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次の雨の夜、俺は大学の授業を終えて家に帰り、ベッドに膝を抱えて、外階段を上る足音が、今にも聞こえてきはしないかと耳をすませた。彼がやってくるのは、夜中だ。頭では理解はしているのだけれど、夕方から勝手に身体がそうしていた。
母に会いに行こう、と、決めていた。里砂が言うには、息子を心配しているという母に。里砂の言うことは、いつだって正しいのだから。だから俺は、死んではいけない。一緒に死のう、と誘いをかけられたとしても、うん、と頷いてはいけないのだ。
夕日が沈み、部屋の中が真っ暗になる。電気をつけるために腕を伸ばすのも億劫で、俺はじっとベッドに座っていた。
母は、いきなりやってきた息子に、どんな顔を見せるだろうか。多分、気まずそうに眉をひそめるかもしれない。それは、俺も同じだ。それでも、会おうと思う。それが最後になるにしても。
部屋の中が冷え込んでくる。なんでこんなにこの部屋は暖房の効きが悪いのだろう。でもおそらく、この部屋が明るく暖かかったら、彼は何度もここを訪れはしなかっただろう。
スマホを引き寄せ、時間を確認する。夜中の12時少し前。きっと、もうすぐだ。もうすぐ彼はやってくる。なぜだか、彼がやってこないという想定はしていなかった。その可能性だって大いにあるのに。
もう、日付が変わる。そう思ったのと同時に、外蟹段がどんどんと踏み荒らされる音が聞こえてきた。彼だ。玄関まで飛んでいきそうになる自分を、なんとか抑えて足音に耳を傾けていると、なんだか悲しくなってきた。彼がこんなに足音を荒立てないといけない理由がすら、俺は知らないのに。
インターフォンが鳴る。急いで玄関まで歩くうちに、どんどんとドアを蹴られた。いつもより、彼の気は短いらしい。
「……いらっしゃい。」
他に言葉も見つからなくてそう言ったら、傘も持たずに肩を濡らした彼が、今夜の雨より冷たい目つきで俺を見た。皮肉だと思われたのかもしれない。
襟首を掴まれてベッドまで引きずられるのが嫌で、彼から一歩距離を取る。話がしたい。そのひとことを口にできないのは、その後に続く言葉をひとつも思いつけていないからだ。彼は、一瞬俺の足元を見た。俺があけた、一歩分の空白を。俺はその彼の様子を見ると、胸が締め付けられるような気分になった。理由は、よく分からない。
「……俺、逃げないよ。」
ほとんど無意識に出てきた言葉だった。その言葉を自分の耳で聞いて、認識して、それから思うと、彼の行動はいつも、相手を逃がさないためのものに思えた。荒立てた足音も、ドアを蹴るのも、襟首を引っ掴むのも、限界までのセックスも、一緒に死のう、という囁きも、髪を撫でる手つきも。
母に会いに行こう、と、決めていた。里砂が言うには、息子を心配しているという母に。里砂の言うことは、いつだって正しいのだから。だから俺は、死んではいけない。一緒に死のう、と誘いをかけられたとしても、うん、と頷いてはいけないのだ。
夕日が沈み、部屋の中が真っ暗になる。電気をつけるために腕を伸ばすのも億劫で、俺はじっとベッドに座っていた。
母は、いきなりやってきた息子に、どんな顔を見せるだろうか。多分、気まずそうに眉をひそめるかもしれない。それは、俺も同じだ。それでも、会おうと思う。それが最後になるにしても。
部屋の中が冷え込んでくる。なんでこんなにこの部屋は暖房の効きが悪いのだろう。でもおそらく、この部屋が明るく暖かかったら、彼は何度もここを訪れはしなかっただろう。
スマホを引き寄せ、時間を確認する。夜中の12時少し前。きっと、もうすぐだ。もうすぐ彼はやってくる。なぜだか、彼がやってこないという想定はしていなかった。その可能性だって大いにあるのに。
もう、日付が変わる。そう思ったのと同時に、外蟹段がどんどんと踏み荒らされる音が聞こえてきた。彼だ。玄関まで飛んでいきそうになる自分を、なんとか抑えて足音に耳を傾けていると、なんだか悲しくなってきた。彼がこんなに足音を荒立てないといけない理由がすら、俺は知らないのに。
インターフォンが鳴る。急いで玄関まで歩くうちに、どんどんとドアを蹴られた。いつもより、彼の気は短いらしい。
「……いらっしゃい。」
他に言葉も見つからなくてそう言ったら、傘も持たずに肩を濡らした彼が、今夜の雨より冷たい目つきで俺を見た。皮肉だと思われたのかもしれない。
襟首を掴まれてベッドまで引きずられるのが嫌で、彼から一歩距離を取る。話がしたい。そのひとことを口にできないのは、その後に続く言葉をひとつも思いつけていないからだ。彼は、一瞬俺の足元を見た。俺があけた、一歩分の空白を。俺はその彼の様子を見ると、胸が締め付けられるような気分になった。理由は、よく分からない。
「……俺、逃げないよ。」
ほとんど無意識に出てきた言葉だった。その言葉を自分の耳で聞いて、認識して、それから思うと、彼の行動はいつも、相手を逃がさないためのものに思えた。荒立てた足音も、ドアを蹴るのも、襟首を引っ掴むのも、限界までのセックスも、一緒に死のう、という囁きも、髪を撫でる手つきも。
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