は国王陛下その人である。異論はあるか、罪人エルザームよ。」

「何もありません。」

「ではエルザームに最も重い罰を与える事とするが、反対意見のある者はいるか?」

「「「……。」」」

「無いようだな。では『国王陛下への不敬罪』とし、終身刑とする。」

「待て。」

「へ、陛下っ!?何故このような場に…。」

「英雄と呼ばれるほどの魔法使いであるエルザームが、余に不敬を働いたのだ。その結末を見届けなければなるまいよ。」

「左様でございましたか。ですが、終身刑という罰に、異論があるのでしょうか。」

「無論だ。こやつは余の顔に泥を塗ろうとしたのだぞ?この意味が分かるよのう。」

「……罪人エルザームを、死刑とする!即日執行だ。異論のある者はいるか。」

「……そんな…。」


確実に始末しておきたいという国王の意思がよく分かる。
この場に来た時点で、死刑にするつもりだったのだろう。
ここまでが計画だったのだ。
国王という国の最上位者の発言に、意を唱える者などいない。
今回のような場合は、終身刑が最高刑になる。
国王が自ら裁判に来なければ…。
普通ならば有り得ないほど早い裁判の判決と閉廷に、私は拳を握る。


「これにて裁判は閉廷する。罪人エルザームを執行台へと連れて行け!」

「はっ!」

「シェルアにも来てもらう。」

「…っ……分かり…ました。」

「余も見届けよう。それと、この事は王国民に伏せておけ。混乱を防ぐ為だ。」

「かしこまりました。」


死刑の執行台へと徒歩で向かう。
そして……。


「言い残すことはないか。」

「シェルア……幸せになってくれ……──。」


目の前で師匠は殺された。
国王はそれを見て、微かに笑った…。
私は怒りが込み上げる。
しかし、その怒りを鎮めた。
ここで殺しても、何もならないと思ったからだ。
それに、最後に師匠は言葉を発さずに口だけを動かして、私に伝えた。
──復讐はしないように……と。

その場を離れた後、私は国境沿いにいた。


「復讐は師匠が望まない…。でも、師匠を殺したこの国に仕える義理もない。さよなら、私の母国。」


この国を出ることにした。
しかし、他国でもうまくはいかなかった。
だが、他人を傷付けるわけにもいかない。
旅人のように人族の国を渡っていった。

ある時、森を抜けようと自身に強化魔法をかけて走っていた。
すると前に人の姿が見えた。
よく見ると角が生えている。魔族だ。
問答無用で襲いかかってきたので、魔法で縛った。
後ろから息を切らした別の魔族が走ってくる。
こちらの様子は普通のようだ。


「はぁ…はぁ……なっ、これは!?ひひヒト族!?貴方は…いったい……。」

「人に名前を聞くのなら、自分から名乗るべきではありませんか?」

「これは申し訳ない。私は魔族のルガと申します。」

「ルガさんね。私はシェルアというわ。この方は…?」

「この方はシオラ様です。魔族同族の犯罪者に魔法をかけられてしまい、今は理性を失ってしまっています。暴走状態…とでも言えば良いでしょうか。」

「なるほど。では何故ここに?」

「先程魔法をかけられたところだからです。犯罪者の方は、私の部下達が取り押さえております。」

「そうですか。では少しよろしいでしょうか?」

「何をなさるのですか?」

「見ていて下さい。」


私はシオラという魔族の女性に手をかざす。
そしてかかっている魔法を解いた。
呪いのようなものだったので、解呪で元に戻すことが出来た。
魔法による拘束も解いておいた。


「ん……うぅん…。」

「シオラ様!?」

「貴方は……ルガ?」

「はい!ルガでございます!」

「そちらの方は誰なのですか?」

「この方はシェルアさんです。シオラ様にかけられた魔法を、解いて下さった方です!」

「そう……なのね…。うぅ…っ。」

「大丈夫ですか?!」

「身体に力が入らないわ。えっと……シェルア様。助けてくれてありがとうございます。こんな状態でごめんなさいね。」

「いえ、無理なされずに。感謝は十分に伝わっておりますから。それと、『様』はやめていただけますか?その……えっと…。」

「分かりました。シェルアさんと呼ばせて下さい。ぜひお礼がしたいのですが、魔族領にお越し下さいませんか?」

「それは構いませんが……私は人族です。魔族にとって、その……。」

「そんな事は関係ありません。人族も魔族も同じです。人族に優しい魔族がいるように、魔族に優しい人族もいます。貴女様のように。もし文句のある魔族がいるのならば、私が許しません。」

「そう……ですか。分かりました。同行させていただきます。」

「はいっ!魔族領ヴァンジェスガはすぐそこです。」


私はご好意に甘えることにした。
しかし、シオラに連れられた場所は……


「これって……。」

「魔王城ヘルヴァンです。父に報告をしてくるので、少しお待ち下さい。」

「え、ええ…。」


父とはまさか……と思った。
そしてそれは的中する。


「お待たせ致しました。父が会いたいと申しているのですが…。」

「私もお会いしたく存じます。ご案内願えますか?」

「はい。転移します。」


転移すると、目の前に巨大な扉が現れた。
そしてゆっくりと開かれる。
いかにもな道を歩いていくと、かなり強そうな魔族が座っていた。
否、この魔族は強い!


「よくぞ来てくれた。俺は魔王、エギュアスという。」

「私は人族のシェルアと申します。」

「話は聞いている。我が娘シオラを助けてくれた事、感謝するぞ。」

「いえ、当然の事をしたまでです。」

「心優しい人族だな。せめてもの感謝の証として、何か贈り物をしたい。望むものはあるか?」


エギュアスは、魔王に相応しい風格と強さがある。
欲しいものは何も無いが、『望むこと』なら思いついた。


「魔王エギュアス様。」

「様など付けんで良い。」

「では、エギュアス殿……?」

「何だ?」

「私を、貴方の配下に加えて下さいませんか?」
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