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第1章 幼馴染編
42、お前、どういうつもり?
しおりを挟む秋が過ぎて、冬が来て……。
12月も中旬になり、私たちがどんな気持ちでいようとも御構いなしで、世間はクリスマスの話題で浮かれ、騒ぎだす。
その頃になると、たっくんはもうクラスの中でもちょっと浮いた存在になっていて、表情も暗く、俯くことが多くなった。
あんなにみんなに囲まれていたのが嘘みたいに、誰も話しかけなくなっていた。
学校を休みがちになったのに加え、2日間同じ服を着てきたり、髪の毛がブラシで梳かれずに固まっていたりと身なりが乱れてきて、みんなも何か変だと感じていたんだと思う。
学校の休み時間が、たっくんにとっての睡眠時間になった。
チャイムが鳴って先生が教室を出ると同時に机にうつ伏せて、ほんの短い時間に睡眠を貪る。
「たっくん、チャイムが鳴ったよ、授業が始まるよ」
そう言って私が肩を揺すると、たっくんはまだ寝足りないと言うように目をこすりながらゆっくり体を起こす。
そして、ひどくダルそうに緩慢な動作で机の奥から教科書を取り出して、あくびを溢すのだ。
たぶん家ではゆっくり眠れていなかったのだろう。
それでも授業中は決して居眠りしなかったし、テストの成績も悪くなかった。
それは、劣悪な環境や理不尽な仕打ちに負けないという彼の強い意志と、努力の現れだったのだと思う。
私はというと、相変わらず隣の様子に耳をすませては壁を叩くというささやかな抵抗を続けていたのだけど、向こうもそれに慣れてきたのか、この頃には私が壁をドンドンしても怒鳴るのを止めないし、逆に壁を叩き返してくるようになっていた。
私も必死だったし、アイツに負けないと意地にもなっていた。
壁を叩いても静かにならないと、私は外に飛び出して、たっくんの家のチャイムを鳴らし、ドアを叩くようになった。
そうすると向こうも手を止めるらしく、しばらくは静かになる。
時には穂華さんがドアを開けて叱ってくることもあったし、アイツが出てきて怒鳴り散らすこともあった。
だけどさすがに手を出しては来なかったので、私は憑かれたようにその行動を繰り返していた。
母がいる時には泣いて止められた。
隣の田中さんに「うるさい! 」と怒鳴られたこともある。
だけどそんなの、どうだっていい。
だって大人は助けてくれないじゃないか。
「小夏、お前、どういうつもり? あんな危ないことはもう止めろ」
家にトイレを借りに来たたっくんが、何度も私に注意した。
だけど私は絶対に首を縦には振らなかった。
これだけはたっくんの頼みでも聞くつもりはない。
たっくんは自分を大事にしないから、私だけでも大事にするんだ…… 。
霜焼けで真っ赤に腫れ上がったたっくんの足を見ながら、そう心に誓っていた。
年が明け、初雪が降って……
忘れもしない1月31日、事件は起こった。
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