恋に似ていた

美里

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一度きりのセックスの後、倫太郎はシャワーを浴びに行った。俊は、じっとベッドに寝そべったまま天井を眺めていた。
 そのタイミングで、枕元に放り出してあった倫太郎のスマホが鳴った。
 越前だ。スマホを見る前からわかった。
 越前が、倫太郎を連れて行こうとしている。
 たっぷり数コール分、俊は迷った。
 シャワーの音はまだ続いている。
 ただの出来心と野次馬根性。
 俊は自分の胸の中に渦巻く感情の澱にそう名前をつけ、スマホを手に取った。
 「倫太郎。」
 電話の向こうで越前が倫太郎の名前を呼んだ。けれどもその呼びかけは心ここにあらずで、多分越前は電話に出たのが俊だと気がついていた。
 俊が言葉を選びあぐねて黙っていると、越前は感情の色のまるで見えない声で、大菅、と俊の名字を呼んだ。
 名前を知られているとは思っていなかったので、俊は驚いてスマホを耳から少し遠ざけた。
 「大菅。倫太郎は?」
 「……シャワー浴びてる。」
 短い沈黙が落ちた。電話の向こうからは越前の長い溜息が聞こえてきた。
 そして、ぽんと投げ出された問い。
 「倫太郎がほしい?」
 俊はとっさに言葉が返せなかった。
 倫太郎はあんたの所有物じゃないだろう、と、当たり前のセリフだけが胸に落ちては来たけれど、言葉にはならなかった。
 越前と倫太郎の関係性ならば、多分倫太郎は越前の所有物なのだ。
 「……。」
 黙り込んだ俊を、電話の向こうの越前は笑った。
 「迷うくらいなら、倫太郎は無理だ。迎えに行くから支度させといてくれ。」
 迷うくらいなら倫太郎は無理。
 分かっていた。倫太郎にもしも恋などしたら、彼の全てを許さなくてはいけなくなる。迷わず、全てを。
 「……分かった。」
 そう答えるしかなかった。越前は倫太郎の全てを許している。燃やされたろうそくを見て、ひどく悲しげな顔をした彼は、それでも。
 じゃあ、とごく短い挨拶の後、電話はぷつりと切れた。
 俊はスマホを枕元に戻し、シャワールームのドアをノックした。
 「倫太郎。」
 「なに?」
 「早く出ろ。」
 「なんで?」
 「越前が迎えに来るから。」
 はいはい、と軽く応えた倫太郎に、躊躇いの色はまるでなかった。
 俊はシャワールームのドアによりかかり、水音に耳を澄ませながら、思った。
 この感情は、恋ではない。
 恋に似ていたとしても、それはそれだけ。絶対にこれは、恋ではない。
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