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10月
4-②
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帰宅して着替え、米を洗ってからニュースを見ていると、神崎綾乃から電話がかかってきた。彼女はやはり丁寧な口調で、昨夜の様子を訪ねてきた。晃嗣はさくにとても良くしてもらったと伝えてから、少し迷ったが、恐る恐る彼女に訊いてみる。
「さくさんは、えっと……私の会社の人間、ですよね? スタッフさんのプライバシーに触れて申し訳ないのですが……」
晃嗣は神崎に会った日に、自分の名刺を渡している。ディレット・マルティールは、ある程度の定収入がある者しか相手にしないことを意味していた。
お答えいたしかねますという返事を予想していたが、神崎は晃嗣の問いに、そうです、とあっさり答えた。
「面が割れても構わない、自分にやらせてほしいと朔が言いました……私は先日、柴田さまのお相手は朔がいいとピンときたのですけれど、昼間の勤務先が一緒だとわかり別のスタッフに変更するつもりでした」
「……そうだったんですか」
「柴田さまに不安な思いをさせてしまいましたね」
いえ、と晃嗣は言い、正直に神崎に話す。
「彼が私を全く知らないという態度を貫いていたのが気になったものですから……」
まあ、という神崎の声にはやや驚きが混じっていた。
「そうでしたか……彼は普段水曜と土曜にしか仕事を受けないのです、それが柴田さまの希望日が木曜だとわかっても自分が行くと言うものですから、身分を明かすつもりだとばかり」
神崎の話を聞いていると、さく……高畑朔はお試しの客が何者かを理解した上で、仕事を受けたとしか思えない。しかも今朝は何やら思わせぶりな態度を取ってきた。確かに、身バレしてもいいと考えていなければ、あんな目で晃嗣を見たりはしないだろう。
ともあれ、昨夜と今朝の彼の態度が、理解に苦しむものであることには変わりが無い。
「もし今後柴田さまが朔を指名してくださるようなことがありましたら、私のほうからも、柴田さまを困らせないように話しておきます……大変申し訳ございません」
神崎は言ってから、順序が逆になりましたがと前置きし、晃嗣に会員登録の可否を尋ねてきた。彼女の口調からは、朔のことで気を揉ませたので、無理は言わないという空気感が伝わってきた。
「登録します、太客にはなれませんが」
晃嗣ははっきりと答えた。神崎はありがとうございます、と丁寧に応じた。
高畑朔が何を考えているのかよくわからないが、とにかく晃嗣は、にこにこしながら自分の顔を覗きこみ、良い声で楽しげに話す「さく」を気に入っていた。その気持ちに正直になって出した答えが、この妖しいクラブの会員となることだった。予算的に月に1回以上は難しいだろうが、彼にエッチなことが好きな年下の恋人を演じさせ、自分のものを扱かせたりしゃぶらせたりする。……なかなか楽しい現実逃避ではないかと思う。
神崎は、正式な登録のためのURLをメールで送ると説明した。
「会員専用ページに季節のイベントやお得なプランの詳細を掲載いたしますので、ご予約の際に見逃されませんようにお願いいたします……指名をいただいた翌日にアフターのご挨拶をいたしますけれど、それ以外は緊急でない限り、スタッフから連絡はいたしません」
晃嗣は朝のメールがアフターサービスだったとようやく理解した。客の心をくすぐる術をよく知っていると言わざるを得ない。定型文であっても、寂しい身にはああいうメールは嬉しいものだ。
「あれに返事をしたら反応してくれるんですか?」
「スタッフの一存に任せておりますが、大抵簡単な返信をすると思います」
メールのやり取りも多少できるのか。晃嗣は神崎の言葉に気持ちがぱっと明るくなった。そしてすぐに、深みに嵌まらないよう気をつけないといけないと自戒した。
神崎との会話を終えて、炊飯器のスイッチを入れた。同僚を買うという事実に軽い嫌悪感が拭い去れないものの、とりあえずさくの正体がはっきりしたので、晃嗣の胸の中のもやもやはだいぶ晴れた。
「さくさんは、えっと……私の会社の人間、ですよね? スタッフさんのプライバシーに触れて申し訳ないのですが……」
晃嗣は神崎に会った日に、自分の名刺を渡している。ディレット・マルティールは、ある程度の定収入がある者しか相手にしないことを意味していた。
お答えいたしかねますという返事を予想していたが、神崎は晃嗣の問いに、そうです、とあっさり答えた。
「面が割れても構わない、自分にやらせてほしいと朔が言いました……私は先日、柴田さまのお相手は朔がいいとピンときたのですけれど、昼間の勤務先が一緒だとわかり別のスタッフに変更するつもりでした」
「……そうだったんですか」
「柴田さまに不安な思いをさせてしまいましたね」
いえ、と晃嗣は言い、正直に神崎に話す。
「彼が私を全く知らないという態度を貫いていたのが気になったものですから……」
まあ、という神崎の声にはやや驚きが混じっていた。
「そうでしたか……彼は普段水曜と土曜にしか仕事を受けないのです、それが柴田さまの希望日が木曜だとわかっても自分が行くと言うものですから、身分を明かすつもりだとばかり」
神崎の話を聞いていると、さく……高畑朔はお試しの客が何者かを理解した上で、仕事を受けたとしか思えない。しかも今朝は何やら思わせぶりな態度を取ってきた。確かに、身バレしてもいいと考えていなければ、あんな目で晃嗣を見たりはしないだろう。
ともあれ、昨夜と今朝の彼の態度が、理解に苦しむものであることには変わりが無い。
「もし今後柴田さまが朔を指名してくださるようなことがありましたら、私のほうからも、柴田さまを困らせないように話しておきます……大変申し訳ございません」
神崎は言ってから、順序が逆になりましたがと前置きし、晃嗣に会員登録の可否を尋ねてきた。彼女の口調からは、朔のことで気を揉ませたので、無理は言わないという空気感が伝わってきた。
「登録します、太客にはなれませんが」
晃嗣ははっきりと答えた。神崎はありがとうございます、と丁寧に応じた。
高畑朔が何を考えているのかよくわからないが、とにかく晃嗣は、にこにこしながら自分の顔を覗きこみ、良い声で楽しげに話す「さく」を気に入っていた。その気持ちに正直になって出した答えが、この妖しいクラブの会員となることだった。予算的に月に1回以上は難しいだろうが、彼にエッチなことが好きな年下の恋人を演じさせ、自分のものを扱かせたりしゃぶらせたりする。……なかなか楽しい現実逃避ではないかと思う。
神崎は、正式な登録のためのURLをメールで送ると説明した。
「会員専用ページに季節のイベントやお得なプランの詳細を掲載いたしますので、ご予約の際に見逃されませんようにお願いいたします……指名をいただいた翌日にアフターのご挨拶をいたしますけれど、それ以外は緊急でない限り、スタッフから連絡はいたしません」
晃嗣は朝のメールがアフターサービスだったとようやく理解した。客の心をくすぐる術をよく知っていると言わざるを得ない。定型文であっても、寂しい身にはああいうメールは嬉しいものだ。
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「スタッフの一存に任せておりますが、大抵簡単な返信をすると思います」
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