毒花姫

浦 かすみ

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嫁を愛でる男

夢男と夢子?

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ブランシュアンド殿下と婚姻してから、色々と分かったことがある。ブラッシュアンド殿下は自分の萌えを共感して欲しいタイプだ。

萌えと夢を妄想するのは構わないが、人にその萌えと夢を押し付けるのは如何なものかと…最近特にそう思うことがある。

私はその夢を押し付けてくる、一部特殊性癖を持つ者達の集団を『カプ厨夢男同盟』と心の中で読んでいた。

同盟のメンバーは我が夫…この国の王太子殿下のブランシュアンド、そして私の侍従のマットスの実兄のマリフェイト=ルクリティー子爵子息、唯一の女性メンバー、伯爵令嬢のパラメフィア=シビリ様。侯爵子息のレイモンド=ビジュー様。

そして私はそのおかしな取り合わせの人達の同盟の名誉顧問?みたいな感じで毎回このメンバーで集まる時には呼び出しを受けている。それは何故かと言うと…

「きゃああ!おはようございますぅぅ王太子妃殿下ぁぁあ……ハァハァ今日もお美しい…ジュルッ……」

「………おはようございます、パラメフィア様」

ピョンと飛び上がった、パラメフィア=シビリ伯爵令嬢は頬を染め…私を見てハァハァ言っている。涎が垂れてるぞ?

そう…このパラメフィア=シビリ伯爵令嬢は、私とブランシュアンド殿下のカップルの熱烈な信者らしいのだ。

男性の恋愛の手練れっぽい男達にハァハァ言われるのは、ある意味慣れているのだけど、女子…しかも15才の女の子にハァハァ言われるのは全然慣れていない。

パラメフィア様曰く、王家主催の舞踏会に出席した際にブランシュアンド殿下と私が現れた時に目覚めた…らしい。

「これだ…これだと思いましたよぉ!?分かりますかこの胸の高揚…ブランシュアンド殿下とネシュアリナ様の周りが光り輝いて、まるで別世界の神々しさで御座いました!」

この熱量…舞踏会の時に私達の姿を直視し、私が微笑みかけた時に気絶した彼女はその日から私達の熱烈な追っかけでこの集まりに参加してきた唯一の女性になった。

もう一度言おう、ブランシュアンド殿下と私というカップルを見て萌えるカプ厨で夢子を拗らせている伯爵令嬢だ。

因みに、うちの旦那(ブランシュアンド)もマリフェイト様もレイモンド様も普通のカプ厨である。こうなってくるとカプ厨萌えだけでも、変態度のキャラが薄く感じて物足りないと思ってしまう私は既に何かに毒されているのだろうか…

「それはそうと、近衛騎士の今年入隊したヒューワ=ガレッジを存じているかな?」

めっちゃ真剣に…まるで密談でもしているかのようなそれはそれは重々しい雰囲気を醸し出しながら旦那が話し出した内容は……

「ガレッジは裁縫部のメイド、リリカ=ビスレ嬢に想いを寄せているようだ」

ただの新しい恋の予感♡の報告だけどな!うちの旦那、黙ってれば国一番の男前だと思うのよ。ただ口を開けばカプ厨の萌え語りばっかりだけど……

「それは…!確か縫製部の口元に黒子のある色っぽい方ですよね…」

レイモンド様がニヤリと笑っている。心の中で色気のある黒子のメイドを妄想しているのか…キモイ。

「それ…それぇ…リリカ様はガレッジ卿よりと…とと、年上ですよね!?お姉様と年下騎士の禁断愛よぉ!」

この世界のラノベ?の様な書籍に影響を受けたらしいパラメフィア様が叫んだことによって、マリフェイト様もうちの旦那も顔を真っ赤にして…妄想したみたいだ。

この妄想厨の拗らせ共め…

「リリカ様とガレッジ卿の恋の進展は見守りが必要ですね!」

マリフェイト様の興奮した声にカプ厨萌えのメンバーは深く頷き返していた。

私はハァハァ言う男女の声を聞きながら、お茶を飲んで一息ついていた。

□ ■ □

ある日の午後の執務室…

ブランシュアンド殿下が執務室に入って来るなり、ハァハァ言っている。これは息切れとか体力的なハァハァではない。

またか……

私と同じような表情をしているスギロさんに目配せをすると、私が代表してブランシュアンド殿下に微笑みかけた。

「あら?殿下どうされましたの?」

白々しい演技だが、ハァハァ言っているブランシュアンド殿下は気が付かない。

殿下は胸を押さえながら執務室の簡易ソファに座った。またエアー被弾かな?

「すごいものを見てしまった…」

ふーーん…まさか情事の最中を見たんじゃないでしょうね?

スギロさんは早々に戦線離脱をしており、会計書類の計算を初めてしまっている。

殿下は胸を押さえながら何故か空中に腕を掲げた。

エアースポットライトが見えるわ…!どうしたっ!?天から舞い降りる神の恩恵でも掴もうってか!?

ブランシュアンド殿下はエアー神の恩恵を手に握り締めると、胸の前で手を組み合わせている。神々しい場面だろうけど、祈ってるのはカプ厨の神?にだからなっ!

「今日……下男と思しき少年に若いメイドの女子が手紙を渡している現場に遭遇してしまったのだ!あの手紙には愛の告白がしたためられているに違いないっ……凄かった!」

「へえ…」

ある意味予想どおりだった。

しかしだね、何故いきなり見ただけで愛の告白だと断言できるんだよ。まさか手紙の中身を見たのか?もしかしたら果たし状かもしれんだろう?

しかもそんな覗きみたいな行為はなんだ?まさか手紙を渡している女子も王太子殿下に見られてるなんてこれっぽっちも思ってないだろうさ!

「まあ……オホホ、それはそれは…初々しいわね」

本音は全て隠して、微笑んで見せた。このブランシュアンド殿下のカプ萌え語りに慣れていなかった時は、あからさまに嫌そうな顔を殿下に見せて、ブランシュアンド殿下の夢男心を悪戯に傷付けていたけれど、殿下の侍従のスギロさんと側近のマイラ大尉に静かに諭されたのだ。

「多少気味が悪いとは思いますか、堪えて下さい。実害はありませんので」

王太子殿下に容赦ないな!

…と、思ったけど確かに普通の貴族令嬢なら恋人や夫が自分以外の女性を一種独特な眼差しで見詰め、熱く褒めたたえていることに悋気を覚えてしまうところだろうけど、生憎と私の中身は元異世界人のおばちゃんだ。

カプ厨ですかそうですか!処女厨ですかそうですか!体格差萌厨ですかそうですか!

ブランシュアンド殿下とその仲間達を生温かい目で見てあげることが出来る稀有な存在だ!…と自分のことをそう思っている。

「その愛の告白が綴られた手紙を渡した時のメイドの表情と言えば、嬉しそうな恥ずかしそうな…とても初々しい表情をしていてな…胸が熱くなった…!」

私が物思いに耽っている間に、ブランシュアンド殿下の萌え語りが進んでいたようだ。

「一瞬、どちらを追いかけようか迷ったが…」

ん?

「女子の後をつけてるのは流石に躊躇われたので…下男と思しき少年の後を付けたのだ」

んん?

「調理場の方に入っていたので、後で料理長に彼は誰だ?と聞いて身元は確認済みだ!」

んんん?

侍従のスギロさんが顔を上げて、ブランシュアンド殿下を胡乱な目で見詰めている。

「殿下…それは殿下が少年をつけ回した…ということでしょうか?」

スギロさんっ!?言っちゃいけないけど、当たってます!

「そうですか…大人が少年の後をつけ回して職場まで特定し個人名まで入手していたとは…嘆かわしい…」

そう声がしたので振り向くと、側近のマイラ大尉が戸口に立っており秀麗なお顔を歪ませていた。

「あ、後をつける…とかそういうものではなくてだなっ…崇高で尊い…」

「一歩間違えれば犯罪者じゃないですか…」

マイラ大尉が言い訳を重ねようとしていた王太子殿下をズババッと切り捨てた。

そうだよねっ崇高だか平行だか利口だか知らないけど、大人が子供の後を追いかけるなんてあってはならないことだぞ!

「ブランシュアンド殿下…まさか後をつけている姿をメイドや近衛に見られていませんよね?」

私が静かにそう聞くと、ブランシュアンド殿下が顔色を変えた。

「ああ…今更ですわね…ブランシュアンド殿下の護衛をしている近衛に今までも散々醜態を見せていますしね…」

「醜態……」

ブランシュアンド殿下は胸を押さえてソファに崩れ落ちた。

〇ティー〇ンターに狙われたフリはもういいから、とっとと仕事をしろ!

□ ■ □

さて昼間は自国の王太子殿下をこれでもかっ!と、晒し者にしたことを反省しつつ…慰めてあげることにした。

政務が終わり自室に引き上げてきた時に、散々に皆に弄られてしょんぼりしていたブランシュアンド殿下の耳元に、囁いてあげた。

「ブランシュアンド、私と一緒に湯殿に入りますか?」

「…っ!?はいっっ!」

チョロイン旦那はすぐに復活した……

今日の湯舟の中には花の花弁……は嫌なので、花の香油を入れておいた。いい香り…

ブランシュアンド殿下の体に凭れながら、ゆったりと湯に浸かる。カプ厨で夢男のブランシュアンド殿下は非常に真面目なので、内心はどうかは分からないが湯舟の中で如何わしいことを…というのはちゃんと許可を取ってから触ってくる徹底ぶりだ。そう今も……

「ネリィ…触って良いか?」

なんか、ハァハァ言ってるな…私を抱き抱えているブランシュアンド殿下の手を優しく擦ってあげた。

「ブランシュの好きなように…」

私が許可をするとサワサワと手を動かし始める夢男。

そんな夢男と暫くお風呂でイチャイチャした後…寝台に場所を移動した私達…再びイチャイチャして、流石に明日に差し障りがで出てはいけないので、そろそろ寝ましょうか…となった時に寝入りばなに夢男が炸裂した。

「そ、そうだ!ネリィ、今度この寝台にハラブレアの花びらをいっぱい敷き詰めてその上で…2人で裸で…ハァハァ」

「花弁が寝台の上で腐って臭くなるだけです、もう眠って下さい」

「………はい」

深夜に夢男の妄想をねじ込むな!とっとと寝ろ!
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