夜は異世界で舞う

穂祥 舞

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11 風雪

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「俺ん家の鍵も渡すよ、好きな時に来て」
「……だからそういうことはまだ……」

 晴也の躊躇ためらいに、晶はちょっと不満げな顔を見せたが、すぐに表情を和らげた。

「ハルさんのタイムスケジュールを教えて欲しいです、キスまでに何日、セックスまでに何週間、一緒に暮らすまでに何ヶ月……」

 晴也は答えずに扉を開けた。冷たい空気に、ふやけ気味の脳がしゃきっとなるのを感じる。

「俺はおまえと違う、欲望を理性に優先させない……おまえは色恋を芸の肥やしにするんだろうけど、俺にはむしろ仕事の邪魔だ」

 晶が何か言いたげにしたが、外に出るよう促して、扉に鍵をかけた。

「俺はハルさんにとってプラスな存在でありたいんだけどなぁ」

 晶は廊下から空を仰ぎながら言った。良い天気である。晴也は小さく応じる。

「……マイナスとは言わない、でもいつもプラスじゃない」
「プラスでないと感じるのはどんな時?」

 晴也はエレベーターのボタンを押す。通勤時間帯は各階に止まるので、なかなかやって来ない。ふと、こんな単身マンションで親しげな男2人が乗ったら、どう思われるのだろうかと気になった。

「……こういう時」

 晴也の呟きに、晶はえ? と言った。

「一緒にいたら人からどう受け取られるのか気になる時とか……今まで考えなくてよかったことに神経を使う時」

 晶はふっと表情を緩めた。

「ハルさんが思うほど人は他人のことを気にしないものだよ」

 どうせ俺は自意識過剰だよ。晴也は晶からふいと顔を背ける。

「何となくずっと不機嫌なのは……せっかく俺が泊まりに来たのにいいことを一切してないから?」

 晴也は顔を上げて晶を睨みつけた。

「すぐにちんこをてるおまえと一緒にすんな」
「キスもしてないな、よく考えたら」

 晶は言うなり晴也の肩を掴んで自分のほうに引き寄せた。晴也は飛び上がりそうになる。

「やめろ、こんなとこでっ!」

 咄嗟とっさに顔を背けたので、晶の唇は晴也の唇の端をかすめただけだった。エレベーターが到着したことを告げる音が鳴り、焦った晴也は渾身の力で晶の身体を押し退ける。しゅうんと音を立てて、扉が開いた。

「おはようございます」

 晶はほぼ満員のエレベーターの中に立つ人々に、何事も無かったようににこやかに言った。イケメンに爽やかに挨拶されたせいか、皆晶と晴也のために奥に詰めてくれる。
 狭いエレベーターから吐き出されて、晴也は晶と微妙に距離を取って歩いた。

「ハルさんは今夜はルーチェに来ないのか?」
「……うん、今日はやめとく」
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