恋に似ていた

美里

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ビールでも飲みに行くか、と俊が言った。
 そして、言ってから後悔した。
この男にビールは似合わない。高校時代の帰り道みたいに、マックでハンバーガーとコーラを食うのが似合う。
 けれど男は笑って、行くか、と応じた。
 俊は後悔を引きずったまま、曖昧に頷いた。
 ノーパンの男と俊は、並んで部屋を出た。アパートの斜め向かいには、居酒屋が一軒ある。赤ちょうちんが似合うような、狭い店だ。
 あそこでいいか、と俊が言うと、男はどうでもよさそうに肩をすくめて見せた。
 居酒屋には、俊と男以外の客はいなかった。いつもはそこそこ繁盛している店だから、多分まだ時間が早いせいだろう。
 俊はよくここの店に学校帰りに顔をだし、ビールを二杯かそこいら飲んでは帰って行くので、店の店主とは顔見知りだった。
 「今日は友達と一緒?」
 30をいくつか越えたところであろう店主は、目を細めて俊と男を見比べた。
 まあ、と、口の中で呟いて俊は言葉を逃がした。この男とはほんの数時間前に会ったばかりだ。友達なんていう言葉はそぐわないと思った。
 男はどうでもよさそうな顔をして、カウンター席に腰を引っかけるように座ると、ビール、とだけ言った。俊も頷くと、店主はすぐにビールのジョッキを二つ持ってきた。
 するとその店主に、男が妙な交渉を始めた。
 「ジョッキ、持ってちゃだめですか? 明日返しに来るんで。」
 店主は面食らったようだったが、軽く首を巡らせ、擦り硝子のドアから外を見た。
 「……熱帯夜だからねぇ。」
 それは、了承の返事だったらしい。男はポケットから取り出した小銭でビールの代金を払うと、ビールジョッキを持って立ち上がった。
 「行こうぜ。」
 どこに、などと訊けなかった。聞きたくはなかった。ただ、ビールジョッキを持って、この妙な男と熱帯夜の中を泳いでみたい気分だった。
 だから俊は素直に自分の分のジョッキを持ち上げ、男の後に続いた。
 暖簾をくぐって店を出た男は、俊を見て少し笑った。
 「ビールはジョッキで外で飲むのが一番うまい。」
 確かに、一口喉に通したビールは、これまで飲んだビールの中で一番うまく感じられた。
 「うまいな。」
 「だろ?」
 ゆくあてなんかない足取りで、男はゆらゆらと歩いた。
 俊もそれに倣うようにゆらゆら歩いた。ただ、そんな歩き方に慣れていないから、俊の足取りはいくらかぎこちなかった。
 その点男は、ゆくあてのない散歩に慣れきっているようだった。
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