恋に似ていた

美里

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次の日も、また次の日も、俊はただ倫太郎を目で追った。これでは、あのすれ違った男たちと同じだと内心では分かっていた。ただ、知人が歩いているからちょっと目を引かれているだけ、と、自分に言い訳しながら。
次に俊にお呼びがかかったのは、金魚すくいをしてから一ヶ月近くがたった、秋の半ばだった。
 「俊。」
 一月前と同じように、倫太郎は背後から俊を呼び止めた。
 俊は足を止めて振り返り、隣の裕一もそれに倣った。
 人が行き交う校舎の階段下でも、倫太郎の存在はくっきりと感じられた。少なくとも、俊には。
 「暇ならちょっと遊ぼうぜ。」
 曖昧な言い方だった。この前のように金魚すくいのポイなど取り出しては見せず。
 だから俊には、倫太郎の言う『遊び』がそのままセックスを指すと分かった。
 倫太郎本人は、平然とした顔で立っているだけで、性の臭いなんかまるでさせていないのに。
 倫太郎の隣には、越前が立っていた。
 越前は、完璧な無表情で俊を見ていた。
 整った顔の男の無表情はこんなに怖いものなのか、と俊は半ば感心してしまった。
 そして、越前もまた、倫太郎が言う『遊び』の意味を認識しているのだろうと思った。
 「いいよ。」
 俊がそう答えると、隣の裕一が驚いたようにこちらを見た。
 次の時間は、代返が通用しない語学の講義なのだ。
 よし、と嬉しそうに笑った倫太郎は、越前の隣からするりと離れて俊の目の前までやってきた。
 越前は、やはりなんの表情も浮かべず、ただ倫太郎を目で追っていた。
 この男は、倫太郎と寝ていないのかもしれない。
 そんなことが俊の頭をよぎった。
 ただ、倫太郎と寝ていないということは、倫太郎と寝ているということよりもよっぽど意味のあることに思えた。
 俊や、すれ違った男たちが、倫太郎にとってただの消耗品であって、越前だけはそうでないみたいに。
 「俊……、」
 裕一がなにか言おうとしてやめた。
 それだけで、俊は倫太郎に悪い噂がいくらでもあることを察した。
 それでも俊は、倫太郎の前に立って歩き始めた。
 行く場所は、俊の部屋。
 分かっている。俊は越前ではないから、消耗されるしかない。いつも二人で裏庭で遊んでいられるはずがない。
 「久しぶりだよな。」
 なんの他意もない口調で倫太郎が言った。
 そうだな、と俊は返した。
 なんの他意もない口調になっていればいいのに、と祈るような強さで思ったけれど、そう上手くはいかなかった。
 どうした? と、半歩後ろを歩いていた倫太郎が、俊の前に回り込んで首をかしげる。
 なんでもない、と俊は答えた。
 早く、越前もすれ違う男たちもいない場所にたどり着きたいと念じながら。

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