夜は異世界で舞う

穂祥 舞

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1 夜の蝶とアングラのダンサー

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 ミチルが言い終わるや否や、アナウンスも無く、音楽がいきなり始まった。大きな拍手の中、燕尾服の5名の男性がスポットを浴びて颯爽と現れ、狭いステージを目一杯使ってキレのあるダンスを見せてくれる。リズムを動きで正確になぞっていく彼らを、晴也は素直にかっこいいなと感じ、高揚した。ミチルは中央のダンサーが推しらしく、彼に視線を集中させている。
 男たちは客席の歓声を浴びながら、袖に引っ込むたびに薄着になって出てくる。ストリップみたいなものかと晴也は笑いそうになった。彼らがステージの上から意識的に笑顔と視線を送り始めたせいか、客席の熱気が異様に高まる。中央のダンサーがこちらを見て笑ったような気がした。ミチルはビールにも手をつけず食い入るような目になっていて、それに気づいた晴也はやや引いてしまった。
 客席の浅ましさをよそに、男たちは美しい肉体を惜しげもなくさらし、最後にはネクタイに黒の短パン姿という一見滑稽な格好で、しかし極めて優雅に力強く踊っていた。一糸乱れぬ動きが美しく、見惚れる。舞台が近く、ダンサーたちの身体が良く見えて、人間がどこの筋肉を使って動いているのかがよく分かるのも面白い。
 晴也は5人のダンサーの中で、自分たちの席に近い側、つまり上手から2番めの男性に目が行くことを自覚した。5人の中で一番背が高いわけでも、筋肉量が多いわけでもない。しかし手足が長くて、すらりとした肢体が艶めかしい。空気に支えられているような足さばきや、腕の動きで何かを語るような表現力も魅力的だ。一人だけ黒い髪なのも、派手な髪の色をした他のダンサーの中で清潔な色気があり、逆に目を引いた。
 音楽が華やかに最後の和音を鳴らし、男たちがそれぞれポーズを決めると、会場は拍手と口笛で大騒ぎになった。晴也も大きな拍手を送る。こんな引き込まれる舞台を観たのは初めてだ。ミチルに至っては、頬を上気させて目を潤ませていた。

「ああもう俺、一晩中抜けるわ……」

 それはわからないと晴也は苦笑しながら、ビールのおかわりをオーダーした。興奮して喉が渇いてしまった。
 しばらくすると、ダンサーたちはシャツとズボンをきちんと身につけ、舞台から降りて来て順番に客に挨拶して回り始めた。随分サービスしてくれるものだ。

「ユウヤ、今日もカッコよかったあ」

 ミチルは中央でショーを引っぱっていた推しダンサーがやって来ると、彼にしなだれかかりそうな勢いで言った。ユウヤと呼ばれたダンサーは、みちおさん⁉ と小さく叫んだ。

「えー、今日はミチルだから……お店1時間早く閉めたから間に合ってチョー嬉しい」
「何だか美人たちがいるからびっくりしたんですよ、ほんとに女装バーでお勤めなんですね」
「冗談だと思ってたのかよぉ」

 上手から2番目の黒髪のダンサーがこちらにやって来た。晴也は何故かどきっとする。彼もミチルを見て、驚いたように言った。

「えっ、みちおさんなんですか? うわぁ、予想外に美人だった……そちらは同じ店のかた?」
「ショウくんも口が上手くなったな、彼はうちの大型新人のハル、可愛いだろ?」
「うん、この辺の店の女の子に負けないね……はじめまして」

 晴也は上手から2番目、ショウに笑いかけられて、どきどきしながらはじめまして、と応じた。こんな整った顔立ちの男を、これまで出会った中で見たことがない。この容姿であのダンスなのに、何故こんなところで踊っているのだろうと思いつつ、ミチルと一緒に、ユウヤとショウに店の名刺を渡す。

「めぎつねって店の名前が好き」

 ショウは二人の名刺を見て笑った。ユウヤは何曜日にいるの? と訊いてきた。

「俺は水木、ミチルさんは火水木です」
「わぁ、週の中日にきれいな子を持ってくるとかママやり手? みちおさんは金曜の常連なんだけど俺たち水金に出てる、金曜は女性客もいるからこんなに脱がないよ」

 なるほど、ミチルは金曜にいつも来ているからこんなに興奮しているのか。晴也は納得した。

「凄くかっこよかったです、また観に来ます」

 晴也は素直な感想を述べた。ショウが嬉しそうににっこり笑い、その切れ長の目が細まって白い歯が口許からこぼれる。晴也の心臓がぴょこんと跳ねた。男相手にどうかしているとちらっと思ったが、お酒と興奮のせいだということにしておく。
 今日はお店でお客さんとも良く話せたし、イケメンダンサーに名刺を渡せて、本当にいい日だった。晴也はビールを飲みながら、ステージの熱気の余韻と、ここ数年ご無沙汰していたどきどき――たぶんそれはときめきと呼ばれるであろうものを、楽しんでいた。
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