伯爵令嬢エリカは王子の恋を応援します!なのにグイグイこられて、あなたは男装王女の筈ですよね?

sierra

文字の大きさ
61 / 79

61 中庭には誰がいる?

しおりを挟む
 オズワルドはダニエルに会うために、執務室に向かっていた。ルクレツィアに注意を受けたからだ。 

「兄さま、プレゼントは用意したの?」

「プレゼントって……?」

「もう、これだから脳筋は。エリザベス嬢に会った時に渡さないの?」

「あっ……」

「”あっ”じゃないわよ。花束と、あまり高価じゃない可愛らしいアクセサリーか、髪飾りなんかいいんじゃない?」

「……高価なほうがよくないか?」

「いきなり高価なアクセサリーなんか贈ったら、引くわよ」

 彼はダニエルに馴染みの花屋と、女性に喜ばれそうな品物が置いている店を、紹介してもらおうと考えていた。

 好いた女性へのプレゼント。普通なら足取りが軽くなるはずだが、昨夜のある出来事が引っかかり、気分が晴れないでいた。

***昨夜の晩餐後

「オズワルド様」

「なんだいヨハン?」

「あの……お探しの女性は、確かにそっくりさんでしたか? 月明りの下だと、似たドレスを着た令嬢と見間違える可能性が……」

「確かにそっくりさんだった。本人もそう言っていたし、それにこの仮面も」

 オズワルドが例の仮面を出して見せる。

「……そうですよね」

「どうしたんだい?」 

「招集の件と一緒に、ある事を尋ねるよう、ダニエル様に申しつかりまして」

「ああ」

「令嬢の家を訪れる度に、そっくりさんで使用した仮面が手元にあるかどうかを聞き、見せてくれとお願いしております」

「そうか、持っていない令嬢がエリザベスだからか」

「はい。しかし未だ全員が仮面を所持しており、残り二人になってしまったのです……」

「ということは、そのうちのどちらかがエリザベスなのだな!」

「そうとも考えられますが、わたくしがオズワルド様から伺った話では、エリザベス様は愛らしく、聖母マリアのような女性という印象を受けました」

 うんうんとオズワルドが頷く。

「しかしながら正直言って残りの二人は、玉の輿を狙うハンターのような女性で、聖母マリアからは程遠いのです」


***


 エリザベスは間違ってもハンターのような女性ではない。むしろ彼女はオズワルドと距離を置こうとしているように見えた。

(まさか、悩める俺を見かねて、神が天使を遣わしたのか? そうしたらもう会えないじゃないか……!)

 オズワルドは胸に手を当て、気持ちを落ち着かせる。

(いや、まだ二人残っている……。余計なことを考えるのはよそう)

 二階の回廊部分に差し掛かると、クスクスと笑う女性の声が聞こえてきた。

(中庭に誰かいるんだな)

 外に目を向けると、暖かな日差しが降り注いでいる。

(エリザベスのように、優しく、暖かな日差しだ)

「ほら、リンゴをあげるから」

 オズワルドは息を呑んだ。

「この声は……」 

 手摺てすりに飛びついて、中庭を見下ろす。そこには副騎士団長のラファエルと、ベンチにはヴェールを被った女性が座っていた。よく見るとリンゴを切っていて、手元にはリスが殺到している。
  
「ナイフを使っているから危ないわよ」

 ヴェールを被っているせいか、声がくぐもってよく分からない。

『もう少し大きな声で話してくれ! もしくは顔が少しでも見られたら……』

 呟きながら、グッと手摺りから身を乗り出す。その瞬間彼女の頭からヴェールが落ち、傍に居たラファエルが拾い上げた。

 女性が顔を上げ、ラファエルに向かって手を差し伸べる。

 オズワルドの胸がドクンと打った。

しおりを挟む
感想 74

あなたにおすすめの小説

『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』

鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、 仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。 厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議―― 最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。 だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、 結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。 そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、 次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。 同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。 数々の試練が二人を襲うが―― 蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、 結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。 そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、 秘書と社長の関係を静かに越えていく。 「これからの人生も、そばで支えてほしい。」 それは、彼が初めて見せた弱さであり、 結衣だけに向けた真剣な想いだった。 秘書として。 一人の女性として。 結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。 仕事も恋も全力で駆け抜ける、 “冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

強面夫の裏の顔は妻以外には見せられません!

ましろ
恋愛
「誰がこんなことをしろと言った?」 それは夫のいる騎士団へ差し入れを届けに行った私への彼からの冷たい言葉。 挙げ句の果てに、 「用が済んだなら早く帰れっ!」 と追い返されてしまいました。 そして夜、屋敷に戻って来た夫は─── ✻ゆるふわ設定です。 気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。

絶対に近づきません!逃げる令嬢と追う王子

さこの
恋愛
我が国の王子殿下は十五歳になると婚約者を選定される。 伯爵以上の爵位を持つ年頃の子供を持つ親は娘が選ばれる可能性がある限り、婚約者を作ることが出来ない… 令嬢に婚約者がいないという事は年頃の令息も然り… 早く誰でも良いから選んでくれ… よく食べる子は嫌い ウェーブヘアーが嫌い 王子殿下がポツリと言う。 良い事を聞きましたっ ゆるーい設定です

(完結保証)大好きなお兄様の親友は、大嫌いな幼馴染なので罠に嵌めようとしたら逆にハマった話

のま
恋愛
大好きなお兄様が好きになった令嬢の意中の相手は、お兄様の親友である幼馴染だった。 お兄様の恋を成就させる為と、お兄様の前からにっくき親友を排除する為にある罠に嵌めようと頑張るのだが、、、

皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜

百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。 「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」 ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!? ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……? サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います! ※他サイト様にも掲載

側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、孤独な陛下を癒したら、執着されて離してくれません!

花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」 婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。 追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。 しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。 夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。 けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。 「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」 フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。 しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!? 「離縁する気か?  許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」 凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。 孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス! ※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。 【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】

折角転生したのに、婚約者が好きすぎて困ります!

たぬきち25番
恋愛
ある日私は乙女ゲームのヒロインのライバル令嬢キャメロンとして転生していた。 なんと私は最推しのディラン王子の婚約者として転生したのだ!! 幸せすぎる~~~♡ たとえ振られる運命だとしてもディラン様の笑顔のためにライバル令嬢頑張ります!! ※主人公は婚約者が好きすぎる残念女子です。 ※気分転換に笑って頂けたら嬉しく思います。 短めのお話なので毎日更新 ※糖度高めなので胸やけにご注意下さい。 ※少しだけ塩分も含まれる箇所がございます。 《大変イチャイチャラブラブしてます!! 激甘、溺愛です!! お気を付け下さい!!》 ※他サイト様にも公開始めました!

処理中です...