無自覚フェロモン系男子篠灑君の学園性活

庚寅

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「しーちゃん、俺の事親衛隊長にして!」


 まだ雨の日の続く放課後、毎日恒例となってきた呼び出しからうんざりとしながらも寮の自室に帰ってきた篠灑しのせに、同室者の成宮なるみや基樹《もとき》が玄関先まで詰め寄って来て言った。

「は?成宮、部活は?」

 そんな成宮に僅かに驚きを見せながらも、篠灑は構わず靴を脱いでリビングを通りぬけ、リビング奥に二部屋に別れている部屋の右側、篠灑の部屋へと向かう。

 学生寮は、役職持ち以外の一般生徒は基本二人部屋になっていて、高級マンションの一室のような部屋の中は、広めのリビング、キッチンの他に各自の個室として二部屋ある2LDKの間取りとなっていて各部屋の防音対策もされている、共有部とプライベート空間がしっかりと両立する造りとなっている。

 もちろん個室には内鍵が付いているが、朝の弱い篠灑は基本成宮に起こして貰っているので鍵を掛ける事は普段から殆ど無く、家具家電も備え付けの物をそのまま使っているし、人に見られても別段困る物も置いてはいないので、成宮が部屋に入って来ても今更困る事は何も無いと自分の部屋に向かう足取りにも迷いは無い。

 そんな篠灑の後ろを成宮はピタリと追いかけてくる。

「今日は部活は休み!ねえしーちゃん、俺の事親衛隊長にしてくれよ!」

 成宮は長身を僅かに屈めながら、篠灑から見て上目遣いになるように角度を付けて「ね?」と小首を傾げる。
 甘めの垂れ目顔で、長めのツーブロックパーマを金髪に染めた成宮は、雰囲気こそ緩く可愛らしくお強請りしてくるが、その背丈は178cmの篠灑よりも僅かに高く181cmと言う長身だ。
 部活動ではバスケ部に所属していて、体つきも決して華奢とは言えず、篠灑の目に可愛らしく映るのには中々に無理があった。

「成宮、お前親衛隊持ってたんじゃなかったか」

「うん、今日解散させて来たから大丈夫!」

 篠灑が制服から部屋着に着替えているのを遠慮もなく見つめ続けながら、成宮は明るく返答する。
 178cmの篠灑の身体は程よく筋肉も付いて靱やかだ。
 手足も長く、無造作に着替えているだけなのにその仕草のひとつひとつから目が離せない。

 前屈みになった時の背中のラインや、着脱の際に見えるしっかりと割れて引き締まった腹部、腰も細い訳では無いのに綺麗に括れ、臀部へと流れる様なラインが美しい。
 下半身もしっかりとして見えるのにその長さ故か野暮ったさは少しもなく、筋肉や関節部の凹凸すらも計算され尽したかの様だ。
 成宮の体温は見ているだけなのに自然と上がり、呼吸も僅かにだが荒くなってくる。

 そんな成宮に僅かに呆れた目線を寄越している篠灑の様子も、成宮は全く気にしていない様子でいる。

 篠灑は最近癖になりつつある溜息を短くいてから、成宮の脇を摺り抜けリビングのソファーへと腰を下ろした。
 すると成宮がすかさずキッチンから飲み物を用意してきて、篠灑の前、ソファーとセットで置いてあるテーブルの上に置く。
 其れに「サンキュ」と短く礼を言って口を付ける篠灑を、成宮はにこにこと眺めていた。

 成宮は篠灑と同室になってから毎日の様にこうして甲斐甲斐しく、隙あらば常に世話を焼きたがって、始めの頃は鬱陶しがっていた篠灑も今はある程度は甘受する様になっていた。
 決して篠灑に不利になる事はしないし、唯鬱陶しく感じていただけなので、篠灑の拒否にもめげずに楽しそうに嬉しそうに世話を焼く成宮の事は、もう気にしない事にしたのだ。

「成宮、お前何で俺の親衛隊なんて作りたいんだ」

 抑、親衛隊を簡単に解散なんて出来ない。
 そう教えてくれたのも、成宮ではなかったか。

 親衛隊とは人気のある生徒に出来たファンクラブを、秩序を守らせる為に委員会の様な枠組みに嵌め込んだもので、成宮からの説明では親衛隊長と副隊長を中心に組織されており、その活動内容や在り方もそれぞれの親衛隊によってかなり違うらしい。

 月に一度は夫々それぞれの代表者が集まっての会議があるし、親衛隊持ちの生徒には親衛隊監視の元、他生徒が不用意に近付けない様牽制したり、対象者の要望を聞いたり、他親衛隊や学園内の情報を集めて対象者の為に役立てたりと、様々な事に対応しなくてはならない。

 篠灑からすれば、よくそんな面倒な事をしたいと思うものだと説明を聞いた時にもその心理に少しの共感も抱けなかった。

 それ故に、成宮がそこまでして自分の親衛隊長なんてものになりたがる意味が、篠灑には分からなかった。

 それに、そんな親衛隊の制御を行うのは対象者だと教えてくれたのも成宮だ。

 篠灑自身も、成宮にそう教えられてたからこそ、幾度か申し出のあった親衛隊設立の申し込みを全て断っていた。
 親衛隊と言う仕組みにも、その存在自体にも興味の持てない自分が親衛隊を持ってもその統率や管理なんて出来ないし、したくも無い。
 そんな面倒な事には関わりたく無いと、申し込みの全てを告白や勧誘と同じく、すげ無く断ってきたのだ。

 それを一番知っているのも、成宮である筈だと篠灑は思っていたのだが。

「しーちゃん、俺の事親衛隊長にしてくれたらしーちゃんの煩わしさは格段に減るよ。
 まず親衛隊が付けば、毎日呼び出されている告白も無くなるし、迷惑そうにしている勧誘もしーちゃんの所に直接いく事は無くなる。し、そんなことは俺がさせない。
 しーちゃんがお昼寝出来るように、いい場所確保もしてあげれる。
 親衛隊長が俺だから、何か気に障ることや気になる事は俺に言ってくれれば直ぐに改善するし、しーちゃん自身が隊の管理やなんかを気にする必要も全く無いよ。
 管理も統率も全部俺がやるから。
 しーちゃんが学園で過ごしやすい様に、そのお手伝いを俺にさせて欲しいんだ。」

 篠灑の横に寄り添うように座った成宮は、「ね?」と首を傾げながら再度上目遣いでお強請りした。
 そんな成宮を横目で見ながら篠灑は考える。

 確かにそれで、この毎日の煩わしさが無くなるのなら。

 同室で気心も多少は知れているし、何より成宮は篠灑の事をきちんと分かっている。
 同室になってから篠灑が不利益を被った事が無いのも確かであるし、当初感じていた鬱陶しさももう余り感じない。
 成宮は篠灑が本気で嫌がる事はして来ないし、その辺の引き際はきちんと心得ているやつだ。

 そう考えると、ここで断る理由も無いな、と篠灑は成宮に親衛隊長になる事への許可を出した。
「分かった」と一言。
 簡潔過ぎる返答だったが、成宮はその篠灑の一言に大袈裟過ぎるほど喜んだ。

「ありがとう、しーちゃん♡」と言って、篠灑の腕に絡みつき、篠灑の肩口に頭を乗せて緩く擦り付ける。

 そんな成宮を見て、何がそんなに嬉しいのかと篠灑は不思議で仕方なかった。
 しかし、成宮の少し過剰に感じるこのスキンシップも慣れてしまえば気にならないし、何よりこれで日々の負担が無くなるのだ。
 そう思えば擦り寄り続ける成宮に不快さも感じなかった。



 そうして出来た篠灑の親衛隊は、一瞬にして規模の大きなものになり、成宮の言っていた通り告白の呼び出しも委員会や部活動への勧誘も一切無くなった。
 また、篠灑の為の " お昼寝場所 ” も数箇所整えられ、梅雨入り前後に悩まされていた煩わしい事は何も無くなったのだった。

 それからの篠灑の日常は、とても穏やかになった。
 人目のある所に行けば周りから歓声が上がることはあるが、それも親衛隊が目を光らせているのか格段に大人しいものであったし、親衛隊設立前にあった昼寝中に小柄な生徒に跨られて起きるという事も無くなった。

 質のいい睡眠を沢山取れるようにもなって、篠灑の機嫌は格段に良くなった。
 それに成宮もとても嬉しそうにしている。
 篠灑はやっと快適な学園生活を手に入れたのだ。






 そんな毎日のある日の夜。
 人の気配と鈍い刺激、そしてぴちゃぴちゃと響く水音に篠灑の意識はふっと夢からうつつに戻ってきた。
 体や下肢に這う何かが篠灑に淡い快感を与えている。
 その快感の元を辿って、未だぼんやりとする意識の中篠灑は自身の下腹部に目をやった。

 そこには暗闇の中で淡く浮かび上がる金の髪。
 それが緩く上下に動いている。

「何をしている?」

 篠灑が寝起きで掠れた声で問いかけると、頭を上げた成宮の顔が見えた。
 その金の髪から覗いた成宮の瞳は、欲情にドロリと溶けていた。





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