伯爵令嬢エリカは王子の恋を応援します!なのにグイグイこられて、あなたは男装王女の筈ですよね?

sierra

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28 ここに二人は狭くないですか?

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「狭くはないですか?」

「二人で十分座れる広さだと思うが?」

「そうですけど……」

(距離が近い気がするのだけど……)

 エリカはお皿にサンドイッチと果物をたくさん盛って、ダニエルの前に置く。

「山盛りだな……」

「お昼を抜いたのではありませんか?」

 ダニエルが溜息を吐く。
 
「その通りだ。スコット(エリカ父)に聞いたことがあるのか?」

「はい、そうです」

 本当は違う。忙しいダニエルがよく昼を抜いて政務をこなしているのは、ゲームで知っていたからだ。

 紅茶を入れてダニエルの前に置く。

「エリカは?」

「もちろん頂きます」

 もう一皿も山盛りにして目の前に置いた。

 クッキーはリスにあげてしまったし、お腹が空いていたのだ。

 クスッとダニエルが笑う。

「君は俺の前でも気取らないんだな」

 ダニエルは右手をサンドイッチに伸ばしかけたが、ふと考えて引っ込めると、左手を伸ばして掴んだ。

 傷口に食べ物が触れるのはよくないだろうと考えたようだ。

「食べにくそうですね」

 左手でぎこちなく食べるダニエルを、じっとエリカが見つめる。

「食べさせてくれるか?」

 ダニエルがからかうように言った。

「いいですよ」

「……え、」

 あっさりと承諾されて驚き顔のダニエルの前に、チキンを挟んだサンドイッチが突き出された。

 彼はガブッとかぶりつき、咀嚼して飲み込む。

 すぐにまたサンドイッチを口に押し付けられる。

 ダニエルはまたがガブッと噛んだ。

 真剣な顔をして食べさせるエリカ。

「真剣だな」

「はい。この国の行く末はダニエル様に掛かっているのですから、しっかり食べて頂かないと」

 ダニエルが一皿目を平らげた。

 ダニエルの食べっぷりが気持ちよいのもあって、エリカは段々食べさせるのが楽しくなってくる。

「何で笑顔になったんだ」

「何だか餌付けしているみたいで楽しいです」

「餌付け……」

「フォルカー様がリスにクッキーをあげている時、とてもいい笑顔をしていました。わたしと同じで楽しかったんでしょうね」

 その時の事を思い出したエリカが、クスクスと笑う。

 ダニエルの口元にマスタードがついて、垂れそうになった。

「あ、垂れちゃう…」

 咄嗟にエリカは指先でマスタードを拭う。

 ダニエルが口を開いて、はくっとその指を口に含んだ。

「ダ、ダニエル様?」

 引き抜こうとしたが、手首をきつく掴まれてしまう。

 ダニエルはエリカの指についたマスタードを舐めとり、ガリっと指先を噛んだ。

「痛いっ……」

「フォルカーの名前を出すな」

 手首を掴んだままの彼は、不機嫌そうに眉をしかめている。 

(……フォルカー様と仲良くした私が、そんなに気に食わないの……?)

「………すいませんでした。以後気を付けます」

 目を潤ませて、しゅんとして言うエリカに、ダニエルが慌てた様子で手を離した。

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