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傷つきたくないなら、黙っているのが賢いと分かっていた。彬の性格的に、確実に自分から話を切り出せない。だったら黙って、彬をベッドに引きずり込んでしまえばいい。そうやって、この青年の口をなし崩し的にふさいでしまえば。なのに、影までも薄くなってしまったような彬の姿を見ていると、それもできなくて。
「……相方と、なにかあったんだろ。」
言葉が棘になって、喉に引っかかる。彬は缶ビールの缶を握ったまま、少し俯いてじっと座っている。
「……俺と寝てんのがばれたか。」
大方そんなところだろうと、見当はついていた。彬がここまで動揺するのは、男なんか抱かないタイプらしい相方に、男と関係を持ったことがばれでもしたのだろうと。
「追い出されたのか、家。」
「健吾は、そんなことしない。」
彬はそう、食い気味で返してきた。その勢いに、佐原は驚く。さっきまでのぐったりした様子と、全く釣り合わなかったので。
健吾は、そんなことしない。
その言葉に込められた、確かな信頼と恋慕に、佐原はいつもの、爪が焼けるような嫉妬を覚えた。
「じゃあ、どうしたんだよ。」
言葉だけは穏やかに、視線は彬からそらしたまま、佐原は訊いた。彬を真っ直ぐにみられなかった。余計なことを口走り、また、重い男に成り下がりそうで。
「……俺が、勝手に出てきた。」
彬の声は、細かった。力がなく、ふわふわと宙に彷徨う。
「……なんで、出てきた。」
こんなふうに、彬の思考を導くような問いを重ねることも苦痛だった。彼の思考の先には、健吾とかいうらしい男への恋情しかないと分かっていたから。
ただ、今は取り乱してそのことすら分からなくなっているだけ。だったら、もっとうまく誘導して、混乱しきっている彬を、こっち側に落とすことはできないだろうか。洗脳みたいな言葉で、彼のむき出しになった神経を生やさしくくるみ込んで。
「……いられなかったから。」
「……どうして。」
「……知られたから。健吾に。」
「……なにを。」
「……俺の、汚いところを。」
分かっている。これでは、洗脳にならない。こんなふうに、ただ彼の思考を支えるだけでは。それなのに、得意なはずの不実な口がきけなかった。視線の端で、彬の指が震えている。
「お前は、汚くないよ。」
「……汚い。心はもともと汚いし、身体も汚したよ。」
「……俺で?」
「身体はね。心は、もとから。」
身体も汚した。
それは、分かる。一回りは年上の、よく知りもしないおっさん相手に未経験だった身体を差し出してきた彬。あのときから彼には、身体を汚したがっているような雰囲気はあったのだ。それを佐原は、知らないふりした。彬の身体を、身体だけでも、手放したくなくて。
「……相方と、なにかあったんだろ。」
言葉が棘になって、喉に引っかかる。彬は缶ビールの缶を握ったまま、少し俯いてじっと座っている。
「……俺と寝てんのがばれたか。」
大方そんなところだろうと、見当はついていた。彬がここまで動揺するのは、男なんか抱かないタイプらしい相方に、男と関係を持ったことがばれでもしたのだろうと。
「追い出されたのか、家。」
「健吾は、そんなことしない。」
彬はそう、食い気味で返してきた。その勢いに、佐原は驚く。さっきまでのぐったりした様子と、全く釣り合わなかったので。
健吾は、そんなことしない。
その言葉に込められた、確かな信頼と恋慕に、佐原はいつもの、爪が焼けるような嫉妬を覚えた。
「じゃあ、どうしたんだよ。」
言葉だけは穏やかに、視線は彬からそらしたまま、佐原は訊いた。彬を真っ直ぐにみられなかった。余計なことを口走り、また、重い男に成り下がりそうで。
「……俺が、勝手に出てきた。」
彬の声は、細かった。力がなく、ふわふわと宙に彷徨う。
「……なんで、出てきた。」
こんなふうに、彬の思考を導くような問いを重ねることも苦痛だった。彼の思考の先には、健吾とかいうらしい男への恋情しかないと分かっていたから。
ただ、今は取り乱してそのことすら分からなくなっているだけ。だったら、もっとうまく誘導して、混乱しきっている彬を、こっち側に落とすことはできないだろうか。洗脳みたいな言葉で、彼のむき出しになった神経を生やさしくくるみ込んで。
「……いられなかったから。」
「……どうして。」
「……知られたから。健吾に。」
「……なにを。」
「……俺の、汚いところを。」
分かっている。これでは、洗脳にならない。こんなふうに、ただ彼の思考を支えるだけでは。それなのに、得意なはずの不実な口がきけなかった。視線の端で、彬の指が震えている。
「お前は、汚くないよ。」
「……汚い。心はもともと汚いし、身体も汚したよ。」
「……俺で?」
「身体はね。心は、もとから。」
身体も汚した。
それは、分かる。一回りは年上の、よく知りもしないおっさん相手に未経験だった身体を差し出してきた彬。あのときから彼には、身体を汚したがっているような雰囲気はあったのだ。それを佐原は、知らないふりした。彬の身体を、身体だけでも、手放したくなくて。
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