243 / 361
月の砂漠のかぐや姫 第241話
しおりを挟む
洞窟の奥へと歩き出す前に、羽磋はもう一度天井を見上げて耳を澄ませてみました。
先ほど聞こえてきた馬の足音は、羽磋たちがいる場所を通り越して進んで行ってしまい、既に聞こえなくなっていました。その音が進んでいった先を頭の中で思い起こすと、それはやはり羽磋たちがこれから進もうとしている洞窟の奥と同じ方向でした。
「冒頓殿、待っていてください。きっと僕たちはこの洞窟の外に出ますから」
羽磋は心の中で冒頓に呼び掛けると、力強く歩き出したのでした。
羽磋、理亜、そして、王柔は、再び一列になって、ほのかな青白い光に満たされた洞窟の中を奥へ奥へと進んでいました。夜の間休んでいたとは言え何も食べてはいないのですから、身体から疲れは抜けていません。でも、冒頓の護衛隊の馬が立てる足音を耳にしてからは、彼らの足取りはずいぶんと早くなっていました。
洞窟にはこれまでと変わった様子はなく、うねうねと曲がりくねってはいるものの極端に狭まったり上下したりするところはありませんでした。相変わらず洞窟の下部には川が流れていて、その水が放つほのかな青白い光が空間全体を照らしていました。大空間と繋がっていた場所から比べれば、今彼らが歩いているところはずいぶんと洞窟の幅が広くなっていましたが、天井の高さはさほど変わっておらず、彼らが手を伸ばして届くような高さまでそれが降りてきている場所はありませんでした。
「はぁ、はぁ。大丈夫ですか、理亜、王柔殿」
朝方に馬の走る足音を聞いてから、どれだけ歩いたでしょうか。先頭を歩く羽磋は、後を歩く二人を気遣って声を掛けました。でも、その間も彼の足は止まってはいませんでした。
「だ、大丈夫、です。羽磋殿。はぁ、はぁ。理亜も大丈夫です、な、理亜」
「うん、大丈夫だよ、オージュ」
後方から王柔が答えました。もちろん彼の答えも歩きながらのもので、自分の前を歩く理亜の様子を確認して羽磋に返事をしたのでした。自分の頭の上を通りこした王柔の声に、理亜も声を合せました。
王柔と理亜の声を聴いて、羽磋は一安心しました。長い間休憩も取らずに歩き続けていたので、二人のことが心配だったのです。でも、そう思いながらも、羽磋はできることなら休憩を取らずにこのまま歩き続けたいと考えていました。
これまでも早く外へ出たいという思いで歩いていたのはもちろんなのですが、冒頓の護衛隊の馬の足音という明確な希望が生じた今は、少しでも冒頓たちから遅れてしまうとその希望が消えてしまうように思えてきて、これまで以上に気が急いていたのでした。
ひょっとしたら、彼らはその心の動きの裏側で無意識の内に感じ取っていたのかもしれません。食料が尽き水も残りわずかなこの状況で、自分たちの疲れ切った身体を動かしているのはこの明るい希望なのだと。そしてもしもそれが失われてしまったら、もう二度と身体を動かすことができなくなってしまうだろうということをです。
洞窟は曲がりくねっているとはいえ、それでも奥へ奥へと繋がっています。
地上に広がっているヤルダンは複雑に入り組んだ地形で有名で、そのためにそこを通ろうとする交易隊は案内人が必要なほどでした。普通に考えれば馬が走り去った後を人間が歩いて追いかけることは困難ですが、この洞窟は地上ほどには複雑な形状をしていないので、羽磋はこのまま休まずに進んでいけば、それほど地上の冒頓たちに遅れることなく目的の場所に到着するのではないかと考えていました。
目的の場所とはどこでしょうか。そう、地上であれば母を待つ少女の奇岩が立つ場所ですし、この地下の洞窟であれば精霊の力が強まっている場所でした。この二つには何か関連があるのでしょうか。あるいは、この洞窟の先は外へと繋がっていて、出口から出た場所には母を待つ少女の奇岩が立っていたりするのでしょうか。
わかりません。わかりませんが、そうでないとも言えません。
とにかく、歩くしかない。前へ進むしかない。身体が動くうちに早くその場所へ辿り着かないといけない。
羽磋は後方からの返答を耳にして安心しましたが、生真面目な彼にしては珍しくそれに返事をすることすら忘れて、さらに自分の足に力を伝えるのでした。
天井から差し込んでくる光の帯を幾つ通り過ぎた頃でしょうか。ゆるやかな曲がり角を曲がってその先を見通そうとした羽磋の目に、これまでに見たことのなかった光景が飛び込んできました。
「え、これはっ」
少しでも早く冒頓たちと合流したいと思って足を止めずに歩き続けてきた羽磋でしたが、あまりに意外なその光景に気押されて、その場で立ち止まってしまいました。
「どうしたんですか、羽磋殿。ああ、す、すごいっ」
洞窟の幅はずいぶんと広くなってきていましたから、立ち止まってしまった羽磋の横に隊列の最後尾を歩いていた王柔が並ぶことができました。最初は前触れもなく止まってしまった羽磋を心配して声を掛けた王柔でしたが、羽磋の視線の先を追うとすぐに彼もその理由を理解しました。
先ほど聞こえてきた馬の足音は、羽磋たちがいる場所を通り越して進んで行ってしまい、既に聞こえなくなっていました。その音が進んでいった先を頭の中で思い起こすと、それはやはり羽磋たちがこれから進もうとしている洞窟の奥と同じ方向でした。
「冒頓殿、待っていてください。きっと僕たちはこの洞窟の外に出ますから」
羽磋は心の中で冒頓に呼び掛けると、力強く歩き出したのでした。
羽磋、理亜、そして、王柔は、再び一列になって、ほのかな青白い光に満たされた洞窟の中を奥へ奥へと進んでいました。夜の間休んでいたとは言え何も食べてはいないのですから、身体から疲れは抜けていません。でも、冒頓の護衛隊の馬が立てる足音を耳にしてからは、彼らの足取りはずいぶんと早くなっていました。
洞窟にはこれまでと変わった様子はなく、うねうねと曲がりくねってはいるものの極端に狭まったり上下したりするところはありませんでした。相変わらず洞窟の下部には川が流れていて、その水が放つほのかな青白い光が空間全体を照らしていました。大空間と繋がっていた場所から比べれば、今彼らが歩いているところはずいぶんと洞窟の幅が広くなっていましたが、天井の高さはさほど変わっておらず、彼らが手を伸ばして届くような高さまでそれが降りてきている場所はありませんでした。
「はぁ、はぁ。大丈夫ですか、理亜、王柔殿」
朝方に馬の走る足音を聞いてから、どれだけ歩いたでしょうか。先頭を歩く羽磋は、後を歩く二人を気遣って声を掛けました。でも、その間も彼の足は止まってはいませんでした。
「だ、大丈夫、です。羽磋殿。はぁ、はぁ。理亜も大丈夫です、な、理亜」
「うん、大丈夫だよ、オージュ」
後方から王柔が答えました。もちろん彼の答えも歩きながらのもので、自分の前を歩く理亜の様子を確認して羽磋に返事をしたのでした。自分の頭の上を通りこした王柔の声に、理亜も声を合せました。
王柔と理亜の声を聴いて、羽磋は一安心しました。長い間休憩も取らずに歩き続けていたので、二人のことが心配だったのです。でも、そう思いながらも、羽磋はできることなら休憩を取らずにこのまま歩き続けたいと考えていました。
これまでも早く外へ出たいという思いで歩いていたのはもちろんなのですが、冒頓の護衛隊の馬の足音という明確な希望が生じた今は、少しでも冒頓たちから遅れてしまうとその希望が消えてしまうように思えてきて、これまで以上に気が急いていたのでした。
ひょっとしたら、彼らはその心の動きの裏側で無意識の内に感じ取っていたのかもしれません。食料が尽き水も残りわずかなこの状況で、自分たちの疲れ切った身体を動かしているのはこの明るい希望なのだと。そしてもしもそれが失われてしまったら、もう二度と身体を動かすことができなくなってしまうだろうということをです。
洞窟は曲がりくねっているとはいえ、それでも奥へ奥へと繋がっています。
地上に広がっているヤルダンは複雑に入り組んだ地形で有名で、そのためにそこを通ろうとする交易隊は案内人が必要なほどでした。普通に考えれば馬が走り去った後を人間が歩いて追いかけることは困難ですが、この洞窟は地上ほどには複雑な形状をしていないので、羽磋はこのまま休まずに進んでいけば、それほど地上の冒頓たちに遅れることなく目的の場所に到着するのではないかと考えていました。
目的の場所とはどこでしょうか。そう、地上であれば母を待つ少女の奇岩が立つ場所ですし、この地下の洞窟であれば精霊の力が強まっている場所でした。この二つには何か関連があるのでしょうか。あるいは、この洞窟の先は外へと繋がっていて、出口から出た場所には母を待つ少女の奇岩が立っていたりするのでしょうか。
わかりません。わかりませんが、そうでないとも言えません。
とにかく、歩くしかない。前へ進むしかない。身体が動くうちに早くその場所へ辿り着かないといけない。
羽磋は後方からの返答を耳にして安心しましたが、生真面目な彼にしては珍しくそれに返事をすることすら忘れて、さらに自分の足に力を伝えるのでした。
天井から差し込んでくる光の帯を幾つ通り過ぎた頃でしょうか。ゆるやかな曲がり角を曲がってその先を見通そうとした羽磋の目に、これまでに見たことのなかった光景が飛び込んできました。
「え、これはっ」
少しでも早く冒頓たちと合流したいと思って足を止めずに歩き続けてきた羽磋でしたが、あまりに意外なその光景に気押されて、その場で立ち止まってしまいました。
「どうしたんですか、羽磋殿。ああ、す、すごいっ」
洞窟の幅はずいぶんと広くなってきていましたから、立ち止まってしまった羽磋の横に隊列の最後尾を歩いていた王柔が並ぶことができました。最初は前触れもなく止まってしまった羽磋を心配して声を掛けた王柔でしたが、羽磋の視線の先を追うとすぐに彼もその理由を理解しました。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
慈愛と復讐の間
レクフル
ファンタジー
とある国に二人の赤子が生まれた。
一人は慈愛の女神の生まれ変わりとされ、一人は復讐の女神の生まれ変わりとされた。
慈愛の女神の生まれ変わりがこの世に生を得た時、必ず復讐の女神の生まれ変わりは生を得る。この二人は対となっているが、決して相容れるものではない。
これは古より語り継がれている伝承であり、慈愛の女神の加護を得た者は絶大なる力を手にするのだと言う。
だが慈愛の女神の生まれ変わりとして生を亨けた娘が、別の赤子と取り換えられてしまった。
大切に育てられる筈の慈愛の女神の生まれ変わりの娘は、母親から虐げられながらも懸命に生きようとしていた。
そんな中、森で出会った迷い人の王子と娘は、互いにそれと知らずに想い合い、数奇な運命を歩んで行くこととなる。
そして、変わりに育てられた赤子は大切に育てられていたが、その暴虐ぶりは日をまして酷くなっていく。
慈愛に満ちた娘と復讐に駆られた娘に翻弄されながら、王子はあの日出会った想い人を探し続ける。
想い合う二人の運命は絡み合うことができるのか。その存在に気づくことができるのか……
【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~
ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。
王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。
15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。
国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。
これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。
神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
『王都の神童』と呼ばれた俺、職業選定でまさかの【遊び人】三連発で追放される。……が、実は「全職業のスキル」を合算して重ねがけできる唯一のバグ
よっしぃ
ファンタジー
王都で「神童」の名をほしいままにしていた少年、ディラン・アークライト(17歳)。
剣を握れば騎士団長を唸らせ、魔法を学べば賢者を凌駕する。誰もが彼を「次代の勇者」と信じて疑わなかった。
しかし、運命の職業選定で彼が得たのは――【遊び人】。
それも、三つの職業スロットすべてが【遊び人】で埋まるという、前代未聞の怪現象だった。
「期待外れだ」
「国の恥晒しめ」
掌を返した周囲によって、ディランは着の身着のままで街を追放される。 だが、かつて神童と呼ばれた彼の「分析力」は死んでいなかった。
『……Lv1なのに、ステータスが異常に高い? それに経験値が分散せず、すべて加算されている……?』
彼だけが気づいた真実。
それは【遊び人】という名に偽装された、この世界の管理者権限(Free-Hander)であり、全職業のスキルを制限なく使用・強化できるバグ技(デバッグモード)への入り口だったのだ。
これは、理不尽に捨てられた元・神童が、その頭脳とバグ能力で世界を「攻略」し、同じく不遇な扱いを受けていた美少女騎士(中身は脳筋)と共に、誰よりも自由に成り上がる物語。
【著者プロフィール】アルファポリスより『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』を出版、オリコンライトノベル部門18位を記録。本作は2月に2巻刊行予定。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる