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9.解決

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「見つかったか?」
「いえ……」

 捜索に行き戻ってきた団員達に訊ねるも首を横に振るばかり……だが、そのときヨルギスが両手に何かを持って、駆けつけた。

「団長~! これ……関係ないかと思いつつもどうしても気になって……」

 これは!? アーシャの靴……

「どこに落ちていた?」
「外壁の東城門付近です、おかしなことに南城門にももう片方が……」

「よくやった! 間違いない、アーシャの靴だ。イライザ様とアーシャは一緒にいる可能性が高い。西城門に向かぞ!」

「は!」

 ヨルギスの勘が当たり、重要な手掛かりが出来た。


 ――――西城門。

 城門の前で停車しているかと思ったら、騎士が臨検に伺おうとしたときだった。急に発車させ、逃亡を図っている。

「あれだ! あの馬車を追え! 弓は使うな! イライザ様に当たるからな! ボーラを使え!」

 団員達に両端に分銅のついた縄を使うことを指示した。馬車馬の脚に向かい、一斉に投げつけられ、脚を絡め取る縄。

 脚を取られた馬は前のめりに転び、御者が投げ出された。

「囲め!」

 傾いた馬車には腕を縛られたアーシャともう一人の女……恐らくイライザ様か!

「近づかないで!」

 イライザ様はアーシャの首にナイフを当て、俺達を遠ざける。

「止めて下さい! 俺の婚約者を返して下さい!」
「ヴェル!」

 良かった、怪我はなさそうだ。

「あなたがアーシャの……許せない! 許せない! 許せない! あんなに格好良くて、あなたに優しい目を向ける人がいるなんて! 何で皆、アーシャ、アーシャなのよ!!!」

「痛い……止めて……イライザ……」

 襟を締め上げ、感情が高ぶって何をしでかすか分からない。

(俺はまた、大事な人をこんなことで失いたくない!)

 目でヨルギスに合図すると火を付けた炸裂弾をイライザ様の後ろに投げた。


 パーーーンッ!


 眩い光とともに大きな音が鳴り響き、彼女の注意がアーシャから逸れる。

「痛い! 何すんのよぉ~!」

 ガブッ! とアーシャもイライザ様の腕を噛み、怯んだ隙に俺は間合いを詰め、ナイフを押さえた。

「止めなさい! 無礼者! 私は次期王妃なのよ!」
「たとえ、次期王妃だろうが俺の女に手を出すなら、許さない!」

「ヴェル……」

 グローブをしていてもじわりと掌から血が滲んでくる……

「どいつもこいつも、私を馬鹿にしてぇぇーー!!」

 ヨルギスがアーシャを保護し、俺はもう片方の腕で手刀を打ち込んで、暴れるイライザ様を昏倒させた。

 団員達がすぐに手錠を掛け、拘束したのだが……

「ヨルギス……いつまで俺の婚約者にくっ付いている。早く離してくれ」
「済みません、団長! アーシャさん、ごめんなさい」

「いいえ、どうもありがとうございました」
「いえいえ」

 くそ、ヨルギスの奴、にやにやしながらアーシャに鼻を伸ばしやがって!

「団長がそんな焼き餅焼きだったなんて、知りませんでしたよ」

「うるさい! 俺はアーシャが怪我してないか確認したいだけだ」
「はいはい、ご馳走様です」

 こいつは有能だけに油断出来ん! アーシャの靴じゃないかと持ってきた勘の鋭さがイライザ様を追う手掛かりになったのだから……

「ヴェルの手が……」
「こんなもの掠り傷だ。ポーションでも飲んどきゃすぐ直るよ」

「それより、何とも無かったか?」
「うん……危なかったけど、ヴェルの声が聞こえて……」

 俺はアーシャをしっかりと抱き締めた。

「ヴェル……」
「人前だから……」

「俺はアーシャが噂みたいなことなんてないって皆に知ってもらいたんだよ。だから、しばらくこのままでいさせてくれ」

 団員達に聞こえないように耳元で囁く。

「アーシャ……家に戻ったら、続きをしよう」
「はい……いっぱいヴェルに抱き締めて欲しい……」

 頬を赤らめたアーシャが愛おしくて、このままキスしたかったが、流石に自重した。

 仕事を早く仕上げようと拘束したイライザ様と従者を移送し、尋問のため騎士団の駐屯所に戻ろうとしたときだった。

「イライザ様と家従の身柄を引き渡してもらおうか」

 突然、黒い馬に乗り、派手な衣装に外套に身を包んだ連中が現れ、俺達に言い放った。


(護衛隊!?)


 ヨルギス達、団員が護衛隊の横暴に噛み付く。

「お前ら、何も捜索に加わらなかった癖に寝言を言ってやがる!」
「二人は騎士団が保護したんだ。護衛隊が何でしゃばってやがる」

 上前を跳ねるとは正にこのことだろう……だが、目つきの鋭い護衛隊の隊長アランが……

「イライザ様は王子殿下の婚約者、殿下の手足である我々に引き渡すのが筋であろう……」
「なんだと!?」

 確かにイライザ様は殿下の婚約者……国王陛下の直属の俺達の管轄外ではある。

「ヨルギス、止めておけ。こいつらは所詮、こんな奴らだ。抵抗しようが圧力を掛けて、力尽くでも奪ってくる。俺も仲間に怪我人を出したくない」

 俺達は必死で探し回ったイライザ様を王子殿下の直属である護衛隊へと引き渡した。

「ご苦労! それではさらばだ、諸君」

 手柄を横からかっ攫われた形となってしまい、深夜を押して捜索した団員達には疲労の色が見える。

「よし! 明日は休みにするぞ!」
「「「「団長ぉぉぉーーー!!!」」」」

 もう、すでに日は替わっていたが……もちろん、俺は無事だったアーシャを慰めてやるために休みにした。
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