2 / 17
2
しおりを挟む
俊は、男の言うとおりに靴を脱いだ。靴は池の水を吸い込んでかなりの重さになっていた。
アスファルトにはまだ昼間の熱気の残りが染み込んでおり、足の裏をじわじわと温めた。
「暑いな。」
俊が言うと、男は笑いながら頷いた。その笑顔も、あまりに気安かった。
「熱帯夜だ。」
俊は両手にスニーカーをぶら下げ、男は右手におもちゃの赤いバケツをぶら下げ、二人は校門まで来たところで足を止めた。
「俺んちはあっち。」
俊が右手を指さして言うと、男はそんなこと元から知っていたみたいな顔で頷いた。
「俺は駅まで。」
「駅?」
まさかこのずぶ濡れ状態で電車に乗るのか、と俊が驚いて男を見やると、彼は平然と頷いた。
「うち来いよ。服貸す。」
誘ったのも興味本位だった。このちょっと変わった男が、自分の家でどんなふうに振る舞うのかが知りたかった。
男はどうでも良さそうに赤いバケツを振り回していたが、行く、と応じた。やはりそれは、昔からの知り合いのうちに行くみたいな軽い調子だった。
裸足の俊と、ビーチサンダルの男は、そのままてくてくと3分間の道程を歩いた。会話はなかったが、気まずい沈黙でもなかった。
「ここ。」
アパートの一階角部屋の鍵を開けながら俊が言うと、男はそんな事ずっと前から知っていたとでも言いたげな調子で、俊に続いて部屋に入った。
俊の部屋は狭い。狭いが、ものがないので広くは見える。ほんの少しの洋服は全部押入れに入れてあるし、教科書類はまとめてカラーボックスに詰め込んでこれまた押し入れの中だ。そして、それ以外の家具は特にない。ベッドが奥の壁にくっつけて置かれているだけだ。
男はなにも言われもしないうちに、俊の隣に立って、一緒に押入れの中を覗き込んだ。
男は俊より幾分細身だったが、服のサイズが変わるほどでもない。
俊は半袖のTシャツとハーフパンツを取り出して男に渡した。
そして、下着の予備はないな、コンビニにでも買いに行くか、と、考えているうちに、男がわずかばかりのためらいも見せずにするりと全裸になった。
そしてその身体に乾いた衣服を身につける。
「ノーパンでいいのか?」
訊けば男は、どうでも良さそうに肩をすくめてみせた。
「こんなに暑いんだからいいだろ。なんならフルチンで歩いてても文句言わないでほしい。」
確かに、と、俊は笑った。男もシャツを被りながらけらけらと笑った。
アスファルトにはまだ昼間の熱気の残りが染み込んでおり、足の裏をじわじわと温めた。
「暑いな。」
俊が言うと、男は笑いながら頷いた。その笑顔も、あまりに気安かった。
「熱帯夜だ。」
俊は両手にスニーカーをぶら下げ、男は右手におもちゃの赤いバケツをぶら下げ、二人は校門まで来たところで足を止めた。
「俺んちはあっち。」
俊が右手を指さして言うと、男はそんなこと元から知っていたみたいな顔で頷いた。
「俺は駅まで。」
「駅?」
まさかこのずぶ濡れ状態で電車に乗るのか、と俊が驚いて男を見やると、彼は平然と頷いた。
「うち来いよ。服貸す。」
誘ったのも興味本位だった。このちょっと変わった男が、自分の家でどんなふうに振る舞うのかが知りたかった。
男はどうでも良さそうに赤いバケツを振り回していたが、行く、と応じた。やはりそれは、昔からの知り合いのうちに行くみたいな軽い調子だった。
裸足の俊と、ビーチサンダルの男は、そのままてくてくと3分間の道程を歩いた。会話はなかったが、気まずい沈黙でもなかった。
「ここ。」
アパートの一階角部屋の鍵を開けながら俊が言うと、男はそんな事ずっと前から知っていたとでも言いたげな調子で、俊に続いて部屋に入った。
俊の部屋は狭い。狭いが、ものがないので広くは見える。ほんの少しの洋服は全部押入れに入れてあるし、教科書類はまとめてカラーボックスに詰め込んでこれまた押し入れの中だ。そして、それ以外の家具は特にない。ベッドが奥の壁にくっつけて置かれているだけだ。
男はなにも言われもしないうちに、俊の隣に立って、一緒に押入れの中を覗き込んだ。
男は俊より幾分細身だったが、服のサイズが変わるほどでもない。
俊は半袖のTシャツとハーフパンツを取り出して男に渡した。
そして、下着の予備はないな、コンビニにでも買いに行くか、と、考えているうちに、男がわずかばかりのためらいも見せずにするりと全裸になった。
そしてその身体に乾いた衣服を身につける。
「ノーパンでいいのか?」
訊けば男は、どうでも良さそうに肩をすくめてみせた。
「こんなに暑いんだからいいだろ。なんならフルチンで歩いてても文句言わないでほしい。」
確かに、と、俊は笑った。男もシャツを被りながらけらけらと笑った。
10
あなたにおすすめの小説
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
僕の幸せは
春夏
BL
【完結しました】
【エールいただきました。ありがとうございます】
【たくさんの“いいね”ありがとうございます】
【たくさんの方々に読んでいただけて本当に嬉しいです。ありがとうございます!】
恋人に捨てられた悠の心情。
話は別れから始まります。全編が悠の視点です。
窓のない部屋の、陽だまりみたいな君
MisakiNonagase
BL
都心の高層ビル、その「内臓」とも言える地下一階のメール室。
そこで働く山﨑智之は、目立たず、期待されず、淡々と郵便物を捌く「透明人間」のような毎日を愛していた。自分は低スペックで、華やかな地上には居場所がない。そう、諦めていた。
そんな彼の静寂を破ったのは、二十二階の住人、若きエース・風巻隼人だった。
完璧なルックス、圧倒的な成果、羨望の眼差しを一身に浴びる彼が、なぜか地下のメール室に足繁く通い始める。
「五分だけ、ここにいさせてくれないか」
一通の郵便物から始まった、五分間だけの秘密の共有。
次第に剥き出しになっていく隼人の孤独と、それを無自覚に包み込んでしまう智之の温度。
住む世界が違う二人が、窓のない部屋で見つけたのは、名前のつかない「救済」だった。
薄紅の檻、月下の契り
雪兎
BL
あらすじ
大正十年、華やかな文明開化の影で、いまだ旧き因習が色濃く残る帝都。
没落しかけた名家に生まれた“Ω(オメガ)”の青年・白鷺伊織は、家を救うため政略的な「番(つがい)」として差し出される運命にあった。
しかし縁談の相手は、冷酷無慈悲と噂される若き実業家であり“α(アルファ)”の当主・九条鷹司。
鉄道・銀行事業で財を成した九条家は、華族でもありながら成り上がりと蔑まれる存在。
一方の伊織は、旧華族の矜持を胸に秘めながらも、Ωであるがゆえに家族から疎まれてきた。
冷ややかな契約婚として始まった同居生活。
だが、伊織は次第に知ることになる。
鷹司がΩを所有物としてではなく、一人の人間として尊重しようとしていることを。
発情期を巡る制度、番契約を強制する家制度、そして帝都に広がる新思想。
伝統と自由のはざまで揺れながら、二人は「選ばされた番」から「自ら選ぶ伴侶」へと変わっていく——。
月明かりの下、交わされるのは支配ではなく、誓い。
大正浪漫薫る帝都で紡がれる、運命を超える愛の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる