駄目な奴でもなんとか生きていこうと思います

アオ

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サヴァリッシュ王国

騎士団候補生、試験二日目

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これから水曜日と日曜日のサイクルに戻します。
最近不定期更新ですみませんでした。

――




開始の合図が鳴ると僕は覚悟を決め、森へ入る。受験生達も森に散っていく。


まずはじめにと、風で体の周りにシールドを作り、周りに風を流し込み気配察知を行う。さすが、『魔獣の森』。幻惑の森にいた時とは種が違うが、うじゃうじゃと魔獣がいる。

最初に襲ってきたのはウルフだ。向かってきた順番に首を斬っていく。風魔法で微弱な風を剣に纏わせ、体を軽くする。この二次試験では自分自身の剣を扱うことができてよかった。慣れた剣だと戦いやすい。
数匹斬るとウルフ達は後退していく。追わずに放っておこう。多分この場にとどまって、襲ってきた魔獣を倒す方が楽だ。

その後も様々な魔獣が襲ってきたが、エディを逃がすときに戦った魔獣よりも全然弱かった。

野営できそうな場所を見つけた。といっても木が少ないところで火をおこして、寝るのに最適な場所を見つけるだけだった。
この木がいいかな、背もたれにちょうどいい。
火をおこす時、僕は火魔法が使えないため、前の世界の生物部で培った方法でやった。当然炭などないため、魔法で風を軽く起こし火を大きくする。
火起こし担当のときのことを思い出す。部員にはお決まりのように嫌われていて、誰にも近寄られなかったからいきなり一人でやらされたのだ。本当に嫌だったなぁ。

もう朝2時ぐらいだろうか?しばらくの間、一人で気配察知に人間がかかった。さっき察知した騎士団員ではなく、小さい気配だ。茂みから出てくる。誰だ?

「おい、お前!」
「はい。」
「僕はタウンゼンド子爵家が次男リカーフ・ミナス・タウンゼンドだ。お前が倒した魔獣を渡せ!」

相手の子は子爵家だから公爵家の名を出せばこの場は済みそうだが、後でアレフガートさんに迷惑がかかるのは避けたい。それに、狩った魔獣を渡したら僕が狩った数が少ないという理由で落とされてしまうかもしれなし、まだ中学1年生ぐらいの子を権力で脅すなんてしたくない。
理由をつけて諦めてもらおう。

「申し訳ありませんが、それはできません。そもそも僕が魔術を使ったときの形跡が残っているままなのですぐにバレるでしょう。」
「何を言ってるんだ?そんなの僕の魔法で燃やせばいいだろう。」
「それでも僕の形跡は残っているままですし、何より森で火魔法を使う行為は危険です。どうかおやめください。」
「う、うるさい!それだけあるんだからお前は黙って僕に狩った魔獣を渡せばいいんだ!」

その時、僕の風魔法の探知に大きな気配が現れ、凄まじいスピードで向かってきた。
「少し下がっててください」
「え?」

するとその子も地響きで気づいたようだ。
魔獣が姿を現す。オークだ。しかもなんか図鑑でみたのより大きい。オークの弱点は動きが鈍いことなのにスピードも速かった。油断しないほうがいいだろう。

「ど、どういうことだ!B級が出るなんて…。おい、逃げるぞ!」
「大丈夫です。少し待っていて下さい」

剣を使うなら狙うは首。しかし風魔法を心臓に向けて打つのもありだな。問題はこのオークの肉の硬さだ。まだオークの攻撃が届く範囲じゃないうちに攻撃をしよう。
対魔獣距離約5メートル。凝縮した風の塊を胸に向かって打つ。
見事貫通した。よかった、倒せた。どのくらいまで風魔法は攻撃できるんだろう。

「お、お前…」
「お怪我はありませんか?」
「あぁ。それよりもなんだ今の魔術は!?」
「風魔法ですが、何かありましたか?」
「今のが、風…?おかしいだろ、威力も使い方も何もかも…」

最後の方が小声で聞こえなかったけど、怪我が無いようで安心した。

「どうやってやったんだ、風魔法は弱小の魔法だというのに。」
「弱小?そうだったんですか。でも風は色々と便利です。先ほどの魔術は」
「なら土魔法はどう思う」
「もちろんいいと思います。土にしかできないことがあります。土は大地の基盤です。それを自在に扱うことのできる技術は控えめに言って最高です。」
「そうか」

まずい、つい口走ってしまった。ずっとうつむいてる。もしかして怒ってる?でもだってあの神様と精霊王様たちがつくった魔術だよ?僕でも扱えるなんてすごい。

「あの、すみません。出過ぎたことを」
「いい。ねぇ、名前、なんていうの」
「シヅルです」
「僕の事はリカーフって呼んでいいよ。それと敬語も禁止。タメで話そ」
「え、いいんですか」
「もうっいいって言ってるでしょ!敬語ダメ」
「は、うん」

話してみるといい子だ。僕が前髪で顔をかくしていたりとかで怪しかったのだろう、最初は魔獣を譲れとか言われたが今はなんだか柔らかな雰囲気を持って僕に接してくれている。うれしい。それにタメ口で話せるなんてすごい、前の世界じゃ考えられないことだ。
一緒に話していると眠そうに見えた。相手はまだ中学生。睡眠が大事だと保健の授業で習ったのを思い出した。

「眠いなら朝になったら起こそうか?」
「でも、そしたらシヅルが眠れない」
「大丈夫。僕が寝てる間風で探知しておくから魔獣の心配はないよ。近くまで来ていたら反応して起きれるし」
「そんなことできるの!すごいなぁ、シヅルは。ねぇこれが終わったら僕に土魔法教えてよ」
「えっ、僕は土魔法使えないよ?」
「いいの!シヅルといれば楽しく魔法練習できる気がする」

こうして僕たちは寝た。
次の日の朝、日が昇るとともに起きた。その後、昼にかけては二次試験終了後の集合場所へ向かってゆっくりと向かう。途中、リカーフと協力しながら特別強い魔獣と遭遇することもなく僕たちは二人で二次試験を終えた。
倒した魔獣の数はおよそ9種ぐらいだ。足りたかわからないがもう気にしても仕方ない。

「受験生の諸君、ご苦労だった。これが初めての野営となった者も少なからずいるだろう。自分の力でやりぬいたことは称賛に値する。今日は各自帰ってゆっくり休め」
「「「「「はい!」」」」」

気のせいだろうか、僕からしたら年下の彼らがなんだか全員一回り大きくなったように見える。

「シヅル!この後僕と遊びに行かない?」
「ごめん、リカーフ。お世話になってるところがあって挨拶しに行きたいんだ。」

騎士団候補生の試験が終わったら僕は当然あの屋敷から追い出されるだろう。お礼を言って、今日のうちに宿をとらないと。

「ふーん。じゃあまた今度ね。」
「うん」

「ちょっと待って。あ、あのさ、最初はごめんなさい!その、嫌な態度とって」
「え…そんなことないよ。当たり前だし、僕ちょっと怪しいだろ?」
「まぁ、ちょっと」
「ならお互い様。それに僕は仲良くしてくれてうれしい。」
「そんなの僕もだし!シヅルが僕と仲良くしてくれると嬉しい。と、というか!その前髪が駄目なんだよ、一回上げてみてよ」
「えぇ!それは駄目だなぁ~」

こうして僕らは帰路に着いた。


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