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しおりを挟むヴィレムは落ち込んでいるが、香月は可愛さに悶える。
(あぁ、もう、可愛い......)
香月はヴィレムを抱き上げ、撫でる。
「ヴィレム、さっきも言ったけど、ヴィレムが人型になりたいならなっていいんだよ?」
「うーん、どうしようかなぁ......魔法で浮かす?でも、ちょっと違うんだよね......」
ヴィレムは香月に抱えられ、返事をした後は悩んでいた。今はフォークをどうするか考えを巡らせている。ヴィレムはあくまで自分の手でフォークを持って、香月に食べさせたいみたいだ。
多分、ヴィレムはやったことがないからやりたいんだろう。
「ヴィレムは放っておきましょう。そのうち考えを纏めるでしょう。文字はこれだけ練習したのですから一旦、休憩にして、お茶の後は魔法の練習をしませんか?」
考え込み始めたヴィレムを見下ろし、お茶を飲みながらフロウティアがこの後魔法の練習をしようと勧める。
「そうだね、魔法の練習もしないと駄目だよね」
魔法を使いこなせるようになりたいと思った。だから、昨日使った。でも、いざ、使い、あんな事があり、積極的に使いたいかといえば微妙だった。
確かにまたあんな出来事が起こった時に何もできないより、できるほうが生存率はあがる。そして、これからもっと起こるんだろうと思う。
昨日の事が夢であればよかったたのにと思う。夢であれば、次第に忘れ、終われた。
夢ではなく現実で、あれは始まりに過ぎないんだろう。
圧倒的にねじ伏せてくる力に対抗できる術を学ばねば、容易く手折られて終わる。それこそ、昨日のように呆気なく。
それが嫌なら、その運命を拒むなら、魔法を学び、練習しなければならないだろう。展開する速度、扱う時の注意すべき点や威力や加減もやってみなければわからない。初めから完璧にできる事などないのだから。
「気分が乗りませんか?」
フロウティアは黙りこくった香月を気遣わしげに見て、返事を待っている。
「魔法を使いたくて、リローズにも許可を得たのにね。今は、使いたいって思う気持ちが少し薄れてはいるかな。使えた方が良いんだろうけど......」
「昨日の事がありますし、カツキ様が消極的になるのも仕方ないことかと思います。ですが、魔法を使った記憶が昨日のままだというのも、お嫌ではないですか?」
フロウティアは人を説得するのが上手いと思う。口も上手いが雰囲気というか、納得させる術が優れている。
確かにフロウティアの言う通り、忌避して、使わないままいるのもありだ。もしくは知識だけ学び、実践は積まないという道もある。
だが、そうなれば魔法を使った記憶は嫌ならもののままで、ずっと同じことを思い続けることになるのだろう。
(確かに、嫌な思い出のままは嫌だもの......)
フロウティアは練習の為だけにやろうと言っているのではない。魔法について香月が嫌な思い出のまま記憶に残ることを危惧してくれている。
だから香月も嫌だと突っぱねるのは躊躇われた。
「そうね、練習しようか」
「カツキ、魔法練習する?」
試行錯誤していたヴィレムは香月に意識を向け、だずねてくる。
「うん、やってみようかなって」
「そっか、頑張ってね」
ヴィレムはそう言って、ケーキが刺さったフォークを差し出してきた。どうやら、ヴィレムは望みの魔法ができたようだ。
満足気にして、香月が食べるのを待っている。
「凄いね、ヴィレム!持てるようになったんだね」
「うん、思い通りの魔法ができたの。フォークを潰さず、ケーキも粉砕しないように差し出す力加減を身に付けたよ!」
「ん?どういうこと、ヴィレム?」
ヴィレムの言葉に疑問を浮かべるが、敢えて追及しない。ことはできなかった。看過できない言葉である。
「言葉の通りだよ?僕はまともに持てないとは言ったけど、重くて持てないとは言ってないよ?」
ヴィレムは不思議そうな顔をして、言い放つ。確かに、言っていたことを思い出すと、フォークが重くて持てないとは一言も言ってなかった。
どうやらヴィレムは腕力が無くて、フォークを持ち上げることができなかったわけではないようだ。
むしろ香月が考えていた理由とは逆のようだ。香月はあの姿では力が無いと考えていた。フォークを持ち上げる腕力すら、無いと。しかし、その考えは見当違いで腕力が強すぎてフォークとケーキを潰しかねない状況で、へたに速度をつけたりすると危険だから持ち上げれない、という事だったみたいだ。
そして、そうならないようにする為にヴィレムは頑張っていたと。力を加減するのが難しかったようだ。
「ゆっくり優しく持つのが難しくてね。でも今は大丈夫だよ。今なら上手にカツキに食べさせれるよ?」
ヴィレムはそう言い、更にフォークを近付けてくる。
「ほら、カツキ食べて」
ヴィレムに促されるまま、香月は口を開ける。
口腔内に程よい甘さが広がる。
「美味しい?」
「うん、美味しい」
ヴィレムは香月に食べさせることができて、嬉しそうだった。
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