美里

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呆然と突っ立っている夕と違い、陽子はすぐに行動を開始した。ブーツのまま堂々と畳敷きの部屋を横切り、作り付けの押し入れの襖を開けたのだ。
 「秘密の手紙の隠し場所って言うのは、こういうとこって決まってるんですよ。」
 歌うように言いながら、陽子が押入れの天井をごそごそと探し出す。そして、あ、と短く声を上げた。
 どうした、と、夕も押入れに駆け寄る。
 すると陽子は、得意げに30センチ四方くらいの薄い板を押し入れから取り出した。
 「ここから天井裏に行けるようになってるみたいですね。」
 ここ、と、彼女が頭のてっぺんで示した先には、押し入れの天井に四角く穴が空いていた。その中は、ただ真っ暗い。
 「こういうとこに手紙かなにかが……、」
 そのどこに通じているのかも分からない真っ黒の穴に、陽子は臆せず頭を突っ込んだ。そして、一つの小箱を手に戻ってきた。
 「秘密の箱?」
 陽子の両手には少し余るくらいの大きさのその箱は、きれいに水色の千代紙が貼られ、年月を超えて大切に保管されていたことが伺えた。
 「開けますね。」
 夕の心の準備が整う前に、陽子が容赦なくその小箱を開けた。
 中にはまず、一枚の和紙が。
 そこには筆書きでただ二文字、面影、と書かれていた。
 「面影?」
 陽子が大きな目を瞬かせる。
 「これ、藤さんの字ですか?」
 問われた夕も、藤の筆跡など知っているわけもない。でも、多分そうだろう、と首を縦に振った。
 繊細に整ったその筆の跡は、藤の印象にとてもよく似ていた。おそらくは、藤の手だろう。
 陽子が軽く頷き、その紙をのける。
 するとその下から出てきたのは、大量の写真だった。
 「……夕さま?」
 写真を文机一面に広げ、陽子が首をひねる。
 その写真にはどれも、確かに夕によく似た男の姿が映されていた。けれど、夕にはすぐにそれが自分ではないと分かる。
 「……親父だよ。」
 そこにいたのは、若い頃の夕の父親だった。9つや10くらいから、はたちくらいまで、大量の写真が集められていた。
 なぜこんなものを藤は天井裏に隠していたのだろう。
 夕は首を傾げた。
 自分の旦那の写真だ。そんなもの、写真立てに入れるなり、屏風に貼り付けるなりして、いくらでも持っておけばいい。それなのに、なぜ天井裏なんかに。
 
 
 
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