82 / 102
ヘーゲルツ王立学園
武道会準備4
しおりを挟む
「おはよう」
目覚めた子にそう声をかけると、ベッドの上で瞬時に後ずさる。あぁまだ動いちゃいけないのに。
「あれ…。」
魔術が解けていることに気が付いたのかわからないが、その子は信じられないものを見るような不安げな瞳で僕を見つめた。
警戒させないようにと柔らかめの声を意識をする。
「調子はどう?どっか痛いとことかない?」
「…。」
警戒中の猫のようだ。
だけどまず第一にしなければならないのはこの子を健康な体に近づけることだ。
「とりあえずご飯食べよう。」
火の魔法石を使い、急いであっためて食べさせる。よかった、食べてくれる。
あっちの世界で母によく作っていたおかゆだ。
入院してたときよく病院食食べさせてあげてたなぁと幸せだった母との思い出が薄っすらと思い出される。
アレフガートさんのおかげで毎日色々な食べものを食べてきたつもりだけど、やっぱり急にお腹にいれるならおかゆが一番いいと思ってる。
「それ…。」
少量だけど食べさせた後、僕の肩や首筋に残った傷跡を指さしてぽつりと言った。
僕の傷を案じてくれている。自分の体の方がよっぽど傷だらけだというのに。
「こんなの君に比べたら何でもないよ。」
申し訳なさそうにしているその子にもう寝るように促す。
瘦せ細った小枝のような身体と色濃い隈が目立つこの子はとりあえず十分な休息を取らなければならない。
あまり聞き取りが遅れてもまずいけど、休ませたかった。
しかしちらりと見てみても、こちらを警戒する心はなかなか消えないのか目をつむってくれない。
何か話した方がいいか迷いながら近寄る。
「寝られない?」
「おれ……どうなる、の」
「どうなるって…」
「人を殺したんだ、それも、たくさん。」
殺してしまったことを怖がっている。
この子が殺人という罪の重さを理解しているということだ。
殺人の罪は重い。しかしそれを強制的にやらせた奴がすべて悪いに決まっている。
しかしそれはどう言えば伝わるのだろうか。ただやらせた奴が悪いなんて言っても伝わらないだろうし、何より殺した感触は忘れられない。
「僕は君と同じ経験をした訳じゃないけど、君がこれ以上ないくらい頑張ったことは、わかる。」
「がんばったって…?」
「つらいのも苦しいのも我慢できて偉いってこと。普通の子じゃこんなことできないよ。」
「え…?」
泣きそうな真っ赤な目をみる。
身体をゆるく引き寄せ小さな頭を抱きしめてパサついた髪の毛をすきながら言う。
「もう頑張らなくていいよ。一旦忘れよう。後は僕に全部任せていいよ。」
「でも、おれ…、ひとを」
「殺したのは決して君の意思じゃないし、僕はどうにかして殺さないように頑張ってたのを知ってる。大丈夫だよ。」
「でも、でもおれは…結局ころしたんだよ……!」
嗚咽交じりの声で僕の胸に向かって強く絞り出すように言った。
きゅうっと胸が締め付けられて切なくなり、同時にこの子にそう思わせる要因をつくった奴にどうしようもない怒りがあふれてくる。
「ちょっと難しい話になるけど、君はどこに自分のココロがあるか知ってる?」
「…?わかんない」
「うん。誰もどこにあるかなんてわかんないよ。だけど誰も届かない触れられないところにあることを、僕は知ってるんだ。」
「さわれない…?」
「例えば、髪の毛が抜けたとするでしょ。だけど、だからといって考えてることとか自分の感情とかがどっかに行っちゃうことはないでしょ?だから髪の毛にはココロは入ってないね。きっとほかもそう。」
「…うん…。」
「だからね、君の身体を操った人がいけないんだよ。それは君じゃない。だから、ね?」
それからその子は泣き疲れて眠ってしまった。
可愛らしいことに、僕が身体を離して寝かせようとしたら僕のワイシャツの左手の袖をつかんで離さない。
動けなくてどうしようかと思って子供の顔を眺めていたらバサバサと音をたてて窓からクロが入ってきた。
「久しぶりだね。」
起こしたくないので小さな声で話しかける。鳥だから返事があるわけはないけれど。
でも本当に久しぶりな気がする。一昨日から一、二日会っていなかったからかな。
今まで毎夜のように来てくれていた鳥が一、二日来ないからって寂しくなるなんて我ながら重症だ。
こんなんじゃクロ依存症だ、と思いながらぼぅとする。
すると僕をじっと見ていたクロがいきなり飛び込んできた。
膝の上に着地したかと思えば、さっきまであの子を抱きしめていたせいで涙とかで汚れているところに頭を押し付けられ、突っつかれる。左手が使えないせいで挙句の果てにはベッドに押し倒されてしまう。
そして鳥だからそんな気はないはずなのに僕の首元を羽で擽るので、くすぐったくてつい声が出てしまう。
「ぅひゃっん、ん」
まるで感じているような自分の声にぞっとして冷静になり、暴走するクロをつかみ起き上がった。
「もう、いたずらしないで!」
クロを膝の上にのせ、落ち着かせるように羽を撫でてやる。ふぅ、びっくりした。
「ん?」
いつもサラサラでふわふわで綺麗な羽が今一瞬ザラッとした。肌荒れ、じゃなくて羽荒れか?
綺麗にしてあげようと思い、ザラザラとした部分を探して見つける。
しかしそこにあったのは予想外のモノだった。
鱗だ。
若竹色のような淡萌黄色のような、違う角度からみると様々な緑が見える。
不思議だけど、凄く綺麗だ。ずっと見ていたい。
だけどふと純粋な疑問が頭に浮かんだ。
この世界の鳥には鱗をもつ種がいるのか…?
綺麗な緑を見るとどうしても彼が思い出されるけど、そんなはずはない。僕に会いに来るなんてないし、人が獣になるなんて普通無理だ、聞いたこともない。
もし会いに来るとするならそれは復讐ぐらいだけど、いつも真っすぐで凛々しい彼はそんなことしないと思う。
うーん……。
今度ドリトン先生とかナナル先生に聞いてみるか。
目覚めた子にそう声をかけると、ベッドの上で瞬時に後ずさる。あぁまだ動いちゃいけないのに。
「あれ…。」
魔術が解けていることに気が付いたのかわからないが、その子は信じられないものを見るような不安げな瞳で僕を見つめた。
警戒させないようにと柔らかめの声を意識をする。
「調子はどう?どっか痛いとことかない?」
「…。」
警戒中の猫のようだ。
だけどまず第一にしなければならないのはこの子を健康な体に近づけることだ。
「とりあえずご飯食べよう。」
火の魔法石を使い、急いであっためて食べさせる。よかった、食べてくれる。
あっちの世界で母によく作っていたおかゆだ。
入院してたときよく病院食食べさせてあげてたなぁと幸せだった母との思い出が薄っすらと思い出される。
アレフガートさんのおかげで毎日色々な食べものを食べてきたつもりだけど、やっぱり急にお腹にいれるならおかゆが一番いいと思ってる。
「それ…。」
少量だけど食べさせた後、僕の肩や首筋に残った傷跡を指さしてぽつりと言った。
僕の傷を案じてくれている。自分の体の方がよっぽど傷だらけだというのに。
「こんなの君に比べたら何でもないよ。」
申し訳なさそうにしているその子にもう寝るように促す。
瘦せ細った小枝のような身体と色濃い隈が目立つこの子はとりあえず十分な休息を取らなければならない。
あまり聞き取りが遅れてもまずいけど、休ませたかった。
しかしちらりと見てみても、こちらを警戒する心はなかなか消えないのか目をつむってくれない。
何か話した方がいいか迷いながら近寄る。
「寝られない?」
「おれ……どうなる、の」
「どうなるって…」
「人を殺したんだ、それも、たくさん。」
殺してしまったことを怖がっている。
この子が殺人という罪の重さを理解しているということだ。
殺人の罪は重い。しかしそれを強制的にやらせた奴がすべて悪いに決まっている。
しかしそれはどう言えば伝わるのだろうか。ただやらせた奴が悪いなんて言っても伝わらないだろうし、何より殺した感触は忘れられない。
「僕は君と同じ経験をした訳じゃないけど、君がこれ以上ないくらい頑張ったことは、わかる。」
「がんばったって…?」
「つらいのも苦しいのも我慢できて偉いってこと。普通の子じゃこんなことできないよ。」
「え…?」
泣きそうな真っ赤な目をみる。
身体をゆるく引き寄せ小さな頭を抱きしめてパサついた髪の毛をすきながら言う。
「もう頑張らなくていいよ。一旦忘れよう。後は僕に全部任せていいよ。」
「でも、おれ…、ひとを」
「殺したのは決して君の意思じゃないし、僕はどうにかして殺さないように頑張ってたのを知ってる。大丈夫だよ。」
「でも、でもおれは…結局ころしたんだよ……!」
嗚咽交じりの声で僕の胸に向かって強く絞り出すように言った。
きゅうっと胸が締め付けられて切なくなり、同時にこの子にそう思わせる要因をつくった奴にどうしようもない怒りがあふれてくる。
「ちょっと難しい話になるけど、君はどこに自分のココロがあるか知ってる?」
「…?わかんない」
「うん。誰もどこにあるかなんてわかんないよ。だけど誰も届かない触れられないところにあることを、僕は知ってるんだ。」
「さわれない…?」
「例えば、髪の毛が抜けたとするでしょ。だけど、だからといって考えてることとか自分の感情とかがどっかに行っちゃうことはないでしょ?だから髪の毛にはココロは入ってないね。きっとほかもそう。」
「…うん…。」
「だからね、君の身体を操った人がいけないんだよ。それは君じゃない。だから、ね?」
それからその子は泣き疲れて眠ってしまった。
可愛らしいことに、僕が身体を離して寝かせようとしたら僕のワイシャツの左手の袖をつかんで離さない。
動けなくてどうしようかと思って子供の顔を眺めていたらバサバサと音をたてて窓からクロが入ってきた。
「久しぶりだね。」
起こしたくないので小さな声で話しかける。鳥だから返事があるわけはないけれど。
でも本当に久しぶりな気がする。一昨日から一、二日会っていなかったからかな。
今まで毎夜のように来てくれていた鳥が一、二日来ないからって寂しくなるなんて我ながら重症だ。
こんなんじゃクロ依存症だ、と思いながらぼぅとする。
すると僕をじっと見ていたクロがいきなり飛び込んできた。
膝の上に着地したかと思えば、さっきまであの子を抱きしめていたせいで涙とかで汚れているところに頭を押し付けられ、突っつかれる。左手が使えないせいで挙句の果てにはベッドに押し倒されてしまう。
そして鳥だからそんな気はないはずなのに僕の首元を羽で擽るので、くすぐったくてつい声が出てしまう。
「ぅひゃっん、ん」
まるで感じているような自分の声にぞっとして冷静になり、暴走するクロをつかみ起き上がった。
「もう、いたずらしないで!」
クロを膝の上にのせ、落ち着かせるように羽を撫でてやる。ふぅ、びっくりした。
「ん?」
いつもサラサラでふわふわで綺麗な羽が今一瞬ザラッとした。肌荒れ、じゃなくて羽荒れか?
綺麗にしてあげようと思い、ザラザラとした部分を探して見つける。
しかしそこにあったのは予想外のモノだった。
鱗だ。
若竹色のような淡萌黄色のような、違う角度からみると様々な緑が見える。
不思議だけど、凄く綺麗だ。ずっと見ていたい。
だけどふと純粋な疑問が頭に浮かんだ。
この世界の鳥には鱗をもつ種がいるのか…?
綺麗な緑を見るとどうしても彼が思い出されるけど、そんなはずはない。僕に会いに来るなんてないし、人が獣になるなんて普通無理だ、聞いたこともない。
もし会いに来るとするならそれは復讐ぐらいだけど、いつも真っすぐで凛々しい彼はそんなことしないと思う。
うーん……。
今度ドリトン先生とかナナル先生に聞いてみるか。
34
あなたにおすすめの小説
お前らの目は節穴か?BLゲーム主人公の従者になりました!
MEIKO
BL
本編完結しています。お直し中。第12回BL大賞奨励賞いただきました。
僕、エリオット・アノーは伯爵家嫡男の身分を隠して公爵家令息のジュリアス・エドモアの従者をしている。事の発端は十歳の時…家族から虐げられていた僕は、我慢の限界で田舎の領地から家を出て来た。もう二度と戻る事はないと己の身分を捨て、心機一転王都へやって来たものの、現実は厳しく死にかける僕。薄汚い格好でフラフラと彷徨っている所を救ってくれたのが完璧貴公子ジュリアスだ。だけど初めて会った時、不思議な感覚を覚える。えっ、このジュリアスって人…会ったことなかったっけ?その瞬間突然閃く!
「ここって…もしかして、BLゲームの世界じゃない?おまけに僕の最愛の推し〜ジュリアス様!」
知らぬ間にBLゲームの中の名も無き登場人物に転生してしまっていた僕は、命の恩人である坊ちゃまを幸せにしようと奔走する。そして大好きなゲームのイベントも近くで楽しんじゃうもんね〜ワックワク!
だけど何で…全然シナリオ通りじゃないんですけど。坊ちゃまってば、僕のこと大好き過ぎない?
※貴族的表現を使っていますが、別の世界です。ですのでそれにのっとっていない事がありますがご了承下さい。
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も皆の小話もあがります。
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新!
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
転生悪役弟、元恋人の冷然騎士に激重執着されています
柚吉猫
BL
生前の記憶は彼にとって悪夢のようだった。
酷い別れ方を引きずったまま転生した先は悪役令嬢がヒロインの乙女ゲームの世界だった。
性悪聖ヒロインの弟に生まれ変わって、過去の呪縛から逃れようと必死に生きてきた。
そんな彼の前に現れた竜王の化身である騎士団長。
離れたいのに、皆に愛されている騎士様は離してくれない。
姿形が違っても、魂でお互いは繋がっている。
冷然竜王騎士団長×過去の呪縛を背負う悪役弟
今度こそ、本当の恋をしよう。
転生して王子になったボクは、王様になるまでノラリクラリと生きるはずだった
angel
BL
つまらないことで死んでしまったボクを不憫に思った神様が1つのゲームを持ちかけてきた。
『転生先で王様になれたら元の体に戻してあげる』と。
生まれ変わったボクは美貌の第一王子で兄弟もなく、将来王様になることが約束されていた。
「イージーゲームすぎね?」とは思ったが、この好条件をありがたく受け止め
現世に戻れるまでノラリクラリと王子様生活を楽しむはずだった…。
完結しました。
花街だからといって身体は売ってません…って話聞いてます?
銀花月
BL
魔導師マルスは秘密裏に王命を受けて、花街で花を売る(フリ)をしていた。フッと視線を感じ、目線をむけると騎士団の第ニ副団長とバッチリ目が合ってしまう。
王命を知られる訳にもいかず…
王宮内で見た事はあるが接点もない。自分の事は分からないだろうとマルスはシラをきろうとするが、副団長は「お前の花を買ってやろう、マルス=トルマトン」と声をかけてきたーーーえ?俺だってバレてる?
※[小説家になろう]様にも掲載しています。
【完結】少年王が望むは…
綾雅(りょうが)今年は7冊!
BL
シュミレ国―――北の山脈に背を守られ、南の海が恵みを運ぶ国。
15歳の少年王エリヤは即位したばかりだった。両親を暗殺された彼を支えるは、執政ウィリアム一人。他の誰も信頼しない少年王は、彼に心を寄せていく。
恋ほど薄情ではなく、愛と呼ぶには尊敬や崇拝の感情が強すぎる―――小さな我侭すら戸惑うエリヤを、ウィリアムは幸せに出来るのか?
【注意事項】BL、R15、キスシーンあり、性的描写なし
【重複投稿】エブリスタ、アルファポリス、小説家になろう、カクヨム
無能扱いの聖職者は聖女代理に選ばれました
芳一
BL
無能扱いを受けていた聖職者が、聖女代理として瘴気に塗れた地に赴き諦めたものを色々と取り戻していく話。(あらすじ修正あり)***4話に描写のミスがあったので修正させて頂きました(10月11日)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる