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13 エリカの鼓動は跳ねた
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「他の令嬢もですが、ミランダが男性にもてるからって、やっかみで彼女に嫌がらせをするんです。それが最近エスカレートしてきて……特にヴァイオレットは、ティモシーの件もあり酷いものでした」
その時のことを思い出したのか、エリカが苦虫をかみつぶしたような顔をした。
「私がヴァイオレットに叩かれた時点で、”叩かれた。顔に傷をつけられた”って騒ぎを大きくするつもりでした。殿下が仰った通り、ヴァイオレットは女性たちを吊るし上げて、あちこちに恨みを買っています。こちらに非はありませんし、私たちに同情が集まって、もうミランダに手を出せなくなると思ったんです。でもまさか、断罪できるとまでは思いませんでした。ダニエル殿下のお陰です。ありがとうございました」
「……パーティー会場から離れたこんな場所で、気づいてくれる人がいなかったら、どうするつもりだったんだ?」
「ちょうど衛兵が巡回する時間でしたから」
「ああ――」
確かに自分も衛兵から、”ちょっとした騒ぎになっている”と報告を受けて、様子を見にやって来たのだ。
「そうか。ただ、彼女の装飾過多な扇で、しかもあの勢いで叩かれたらただではすまなかった筈だ」
「それは覚悟の上です。いっそのこと傷ついたほうが、ヴァイオレットも言い逃れができなくなります。自分で言うのもなんですが、平凡な器量ですから少しくらい傷がついても大したことはないと思いました」
「君の行為は、まるで姫君を守る騎士のようだが、絶対にだめだ。一生残る傷になるかもしれないし、そうしたらミランダは君の傷を見るたびに罪悪感に苛まれるんじゃないか?」
「あ……」
エリカの顔には”いま気づいた”と書いてあった。
エリカは一見して、何て事ないように言っている。しかしヴァイオレットが扇を振り下ろそうとした時、彼女がギュッと目を瞑って小さく震えていたのをダニエルは見逃さなかった。
(友達思いのいい娘だ。怖かっただろうに……)
その時ダニエルの中に、エリカの事を守ってやりたいという想いが芽生えた。
王子であるダニエルに媚びもせず、飾らずに話すところも好ましい。彼は久かたぶりに肩の力を抜いて、女性と普通に話せた気がした。
エリカが澄んだ瞳でダニエルを見上げる。
「ダニエル様に助けて頂いた時は心から安堵いたしました。私たちの味方になって下さったことも、大変嬉しく思っております」
感謝の気持ちがこもった、溢れんばかりの笑みを向けられて、ダニエルは魅せられたようにエリカを見つめた。
じっと見つめられたエリカは、戸惑いがちに顔を俯ける。白い首筋がほんのりと紅く染まっているのが初々しい。
「もう二度とこんな事をしてはいけない。何かあったら、必ず私に言うんだ。君たちは最優先で部屋に通すよう、臣下に伝えておく」
「はい、ありがとうございます」
お礼を言うエリカの頬に、ダニエルの手が伸びてきた。
ピクっと肩を揺らして、エリカが目を瞬かせる。
「叩かれなくて、この愛らしい顔に傷がつかなくて本当に良かった――」
優しく触れる掌に、愛おし気な眼差しに……エリカの鼓動は大きく跳ねた。
「王子、お時間です」
「ああ、分かった」
ダニエルは名残惜し気に、エリカから手を離す。
「それではこれで失礼するよ」
二人して王子を見送った後……
”はうっ―”……とミランダが、身を捩らせながら溜息を吐いた。
「ダニエル王子、格好良かった。いいなぁ、エリカ。頬に触れられて」
「わたしはとても……心臓に悪かった……」
「でも今はそれよりも、エリカありがとう! 私のために!!」
感激の涙で顔をぐしゃぐしゃにしたミランダが、ドンッとぶつかるようにしてエリカに抱きついた。
その時のことを思い出したのか、エリカが苦虫をかみつぶしたような顔をした。
「私がヴァイオレットに叩かれた時点で、”叩かれた。顔に傷をつけられた”って騒ぎを大きくするつもりでした。殿下が仰った通り、ヴァイオレットは女性たちを吊るし上げて、あちこちに恨みを買っています。こちらに非はありませんし、私たちに同情が集まって、もうミランダに手を出せなくなると思ったんです。でもまさか、断罪できるとまでは思いませんでした。ダニエル殿下のお陰です。ありがとうございました」
「……パーティー会場から離れたこんな場所で、気づいてくれる人がいなかったら、どうするつもりだったんだ?」
「ちょうど衛兵が巡回する時間でしたから」
「ああ――」
確かに自分も衛兵から、”ちょっとした騒ぎになっている”と報告を受けて、様子を見にやって来たのだ。
「そうか。ただ、彼女の装飾過多な扇で、しかもあの勢いで叩かれたらただではすまなかった筈だ」
「それは覚悟の上です。いっそのこと傷ついたほうが、ヴァイオレットも言い逃れができなくなります。自分で言うのもなんですが、平凡な器量ですから少しくらい傷がついても大したことはないと思いました」
「君の行為は、まるで姫君を守る騎士のようだが、絶対にだめだ。一生残る傷になるかもしれないし、そうしたらミランダは君の傷を見るたびに罪悪感に苛まれるんじゃないか?」
「あ……」
エリカの顔には”いま気づいた”と書いてあった。
エリカは一見して、何て事ないように言っている。しかしヴァイオレットが扇を振り下ろそうとした時、彼女がギュッと目を瞑って小さく震えていたのをダニエルは見逃さなかった。
(友達思いのいい娘だ。怖かっただろうに……)
その時ダニエルの中に、エリカの事を守ってやりたいという想いが芽生えた。
王子であるダニエルに媚びもせず、飾らずに話すところも好ましい。彼は久かたぶりに肩の力を抜いて、女性と普通に話せた気がした。
エリカが澄んだ瞳でダニエルを見上げる。
「ダニエル様に助けて頂いた時は心から安堵いたしました。私たちの味方になって下さったことも、大変嬉しく思っております」
感謝の気持ちがこもった、溢れんばかりの笑みを向けられて、ダニエルは魅せられたようにエリカを見つめた。
じっと見つめられたエリカは、戸惑いがちに顔を俯ける。白い首筋がほんのりと紅く染まっているのが初々しい。
「もう二度とこんな事をしてはいけない。何かあったら、必ず私に言うんだ。君たちは最優先で部屋に通すよう、臣下に伝えておく」
「はい、ありがとうございます」
お礼を言うエリカの頬に、ダニエルの手が伸びてきた。
ピクっと肩を揺らして、エリカが目を瞬かせる。
「叩かれなくて、この愛らしい顔に傷がつかなくて本当に良かった――」
優しく触れる掌に、愛おし気な眼差しに……エリカの鼓動は大きく跳ねた。
「王子、お時間です」
「ああ、分かった」
ダニエルは名残惜し気に、エリカから手を離す。
「それではこれで失礼するよ」
二人して王子を見送った後……
”はうっ―”……とミランダが、身を捩らせながら溜息を吐いた。
「ダニエル王子、格好良かった。いいなぁ、エリカ。頬に触れられて」
「わたしはとても……心臓に悪かった……」
「でも今はそれよりも、エリカありがとう! 私のために!!」
感激の涙で顔をぐしゃぐしゃにしたミランダが、ドンッとぶつかるようにしてエリカに抱きついた。
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