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2.妻を亡くした騎士団長
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「団長~! 訓練後くらいエール飲みに行きましょうよ!」
「俺がいると雰囲気を暗くしてしまう。お前達だけで俺の分も楽しんできてくれ」
誘ってくれた部下に寸志を渡そうとすると……
「いえ、団長……俺らそういうつもりで誘ったわけじゃないですから……なあ」
うんうんと頷く団員達。だが、俺は……
「いいんだ。どうせ、俺には使い道のない金だ。お前達に使ってもらった方が金も喜ぶ」
「分かりました、ありがたく使わせてもらいます」
金貨を数枚渡すと団員達が一斉に頭を下げる。
妻を亡くして以来、私はすっかり意気消沈してしまい、部下や仲間達からの飲みや遊びの誘いも断り、仕事以外はただ、生ける屍のように生きるだけになっていた。
――――だが、そんなある日……
各騎士団を統括するヘルマン軍務卿から呼び出された。
「貴殿に恋人はいるか?」
突然、そんなことを振られる。いつも仕事のことばかりしか話さない軍務卿なのにおかしい……
「いえ、おりません!」
「そうか! ならば良い話がある。聞いてくれまいか?」
「は! 仰せとあらば、なんなりと!」
上司の言葉は絶対……とは言え、そこまで無茶を押し付ける方ではないが……
「うむ、侯爵様のご令嬢と婚約してもらいたい」
「えっ!?」
まさかあの噂のマグロ令嬢!?
「顔に出ておる。王子殿下との曰く付きとあって、誰も引き受け手がおらず、侯爵様もほとほと頭を悩ませておるのだ。侯爵様と儂の顔を立てると思い、形だけでも良いのだ……」
失礼ながら、驚きが顔に出てしまったようで指摘されてしまった。だが、ヘルマン卿は叱ることなく、話を続けられ……
「どうか、頼む……」
いつもお世話になっているヘルマン卿が禿頭を丁寧に下げているのだ……
「分かりました。その件、お引き受け致しましょう」
俺に断れるはずもなかった。
そんなことがあったが仕事を終え、夜を一人で過ごしていると……自宅のドアがノックされる。
「団長、俺です、ヨルギスです!」
「お~、どうした?」
「これ、もらって下さい」
ワインのボトルを持って、片腕となって活躍してくれるヨルギスが訪ねてくれた。
「済まんな……」
「何言ってるんですか、俺達にエール奢ってくれたようなもんじゃないですか……じゃ、俺はこれで」
「寄ってかないか?」
「邪魔しちゃ悪いんで今日は帰ります」
「ああ、ありがとう」
俺達のことを見知ってて、妻との思い出の銘柄のワインを……粋なことをしてくれる良い奴だ。
キュポン! コポコポコポコポ……
栓を抜き、二人分をグラスに注ぎ、誰も居なくなった席に置く。
「なあ、エレオノーラ……俺、婚約することになった……ただ、形だけなんだが、それでもいいか?」
誰も居なくなった席からは返事がある訳でもなく……だが、亡き妻に断りをいれずにおれなかった。
――――侯爵家。
時はすぐに過ぎ、俺は侯爵家に招かれていた。
「近衛騎士団長のヴェルナーです。どうぞ、よろしくお願いします」
「アーシャです、不束者ですがよろしくお願いします」
侯爵ご夫妻が見守る中、俺は件のご令嬢と初顔合わせをしている。だが、余りのことに正直、驚きを隠せないでいた。
(侯爵令嬢アーシャが美しい過ぎるのだ……)
光沢のあるブロンドにエメラルドのように美しい瞳……憂いを帯びた表情が堪らなく俺の庇護欲を刺激してしまう……ただの体裁を保つだけの婚約なはずが、まさか噂のマグロ令嬢がこんなにも美しいなんて!
「なっ!? 美しい……王族とはこんなにも美しい令嬢を簡単に捨ててしまうのか!」
「えっ!?」
俺は彼女の容姿を見た途端、本音が漏れ出てしまっていた。
「済まない……」
「い……いえ……」
侯爵様が申し訳なさそうに仰る。
「ヴェルナー殿、娘はご存知の通り、王子殿下より婚約破棄を申しつけられた身……会って下さるだけでも感謝したい」
ヘルマン卿から伝え聞いた話だと貴族達の男子は王子殿下の手付きのようになってしまったアーシャを嫌がり、他の有力騎士も妻帯者ばかりで俺が蹴れば、修道院に入ると言う……
「侯爵様……そんな頭を下げないで頂きたいです。寧ろ、俺のような男やもめにお話を頂けただけでもありがたく存じます」
俺は彼女を修道女にさせるものかと思ってしまっていた。
「俺がいると雰囲気を暗くしてしまう。お前達だけで俺の分も楽しんできてくれ」
誘ってくれた部下に寸志を渡そうとすると……
「いえ、団長……俺らそういうつもりで誘ったわけじゃないですから……なあ」
うんうんと頷く団員達。だが、俺は……
「いいんだ。どうせ、俺には使い道のない金だ。お前達に使ってもらった方が金も喜ぶ」
「分かりました、ありがたく使わせてもらいます」
金貨を数枚渡すと団員達が一斉に頭を下げる。
妻を亡くして以来、私はすっかり意気消沈してしまい、部下や仲間達からの飲みや遊びの誘いも断り、仕事以外はただ、生ける屍のように生きるだけになっていた。
――――だが、そんなある日……
各騎士団を統括するヘルマン軍務卿から呼び出された。
「貴殿に恋人はいるか?」
突然、そんなことを振られる。いつも仕事のことばかりしか話さない軍務卿なのにおかしい……
「いえ、おりません!」
「そうか! ならば良い話がある。聞いてくれまいか?」
「は! 仰せとあらば、なんなりと!」
上司の言葉は絶対……とは言え、そこまで無茶を押し付ける方ではないが……
「うむ、侯爵様のご令嬢と婚約してもらいたい」
「えっ!?」
まさかあの噂のマグロ令嬢!?
「顔に出ておる。王子殿下との曰く付きとあって、誰も引き受け手がおらず、侯爵様もほとほと頭を悩ませておるのだ。侯爵様と儂の顔を立てると思い、形だけでも良いのだ……」
失礼ながら、驚きが顔に出てしまったようで指摘されてしまった。だが、ヘルマン卿は叱ることなく、話を続けられ……
「どうか、頼む……」
いつもお世話になっているヘルマン卿が禿頭を丁寧に下げているのだ……
「分かりました。その件、お引き受け致しましょう」
俺に断れるはずもなかった。
そんなことがあったが仕事を終え、夜を一人で過ごしていると……自宅のドアがノックされる。
「団長、俺です、ヨルギスです!」
「お~、どうした?」
「これ、もらって下さい」
ワインのボトルを持って、片腕となって活躍してくれるヨルギスが訪ねてくれた。
「済まんな……」
「何言ってるんですか、俺達にエール奢ってくれたようなもんじゃないですか……じゃ、俺はこれで」
「寄ってかないか?」
「邪魔しちゃ悪いんで今日は帰ります」
「ああ、ありがとう」
俺達のことを見知ってて、妻との思い出の銘柄のワインを……粋なことをしてくれる良い奴だ。
キュポン! コポコポコポコポ……
栓を抜き、二人分をグラスに注ぎ、誰も居なくなった席に置く。
「なあ、エレオノーラ……俺、婚約することになった……ただ、形だけなんだが、それでもいいか?」
誰も居なくなった席からは返事がある訳でもなく……だが、亡き妻に断りをいれずにおれなかった。
――――侯爵家。
時はすぐに過ぎ、俺は侯爵家に招かれていた。
「近衛騎士団長のヴェルナーです。どうぞ、よろしくお願いします」
「アーシャです、不束者ですがよろしくお願いします」
侯爵ご夫妻が見守る中、俺は件のご令嬢と初顔合わせをしている。だが、余りのことに正直、驚きを隠せないでいた。
(侯爵令嬢アーシャが美しい過ぎるのだ……)
光沢のあるブロンドにエメラルドのように美しい瞳……憂いを帯びた表情が堪らなく俺の庇護欲を刺激してしまう……ただの体裁を保つだけの婚約なはずが、まさか噂のマグロ令嬢がこんなにも美しいなんて!
「なっ!? 美しい……王族とはこんなにも美しい令嬢を簡単に捨ててしまうのか!」
「えっ!?」
俺は彼女の容姿を見た途端、本音が漏れ出てしまっていた。
「済まない……」
「い……いえ……」
侯爵様が申し訳なさそうに仰る。
「ヴェルナー殿、娘はご存知の通り、王子殿下より婚約破棄を申しつけられた身……会って下さるだけでも感謝したい」
ヘルマン卿から伝え聞いた話だと貴族達の男子は王子殿下の手付きのようになってしまったアーシャを嫌がり、他の有力騎士も妻帯者ばかりで俺が蹴れば、修道院に入ると言う……
「侯爵様……そんな頭を下げないで頂きたいです。寧ろ、俺のような男やもめにお話を頂けただけでもありがたく存じます」
俺は彼女を修道女にさせるものかと思ってしまっていた。
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