夜は異世界で舞う

穂祥 舞

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5 急転

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 週が明けて月曜火曜は、心を乱されることも無く過ごすことができ、晴也はひと息ついた。夜に晶からご機嫌伺いの短いLINEが来るのは、短い返事でやり過ごしておいた。
 水曜の昼休み、美智生からグループLINEへの招待メッセージが来た時はビビってしまった。そんなものに参加を誘われたのが初めてだったからである。グループ名は「めぎつねとD5」となっていた。D5とは何ぞやと首を傾げながら承認してみると、晴也と美智生と晶のほかに、「しのざきゆうや」が参加していた。ダンサーのユウヤだとわかって、晴也は驚く。美智生が狂喜していることだろう。
 ユウヤのアイコンは、頬をぱんぱんに膨らませた可愛らしいハムスターで、5人のダンサーの中で一番筋肉量の多い彼に似合わないのが笑える。

「ハルさんこんにちは」

 ユウヤに話しかけられて、晴也は丁寧に返す。

「こんにちは、よろしくお願いします」

 すると晶のメッセージがすかさず来た。

「ハルさん俺に対してと態度が違います」

 晴也は放置した。すると美智生が入ってくる。

「ショウ既読スルーされてますけどww」
「みちおさんうるさいですから涙」
「ショウはこの悲しみを練習にぶつけましょう。今夜の振り入った?」
「優さんよりは入ってるはず。」

 大の男が集まり、ちまちまメッセージを送り合うのが可笑しい。確かに皆のアイコンが動物なので、トークルームが可愛らしいことになっている。晴也はつい笑いを洩らしてしまう。

「福原さんLINEして笑ってます? 誰とやってるんすか?」

 食事から戻ってきた久保が、晴也の真後ろに立っていた。咄嗟とっさにスマートフォンの画面を下にして、机の上に置く。

「ゲームのオフライン仲間」

 晴也は抑揚の無い声で答えた。久保は唇の両端を歪めながら上げる。

「福原さんにオフラインで友達いるとかかなりびっくりっす」

 イラッとしたが、晴也は基本的に久保にはまともな返事をしない。この男にはいじめ気質があり、晴也と今年の新入社員が標的になっている。この手の奴は対等に相手をしないのが一番だと、経験上理解していた。

「俺割とオンラインでは人気者なんだ、オフ会してもモテキャラ維持」

 久保は失笑する。

「類友なんでしょ?」
「だったら何? それ差別発言?」

 晴也の棘のある言葉に、久保が微かにひるんだ。あれ、ちょい攻撃度高かったか。
 久保を追い払うまでにも、スマートフォンは着信をプルプルと訴えていたが、皆昼休みが終わったらしく、十数件のくだらないやり取りの履歴を残してぱたっと止んだ。最後は美智生が、晴也にメッセージを残していた。

「ハルちゃん今夜もよろしくね♡」

 頬が緩むのを自覚しながら画面を見ていると、晶から個人的にLINEが来た。晴也は驚いて、そちらをタップする。

「ハルさんの会社のビルの前なう」

 はあっ⁉ 晴也は叫びそうになった。隣に大人しく着席した久保が、怪訝そうにこちらを見る。その時、晴也のデスクの上の電話が鳴った。

「はい、福原です」
「福原さん、ウィルウィンの吉岡様がお越しなんですが崎岡課長は外出ですよね?」

 受付嬢の声に晴也は動揺したが、久保の手前、冷静を装わねばならない。タイミング悪く、早川まで外回りから帰ってくる。

「課長は横浜なので今日直帰です、私は聞いてないからアポは無かったと思いますが」

 馬鹿かあいつは、うちがどれだけ暇そうに見えたか知らないが、営業担当にアポ無し訪問はないだろう。晴也は晶を蹴りたくなる。

「え? あ、はい、申し訳ありません……よろしいですか?」

 電話の向こうで何か交渉がなされている様子である。受付嬢は晴也に言う。

「近所に来たから挨拶に寄っただけだとおっしゃって……崎岡課長が不在なら福原さんにひと言挨拶したいと」

 ……何考えてるんだ、あのくそダンサーは! しかし帰れと言う理由もない。晴也は上がってきて貰うよう、受付嬢に言うしかなかった。

「どうした」

 受話器を置くと早川が訊いてきた。晴也は何でもないように答える。

「課長案件のウィルウィンの担当者が来ました、事務処理は私の担当なので私で良いそうです」
「アポ無しで? 直で来るなんて急ぎのトラブルじゃないのか?」
「近くに来たから挨拶をしたいって」

 早川は目をしばたたいた。当然の反応である。そうこうするうちに、紺のスーツに身を包んだ、何処にでもいそうな銀縁メガネの営業マンが、紙袋片手に部屋にやって来た。こんにちは、とこちらに向ける笑顔が妙に爽やかである。

「こんにちは、せっかくお越しいただいたのに、崎岡が外していて申し訳ありません」

 晴也は口許に笑いを作り、半ば晶を睨みながら言った。

「こちらこそ約束もなしに失礼しました、ご迷惑になりましたね」

 まったくだ。口先だけでいえいえ、と言いながら、室内の小さな応接セットに彼を案内する。こういう時に抜かりない早川が、晶と名刺交換を始めたので、晴也は速攻給湯室に向かった。昼はまだだろうか。まあコーヒーを出しておこう。
 挨拶だなんて言って、アポ無しで会社に堂々と乗り込んで来るとは、何と大胆で図々しいのか。晴也は先週からの晶の言動をかんがみて、課長が不在であろうがなかろうが、自分の顔を見る口実があればやって来かねないとある意味納得した。
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