恋に似ていた

美里

文字の大きさ
15 / 17

しおりを挟む
学校から徒歩3分の俊のアパートで、倫太郎は後ろ手でドアを閉めながら俊に口づけた。
 狭い靴脱で、痩せた身体が2つ絡まり合う。
 「越前は?」
 キスの合間に俊が問うた。
 倫太郎はそれには応えず、軽く背伸びして俊の唇を塞いだ。
 越前は、あんなろうそくを買ってきたという越前は、多分倫太郎が俊と寝ていることを知っている。俊と、というよりは、手帳につけた男たちと。
 それでも、あの絶望的な顔をした越前が倫太郎を呼び止めなかったのは……。
 「寝てないんだろ、越前とは。」
 更に重ねた問い。俊は倫太郎の肩を掴み、自分の体から遠ざけた。
 答えろよ、と目線で促すと、倫太郎が渋々と言った様子で口を開いた。
 「寝てないよ。」
 やっぱり、と俊は胸の深いところから溜息を1つついた。
 やっぱり倫太郎は、自分が越前以外の男を消耗品にしている事自体に、気がついていない。
 「どうして。」
 本当はそんな問いかけなどしたくなかった。
 倫太郎に越前の特別さを気が付かせてしまう問いかけ。
 それでも俊が問を重ねたのは、どうしても、あのろうそくを見つめていた越前の様子が忘れられないからだ。
 「どうして?」
 俊の言葉を浅く繰り返した倫太郎は、俊の目を真っ直ぐ見たまま淡々と言った。
 「越前は男を抱けないからだよ。」
 想像していた通りの回答に、俊は唇を噛んだ。
 分かっていた。自分は他の男たちと同じ、ただの消耗品。越前の代わりでしかない。
 例えばここで、俊が倫太郎に恋心をぶつけてみたとしても、そこに意味は生じない。どうせ倫太郎には越前しかいないのだ。男を抱けない越前しか。
 「惚れてるんだろ。」
 問いかけにすらならない、ただの確認。
 倫太郎はそれでも首を左右に振った。
 「俺は俊が好きだよ。」
 嘘だと分かってた。
 俊は、たまたまあの夏倫太郎を見つけただけ。裏庭で水を浴びる彼を見つけたのが他の誰かだとしたら、倫太郎は今その男の家にいるのだろう。
 好きだなんて嘘をつかれるくらいなら、お前じゃなくても良かったと、そう突き放されたほうがましだった。そうしたら俊は、倫太郎を諦めきれる。
 諦めきれなにしても、諦めたふりくらいはできる。きっと。
 それなのに倫太郎は、俊の首に手を回して、同じ言葉を繰り返した。
 「俺は俊が好きだよ。」
 それは、俊の自由や思考を奪う呪文みたいに。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

僕の幸せは

春夏
BL
【完結しました】 【エールいただきました。ありがとうございます】 【たくさんの“いいね”ありがとうございます】 【たくさんの方々に読んでいただけて本当に嬉しいです。ありがとうございます!】 恋人に捨てられた悠の心情。 話は別れから始まります。全編が悠の視点です。

窓のない部屋の、陽だまりみたいな君

MisakiNonagase
BL
都心の高層ビル、その「内臓」とも言える地下一階のメール室。 そこで働く山﨑智之は、目立たず、期待されず、淡々と郵便物を捌く「透明人間」のような毎日を愛していた。自分は低スペックで、華やかな地上には居場所がない。そう、諦めていた。 ​そんな彼の静寂を破ったのは、二十二階の住人、若きエース・風巻隼人だった。 完璧なルックス、圧倒的な成果、羨望の眼差しを一身に浴びる彼が、なぜか地下のメール室に足繁く通い始める。 ​「五分だけ、ここにいさせてくれないか」 ​一通の郵便物から始まった、五分間だけの秘密の共有。 次第に剥き出しになっていく隼人の孤独と、それを無自覚に包み込んでしまう智之の温度。 住む世界が違う二人が、窓のない部屋で見つけたのは、名前のつかない「救済」だった。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

薄紅の檻、月下の契り

雪兎
BL
あらすじ 大正十年、華やかな文明開化の影で、いまだ旧き因習が色濃く残る帝都。 没落しかけた名家に生まれた“Ω(オメガ)”の青年・白鷺伊織は、家を救うため政略的な「番(つがい)」として差し出される運命にあった。 しかし縁談の相手は、冷酷無慈悲と噂される若き実業家であり“α(アルファ)”の当主・九条鷹司。 鉄道・銀行事業で財を成した九条家は、華族でもありながら成り上がりと蔑まれる存在。 一方の伊織は、旧華族の矜持を胸に秘めながらも、Ωであるがゆえに家族から疎まれてきた。 冷ややかな契約婚として始まった同居生活。 だが、伊織は次第に知ることになる。 鷹司がΩを所有物としてではなく、一人の人間として尊重しようとしていることを。 発情期を巡る制度、番契約を強制する家制度、そして帝都に広がる新思想。 伝統と自由のはざまで揺れながら、二人は「選ばされた番」から「自ら選ぶ伴侶」へと変わっていく——。 月明かりの下、交わされるのは支配ではなく、誓い。 大正浪漫薫る帝都で紡がれる、運命を超える愛の物語。

処理中です...