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61 中庭には誰がいる?
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オズワルドはダニエルに会うために、執務室に向かっていた。ルクレツィアに注意を受けたからだ。
「兄さま、プレゼントは用意したの?」
「プレゼントって……?」
「もう、これだから脳筋は。エリザベス嬢に会った時に渡さないの?」
「あっ……」
「”あっ”じゃないわよ。花束と、あまり高価じゃない可愛らしいアクセサリーか、髪飾りなんかいいんじゃない?」
「……高価なほうがよくないか?」
「いきなり高価なアクセサリーなんか贈ったら、引くわよ」
彼はダニエルに馴染みの花屋と、女性に喜ばれそうな品物が置いている店を、紹介してもらおうと考えていた。
好いた女性へのプレゼント。普通なら足取りが軽くなるはずだが、昨夜のある出来事が引っかかり、気分が晴れないでいた。
***昨夜の晩餐後
「オズワルド様」
「なんだいヨハン?」
「あの……お探しの女性は、確かにそっくりさんでしたか? 月明りの下だと、似たドレスを着た令嬢と見間違える可能性が……」
「確かにそっくりさんだった。本人もそう言っていたし、それにこの仮面も」
オズワルドが例の仮面を出して見せる。
「……そうですよね」
「どうしたんだい?」
「招集の件と一緒に、ある事を尋ねるよう、ダニエル様に申しつかりまして」
「ああ」
「令嬢の家を訪れる度に、そっくりさんで使用した仮面が手元にあるかどうかを聞き、見せてくれとお願いしております」
「そうか、持っていない令嬢がエリザベスだからか」
「はい。しかし未だ全員が仮面を所持しており、残り二人になってしまったのです……」
「ということは、そのうちのどちらかがエリザベスなのだな!」
「そうとも考えられますが、わたくしがオズワルド様から伺った話では、エリザベス様は愛らしく、聖母マリアのような女性という印象を受けました」
うんうんとオズワルドが頷く。
「しかしながら正直言って残りの二人は、玉の輿を狙うハンターのような女性で、聖母マリアからは程遠いのです」
***
エリザベスは間違ってもハンターのような女性ではない。寧ろ彼女はオズワルドと距離を置こうとしているように見えた。
(まさか、悩める俺を見かねて、神が天使を遣わしたのか? そうしたらもう会えないじゃないか……!)
オズワルドは胸に手を当て、気持ちを落ち着かせる。
(いや、まだ二人残っている……。余計なことを考えるのはよそう)
二階の回廊部分に差し掛かると、クスクスと笑う女性の声が聞こえてきた。
(中庭に誰かいるんだな)
外に目を向けると、暖かな日差しが降り注いでいる。
(エリザベスのように、優しく、暖かな日差しだ)
「ほら、リンゴをあげるから」
オズワルドは息を呑んだ。
「この声は……」
手摺りに飛びついて、中庭を見下ろす。そこには副騎士団長のラファエルと、ベンチにはヴェールを被った女性が座っていた。よく見るとリンゴを切っていて、手元にはリスが殺到している。
「ナイフを使っているから危ないわよ」
ヴェールを被っているせいか、声がくぐもってよく分からない。
『もう少し大きな声で話してくれ! もしくは顔が少しでも見られたら……』
呟きながら、グッと手摺りから身を乗り出す。その瞬間彼女の頭からヴェールが落ち、傍に居たラファエルが拾い上げた。
女性が顔を上げ、ラファエルに向かって手を差し伸べる。
オズワルドの胸がドクンと打った。
「兄さま、プレゼントは用意したの?」
「プレゼントって……?」
「もう、これだから脳筋は。エリザベス嬢に会った時に渡さないの?」
「あっ……」
「”あっ”じゃないわよ。花束と、あまり高価じゃない可愛らしいアクセサリーか、髪飾りなんかいいんじゃない?」
「……高価なほうがよくないか?」
「いきなり高価なアクセサリーなんか贈ったら、引くわよ」
彼はダニエルに馴染みの花屋と、女性に喜ばれそうな品物が置いている店を、紹介してもらおうと考えていた。
好いた女性へのプレゼント。普通なら足取りが軽くなるはずだが、昨夜のある出来事が引っかかり、気分が晴れないでいた。
***昨夜の晩餐後
「オズワルド様」
「なんだいヨハン?」
「あの……お探しの女性は、確かにそっくりさんでしたか? 月明りの下だと、似たドレスを着た令嬢と見間違える可能性が……」
「確かにそっくりさんだった。本人もそう言っていたし、それにこの仮面も」
オズワルドが例の仮面を出して見せる。
「……そうですよね」
「どうしたんだい?」
「招集の件と一緒に、ある事を尋ねるよう、ダニエル様に申しつかりまして」
「ああ」
「令嬢の家を訪れる度に、そっくりさんで使用した仮面が手元にあるかどうかを聞き、見せてくれとお願いしております」
「そうか、持っていない令嬢がエリザベスだからか」
「はい。しかし未だ全員が仮面を所持しており、残り二人になってしまったのです……」
「ということは、そのうちのどちらかがエリザベスなのだな!」
「そうとも考えられますが、わたくしがオズワルド様から伺った話では、エリザベス様は愛らしく、聖母マリアのような女性という印象を受けました」
うんうんとオズワルドが頷く。
「しかしながら正直言って残りの二人は、玉の輿を狙うハンターのような女性で、聖母マリアからは程遠いのです」
***
エリザベスは間違ってもハンターのような女性ではない。寧ろ彼女はオズワルドと距離を置こうとしているように見えた。
(まさか、悩める俺を見かねて、神が天使を遣わしたのか? そうしたらもう会えないじゃないか……!)
オズワルドは胸に手を当て、気持ちを落ち着かせる。
(いや、まだ二人残っている……。余計なことを考えるのはよそう)
二階の回廊部分に差し掛かると、クスクスと笑う女性の声が聞こえてきた。
(中庭に誰かいるんだな)
外に目を向けると、暖かな日差しが降り注いでいる。
(エリザベスのように、優しく、暖かな日差しだ)
「ほら、リンゴをあげるから」
オズワルドは息を呑んだ。
「この声は……」
手摺りに飛びついて、中庭を見下ろす。そこには副騎士団長のラファエルと、ベンチにはヴェールを被った女性が座っていた。よく見るとリンゴを切っていて、手元にはリスが殺到している。
「ナイフを使っているから危ないわよ」
ヴェールを被っているせいか、声がくぐもってよく分からない。
『もう少し大きな声で話してくれ! もしくは顔が少しでも見られたら……』
呟きながら、グッと手摺りから身を乗り出す。その瞬間彼女の頭からヴェールが落ち、傍に居たラファエルが拾い上げた。
女性が顔を上げ、ラファエルに向かって手を差し伸べる。
オズワルドの胸がドクンと打った。
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