夜は異世界で舞う

穂祥 舞

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1 夜の蝶とアングラのダンサー

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 ママによると、週の半ばである水曜の売り上げが大きいのは、自分たち3人のコンビネーションが良いからだそうだ。客層は幅広く、老若男女問わず、である。この店のホステスたちは、ぱっと見は男と思えない容姿偏差値と、女言葉を使わないざっくばらんな接客が売りだ。おさわりは禁止なので、勤務する身としては安心で、晴也はここでは見知らぬ人とでも気負わず話し、笑い合える。これまでの人生で、最も他人と交流していると思う。
 今夜は店内に床清掃が入るとかで、閉店を1時間早めていた。名残惜し気な最後の客を見送ると、4人で3つのテーブルの上に椅子を上げた。カウンターの椅子は、店外に出す。外気が冷たくて、皆一斉に寒い寒いと言いながら店内に飛び込んだ。
 麗華はタイムカードを押すと、直ぐに男の姿に戻って店を出て行った。彼はスーツも良く似合うイケメンだ。どうも彼女がいるようなのだが、女装の趣味を受け入れてくれる女性なのだろうか。お互いのプライベートには積極的に触れないのが暗黙の了解なので、気になるが晴也から麗華に尋ねることはない。
 清掃の準備が一段落つくと、ミチルはあのさ、と晴也に遠慮がちに話しかけてきた。

「ハルちゃんってノンケだよな?」
「はい、てか俺彼女いない歴イコール年齢ですけど」

 晴也はミチルのきれいな二重の目を見ながら言った。

「えっ、童貞ですか?」
「そうですよ」

 晴也は昼間の自分なら考えられないような明るさで応じた。

「俺がゲイだって察してると思うんだけどさ、今から俺の趣味につきあってくれない?」

 ミチルもあっけらかんと言う。晴也は一瞬どきっとしたが、小さく息をつく。

「びっくりした、俺とつき合って欲しいって意味じゃないんですよね?」

 それを聞いて、ママとミチルが同時にがははと笑った。ミチルが笑い混じりに言う。

「ごめん、俺ハルちゃん好きだけど性欲の対象じゃないわ……俺筋肉フェチでさ、今からそういうの見に行きたいから、つき合って欲しいなと思って」
「筋肉……」
「二つ隣のビルにショーパブがあるんだ、こいつそれのマッスルダンサーにハマってて」

 ママも苦笑混じりに言う。晴也はへぇ、と言い、興味を覚えたので了解する。ミチルは連れが見つかったことを、無邪気に喜んだ。

「わー、ハルちゃんが目覚めたら俺責任感じるわ」
「いや、たぶん俺は目覚めないです……」

 ママが清掃業者を待つためにまだしばらく店にいると言うので、半ばいたずらで、男に戻らずパブに赴くことにした。二人していかにもサラリーマンっぽいコートを羽織り、パンプスでビルを出る。夜も更けて外は冷え込んでいたが、晴也はわくわくして寒さもあまり感じず、くすくす笑いが止まらなかった。女の姿で店の外に出るのも、そんなマニアックなショーを見るのも初めてだ。
 ミチルによると、ショーパブには日替わりで様々なダンサーが登場するらしい。踊り子が女性や女装の男性の日もあるという。今日はダンサーも客もメンズオンリーだそうで、マッチョ好きのゲイが存分に楽しめるように設定されていた。
 晴也はミチルについて、パンプスの踵を鳴らしながら、ビルの地下に続く階段を降りた。店の間口は広く、自動ドアが二人を迎える。いらっしゃいませ、と言った制服の店員は、晴也たちを見てささっと近寄って来た。

「申し訳ございません、本日は女性のお客様には入っていただけないんです……」
「俺ら男です」

 ミチルは低い声で言い、黒い財布から運転免許証を出した。晴也も彼にならう。店員は目を丸くして小さいカードと2人を見比べ、中に入れてくれた。完全に女と見間違われたことが、快感だった。
 バーの中は暖かかったが薄暗く、テーブルはほぼ満席で、小さい話し声が粒子になって空気に漂うようだった。晴也とミチルはカウンター席に案内され、腰を落ち着ける。近くのテーブルに座る3人の男たちが、女と見紛う二人連れを驚いたように見た。
 ステージが近いことにミチルははしゃぐ。

「マジ嬉しい、すぐそばまで来てくれるぞ」
「それだけでいってしまわないでくださいよ」
「自信無い」

 少し高い椅子から周りを見て、ほんとに男ばかり座ってるなと思っていると、ミチルがこそっと囁く。

「酔って気を許すなよ、こいつらほぼ全員ゲイで相手を探しに来てる奴もいるから、ぼんやりしてると狙われるぞ」

 晴也はなるほどと思う。

「……ミチルさんはお相手を探す目的では来ないんですか?」
「俺はステージに出てくる筋肉男子たちが好きなんだ、その辺の中肉には興味無い」
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