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サヴァリッシュ王国
魔獣討伐5
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突然の得体のしれない何かの登場に周りの人が殺気だつのがわかる。
しかし僕が小さくつぶやいた言葉に場は静まり返った。
まさしく伝承にあったテカンのような生物は僕を見つめている。
朦朧としている意識の中で胸のあたりが暖かくなるのを感じた。
変な気分になって少し微笑むとその生物が徐に心地いい何かを僕に纏わせた。
それはまるで柔らかい春の陽だまりに包まれているようで。
それに包まれ、僕の意識は途絶えた。
…。
ここは……?
目覚めると、そこは一面お花畑だった。見渡す限り全て。
精霊たちがクルクルと舞っていたり、ひらひらと花にとまっておしゃべりをしていたり。穏やかな景色。
そういえば、あれ?
僕、なんでこんなところにいるんだろう。
さっきまで…あっ傷!が、ない…。それだけじゃない。身体が軽い。毒のせいであんなに重かったのに。
楽だ。この時間が続けばいいのに。ほかほかしてて、ふかふかしてて、僕を包み込んでくれる。
そんな叶うわけのない事を思っていると、僕の前に何かが現れた。
テカン、だよね。何も言わず僕をただ見つめているからなんて言えばいいのかわからない。だけどこの目の前の生物が僕を助けたことに違いはない。
「君が助けてくれたの…?ありがとう」
僕がそういうとなんだか嬉しそうに首を振り、首辺りの藤色のふわふわとした毛のところの色がもっと濃い色になった。キレイだな。
そう思っていると、僕をつんつんと頭でつついてきた。まるで僕に乗れと言っているようだ。
「乗っていいの…?」
どうやらいいらしい。おとなしく乗る。すると純白の大きな翼を広げ、空へ飛び出した。
初めての体験すぎてちょっと怖いけど、楽しい。
しばらく飛んでいると、目的地に着いたのか地上に降りて行った。
「…着いたの?」
そこにあったのはさっきと変わらない景色と白い柱で建てられたギリシャの神殿かなんかに似ているものがあった。
テカンが去っていった方向を見る。もしかして誰かいるのかな?
「……来たんだな」
「どちら、様ですか?」
その神殿からでてきたのは白い布を身体に巻きつけた筋肉質な上半身を隠そうともしない美丈夫な男性だった。
「俺は光の精霊王、ルシフェル。愛し子、久しぶりだな。いや違うか。お前はあの時寝てたんだった。」
光の精霊王…。
「お会いできて光栄です。僕はシヅルと申します。」
「ったく、固っ苦しいなぁ。まぁいい。俺のことはルシフェルって呼べ。」
「よろしいのですか…?では、ルシフェル様。あのっどうして僕はここにいるんでしょうか。」
「俺が呼んだんだ。お前、死にかけだったんだぞ。それを俺が治してやったってわけ。」
「…ありがとうございます。」
僕が礼を言うと、ルシフェル様は僕をじっと見つめ、言った。
「単刀直入に聞くけどよぉ、お前、死にてぇのか?」
「…え?どういうこと、ですか?」
「この空間に入れるやつは、大体生きるのをあきらめたやつなんだよ」
生きるのを、あきらめた、やつ…。
あぁ確かに僕は駄目人間そのものだからな。
どんなこともすぐにあきらめる駄目人間。
前の世界でできなかった友達が、リカーフが、危ない時に無鉄砲に飛び込んだ。あの時も本当は早く楽になりたいからあんな行動をしていたのか?僕は。
そしてせっかく治してもらった後でも心のどこかであのまま楽になれたら…と考えていた。
この世界にきて、優しくしてくれた人を利用して、僕は楽になる方法をさがしていた。
楽に死ねる方法を。
「俺は、それでいいのかって言いてぇんだよ。」
「えっ……」
「それで、死んでいいっつう選択をするのなら俺は止めねぇ。だけどな、考えてみろ。お前の周りのやつらを」
僕はその時、初めて気づかされた。
リカーフも、カーチェスも、レナードさん達も、騎士の人たちも、お屋敷のみんなも、アレフガートさんも…全員僕に向き合って接してくれている。
特にアレフガートさんのことが脳裏に浮かぶ。
彼は僕に直球で想いを伝えてくれている。
それなのに僕は、彼のことが気になって好きで仕方がないのに気が付かないふりをして、誤魔化して。それに必死になって。せっかく優しくしてもらっても返せない。
「あっ……うぅ………」
そう思っていると、気が付くと僕は泣いていた。
なんでかわからないけれど、止まらない。
「もう無理だ!」
その声とともに僕を抱きしめたのはいつからいたのかわからないシリル様だった。いつ嗅いでも心地の良い新緑のにおいが僕を包む。
「シヅル、大丈夫か?」
「ジリ、ルざまっ…」
とてもじゃないが聞かせられないみっともない声が出て来る。けれどそんなことは関係なく涙はあふれ出てくる。
シリル様はそんな僕をぎゅっと抱きしめてくれる。暖かい。
「お前はなっ口が悪すぎるんだよ!」
「あ゛?んなこたぁねぇだろ。お前ら俺以外の精霊王がなんも言わねぇでそっと見守ろうなんてしてるから俺はこうしたんだっつうの。」
「だからってこんな泣かせることはないだろ!」
二人の口論が続く。
そんな中、僕は穏やかな気持ちになって意識を手放していく。
その時シリル様が撫でてくれた手は心地よくて、明け方の寒い光が次第に闇の中に広がるような安心感があった。
―――
光の精霊王ルシフェルと風の精霊王シリル
「本当に、壊れかけだったんだぞ」
「…わかってる。そんなことは」
「じゃぁ、あの竜の野郎に任せるのは止めに」
「それは駄目だ。」
こいつは光の精霊王の癖してわかってない。まぁ新米だし仕方ないのかもしれないが。
壊れかけだったのは知っている。
だけどそれを修復するのは我々が干渉していいことではない。
いつかある程度自分で自分の心を守れるようになるならなくてはならない。
シヅルが自ら言うのと、自然に知ってしまっているのじゃあ同じ「知っている」でも全く違う。
シヅルが自分の過去を、つらいことを吐き出すことができて、それをひっくるめてまとめて愛せるやつが必要だ。
それこそ溺れるくらいの愛で。
これができるのはこの世界では悔しいがあいつだけ。
だから竜の子よ、どうか僕たちのシヅルに、正しく優しく寄り添って
守ってやってくれ。
しかし僕が小さくつぶやいた言葉に場は静まり返った。
まさしく伝承にあったテカンのような生物は僕を見つめている。
朦朧としている意識の中で胸のあたりが暖かくなるのを感じた。
変な気分になって少し微笑むとその生物が徐に心地いい何かを僕に纏わせた。
それはまるで柔らかい春の陽だまりに包まれているようで。
それに包まれ、僕の意識は途絶えた。
…。
ここは……?
目覚めると、そこは一面お花畑だった。見渡す限り全て。
精霊たちがクルクルと舞っていたり、ひらひらと花にとまっておしゃべりをしていたり。穏やかな景色。
そういえば、あれ?
僕、なんでこんなところにいるんだろう。
さっきまで…あっ傷!が、ない…。それだけじゃない。身体が軽い。毒のせいであんなに重かったのに。
楽だ。この時間が続けばいいのに。ほかほかしてて、ふかふかしてて、僕を包み込んでくれる。
そんな叶うわけのない事を思っていると、僕の前に何かが現れた。
テカン、だよね。何も言わず僕をただ見つめているからなんて言えばいいのかわからない。だけどこの目の前の生物が僕を助けたことに違いはない。
「君が助けてくれたの…?ありがとう」
僕がそういうとなんだか嬉しそうに首を振り、首辺りの藤色のふわふわとした毛のところの色がもっと濃い色になった。キレイだな。
そう思っていると、僕をつんつんと頭でつついてきた。まるで僕に乗れと言っているようだ。
「乗っていいの…?」
どうやらいいらしい。おとなしく乗る。すると純白の大きな翼を広げ、空へ飛び出した。
初めての体験すぎてちょっと怖いけど、楽しい。
しばらく飛んでいると、目的地に着いたのか地上に降りて行った。
「…着いたの?」
そこにあったのはさっきと変わらない景色と白い柱で建てられたギリシャの神殿かなんかに似ているものがあった。
テカンが去っていった方向を見る。もしかして誰かいるのかな?
「……来たんだな」
「どちら、様ですか?」
その神殿からでてきたのは白い布を身体に巻きつけた筋肉質な上半身を隠そうともしない美丈夫な男性だった。
「俺は光の精霊王、ルシフェル。愛し子、久しぶりだな。いや違うか。お前はあの時寝てたんだった。」
光の精霊王…。
「お会いできて光栄です。僕はシヅルと申します。」
「ったく、固っ苦しいなぁ。まぁいい。俺のことはルシフェルって呼べ。」
「よろしいのですか…?では、ルシフェル様。あのっどうして僕はここにいるんでしょうか。」
「俺が呼んだんだ。お前、死にかけだったんだぞ。それを俺が治してやったってわけ。」
「…ありがとうございます。」
僕が礼を言うと、ルシフェル様は僕をじっと見つめ、言った。
「単刀直入に聞くけどよぉ、お前、死にてぇのか?」
「…え?どういうこと、ですか?」
「この空間に入れるやつは、大体生きるのをあきらめたやつなんだよ」
生きるのを、あきらめた、やつ…。
あぁ確かに僕は駄目人間そのものだからな。
どんなこともすぐにあきらめる駄目人間。
前の世界でできなかった友達が、リカーフが、危ない時に無鉄砲に飛び込んだ。あの時も本当は早く楽になりたいからあんな行動をしていたのか?僕は。
そしてせっかく治してもらった後でも心のどこかであのまま楽になれたら…と考えていた。
この世界にきて、優しくしてくれた人を利用して、僕は楽になる方法をさがしていた。
楽に死ねる方法を。
「俺は、それでいいのかって言いてぇんだよ。」
「えっ……」
「それで、死んでいいっつう選択をするのなら俺は止めねぇ。だけどな、考えてみろ。お前の周りのやつらを」
僕はその時、初めて気づかされた。
リカーフも、カーチェスも、レナードさん達も、騎士の人たちも、お屋敷のみんなも、アレフガートさんも…全員僕に向き合って接してくれている。
特にアレフガートさんのことが脳裏に浮かぶ。
彼は僕に直球で想いを伝えてくれている。
それなのに僕は、彼のことが気になって好きで仕方がないのに気が付かないふりをして、誤魔化して。それに必死になって。せっかく優しくしてもらっても返せない。
「あっ……うぅ………」
そう思っていると、気が付くと僕は泣いていた。
なんでかわからないけれど、止まらない。
「もう無理だ!」
その声とともに僕を抱きしめたのはいつからいたのかわからないシリル様だった。いつ嗅いでも心地の良い新緑のにおいが僕を包む。
「シヅル、大丈夫か?」
「ジリ、ルざまっ…」
とてもじゃないが聞かせられないみっともない声が出て来る。けれどそんなことは関係なく涙はあふれ出てくる。
シリル様はそんな僕をぎゅっと抱きしめてくれる。暖かい。
「お前はなっ口が悪すぎるんだよ!」
「あ゛?んなこたぁねぇだろ。お前ら俺以外の精霊王がなんも言わねぇでそっと見守ろうなんてしてるから俺はこうしたんだっつうの。」
「だからってこんな泣かせることはないだろ!」
二人の口論が続く。
そんな中、僕は穏やかな気持ちになって意識を手放していく。
その時シリル様が撫でてくれた手は心地よくて、明け方の寒い光が次第に闇の中に広がるような安心感があった。
―――
光の精霊王ルシフェルと風の精霊王シリル
「本当に、壊れかけだったんだぞ」
「…わかってる。そんなことは」
「じゃぁ、あの竜の野郎に任せるのは止めに」
「それは駄目だ。」
こいつは光の精霊王の癖してわかってない。まぁ新米だし仕方ないのかもしれないが。
壊れかけだったのは知っている。
だけどそれを修復するのは我々が干渉していいことではない。
いつかある程度自分で自分の心を守れるようになるならなくてはならない。
シヅルが自ら言うのと、自然に知ってしまっているのじゃあ同じ「知っている」でも全く違う。
シヅルが自分の過去を、つらいことを吐き出すことができて、それをひっくるめてまとめて愛せるやつが必要だ。
それこそ溺れるくらいの愛で。
これができるのはこの世界では悔しいがあいつだけ。
だから竜の子よ、どうか僕たちのシヅルに、正しく優しく寄り添って
守ってやってくれ。
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