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4 侵食
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舞台が終わってから1時間後にパブは閉店するので、客たちはラストオーダーを我先に始めた。藤田と牧野は、終電に間に合わなくなると言って、晴也たちに挨拶してから店を出た。晴也も30分後に出ようと思った。
「あの……ありがとうございました」
後ろからこそっと言われて、晴也は驚いてハイボールを飲み下した。そこにいたのは、パーカーにジーンズ姿のサトルだった。
「あっお疲れさま、楽しい舞台をありがとう」
「いえ、こちらこそ最後までおつき合いくださって、ありがとうございました……ショウさんに渡すつもりでいらしたんでしょう?」
赤い髪の青年は困ったように言う。晴也は笑ってみせる。
「ショウさんは沢山貰ってたからいいよ、てか俺あなたがダンス好きなのよく分かって気持ち良かったですから」
「俺はハルさんの花が欲しかったんだけどな」
上から小さな声が降ってきて、晴也はびくりとなった。恐る恐る顔を上げると、ショウが面白くなさそうな顔でこちらを見ていた。
「……当然貰えると思ってんなよ」
思っていたこととほぼ逆の言葉が口をついて出た。ミチルがくすっと笑い、サトルがあ然となった。
「随分な仕打ちだ、……この姫君は……このかたは水曜と木曜の夜は美女に変身するんだけど、こうして俺を弄ぶんだよ」
ショウはこともあろうに、後半をサトルに向けて言った。晴也の頭に血が昇る。
「俺を弄んでるのはショウさんだろっ!」
ミチルが爆笑する。それは周りのざわめきにかき消されたが、ウケすぎだと晴也は思った。サトルは真面目に訊いてきた。
「あ、ゲイでいらっしゃるんですね」
「俺はノンケだよ、知っててこんなこと言うショウさんは頭がおかしいんだ」
サトルは頭の上にクエスチョンマークを飛ばすような顔になる。ショウが半笑いで後輩に向かって言った。
「終電に間に合わなくなるぞ、明日も朝から練習なんだろ?」
サトルはあっ、と背筋を伸ばし、晴也たちに再度頭を下げて、失礼しますと礼儀正しく言い立ち去った。
ショウはちゃっかり晴也の横に座り、カウンターに炭酸水とクラッカーを頼んだ。さりげなくテーブル席から顔を隠す角度を取る。
「ありがとう、ハルさん」
ショウの言葉に晴也ははあっ? と言った。
「サトルはここで踊り始めて今月でちょうど半年なんだ、初舞台の月以来久々に票を貰って舞台袖ではしゃいでた」
「……そう」
「同情票と分かってても自信に繋がる」
晴也はショウの言い方に舌打ちしそうになった。100パーセント同情票ではない。彼は見ていて気持ちの良いダンサーだ。
「同情票じゃない、少なくとも今日はあんたでなくサトルさんに俺は1票入れた」
「ほんとに?」
ショウは横目で晴也を見つめる。晴也は顔に血が昇るのを自覚した。反対側からミチルの笑い声がした。
「ハルちゃんは素直じゃないなぁ」
追い打ちをかけるように、ショウが言う。
「あなたのために踊るって俺言ったよね、俺の渾身のダンスがサトルに負けてたとは思えない」
おーおー、とミチルが囃し立てる。こいつら、いつか必ず殺す。
「じゃあショウさんには次回渡すって約束する」
形勢が不利なので、晴也がぶすったれて言うと、ショウはやけに明るくいや、と言ってスマートフォンをパンツのポケットから出した。
「次回は次回だ、今日は代わりにハルさんのLINEのIDを貰う」
「何っ⁉︎ それは別件だろ!」
「こうでもしなきゃハルさん放置プレイするもん、ほらほらQRコード出して」
ショウは炭酸水を口にしながら、晴也をじっとりと見つめる。
「あの……ありがとうございました」
後ろからこそっと言われて、晴也は驚いてハイボールを飲み下した。そこにいたのは、パーカーにジーンズ姿のサトルだった。
「あっお疲れさま、楽しい舞台をありがとう」
「いえ、こちらこそ最後までおつき合いくださって、ありがとうございました……ショウさんに渡すつもりでいらしたんでしょう?」
赤い髪の青年は困ったように言う。晴也は笑ってみせる。
「ショウさんは沢山貰ってたからいいよ、てか俺あなたがダンス好きなのよく分かって気持ち良かったですから」
「俺はハルさんの花が欲しかったんだけどな」
上から小さな声が降ってきて、晴也はびくりとなった。恐る恐る顔を上げると、ショウが面白くなさそうな顔でこちらを見ていた。
「……当然貰えると思ってんなよ」
思っていたこととほぼ逆の言葉が口をついて出た。ミチルがくすっと笑い、サトルがあ然となった。
「随分な仕打ちだ、……この姫君は……このかたは水曜と木曜の夜は美女に変身するんだけど、こうして俺を弄ぶんだよ」
ショウはこともあろうに、後半をサトルに向けて言った。晴也の頭に血が昇る。
「俺を弄んでるのはショウさんだろっ!」
ミチルが爆笑する。それは周りのざわめきにかき消されたが、ウケすぎだと晴也は思った。サトルは真面目に訊いてきた。
「あ、ゲイでいらっしゃるんですね」
「俺はノンケだよ、知っててこんなこと言うショウさんは頭がおかしいんだ」
サトルは頭の上にクエスチョンマークを飛ばすような顔になる。ショウが半笑いで後輩に向かって言った。
「終電に間に合わなくなるぞ、明日も朝から練習なんだろ?」
サトルはあっ、と背筋を伸ばし、晴也たちに再度頭を下げて、失礼しますと礼儀正しく言い立ち去った。
ショウはちゃっかり晴也の横に座り、カウンターに炭酸水とクラッカーを頼んだ。さりげなくテーブル席から顔を隠す角度を取る。
「ありがとう、ハルさん」
ショウの言葉に晴也ははあっ? と言った。
「サトルはここで踊り始めて今月でちょうど半年なんだ、初舞台の月以来久々に票を貰って舞台袖ではしゃいでた」
「……そう」
「同情票と分かってても自信に繋がる」
晴也はショウの言い方に舌打ちしそうになった。100パーセント同情票ではない。彼は見ていて気持ちの良いダンサーだ。
「同情票じゃない、少なくとも今日はあんたでなくサトルさんに俺は1票入れた」
「ほんとに?」
ショウは横目で晴也を見つめる。晴也は顔に血が昇るのを自覚した。反対側からミチルの笑い声がした。
「ハルちゃんは素直じゃないなぁ」
追い打ちをかけるように、ショウが言う。
「あなたのために踊るって俺言ったよね、俺の渾身のダンスがサトルに負けてたとは思えない」
おーおー、とミチルが囃し立てる。こいつら、いつか必ず殺す。
「じゃあショウさんには次回渡すって約束する」
形勢が不利なので、晴也がぶすったれて言うと、ショウはやけに明るくいや、と言ってスマートフォンをパンツのポケットから出した。
「次回は次回だ、今日は代わりにハルさんのLINEのIDを貰う」
「何っ⁉︎ それは別件だろ!」
「こうでもしなきゃハルさん放置プレイするもん、ほらほらQRコード出して」
ショウは炭酸水を口にしながら、晴也をじっとりと見つめる。
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