駄目な奴でもなんとか生きていこうと思います

アオ

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ヘーゲルツ王立学園

武道会準備4

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「おはよう」

目覚めた子にそう声をかけると、ベッドの上で瞬時に後ずさる。あぁまだ動いちゃいけないのに。

「あれ…。」

魔術が解けていることに気が付いたのかわからないが、その子は信じられないものを見るような不安げな瞳で僕を見つめた。
警戒させないようにと柔らかめの声を意識をする。

「調子はどう?どっか痛いとことかない?」
「…。」

警戒中の猫のようだ。
だけどまず第一にしなければならないのはこの子を健康な体に近づけることだ。

「とりあえずご飯食べよう。」

火の魔法石を使い、急いであっためて食べさせる。よかった、食べてくれる。
あっちの世界で母によく作っていたおかゆだ。
入院してたときよく病院食食べさせてあげてたなぁと幸せだった母との思い出が薄っすらと思い出される。
アレフガートさんのおかげで毎日色々な食べものを食べてきたつもりだけど、やっぱり急にお腹にいれるならおかゆが一番いいと思ってる。

「それ…。」

少量だけど食べさせた後、僕の肩や首筋に残った傷跡を指さしてぽつりと言った。
僕の傷を案じてくれている。自分の体の方がよっぽど傷だらけだというのに。

「こんなの君に比べたら何でもないよ。」

申し訳なさそうにしているその子にもう寝るように促す。
瘦せ細った小枝のような身体と色濃い隈が目立つこの子はとりあえず十分な休息を取らなければならない。
あまり聞き取りが遅れてもまずいけど、休ませたかった。
しかしちらりと見てみても、こちらを警戒する心はなかなか消えないのか目をつむってくれない。
何か話した方がいいか迷いながら近寄る。

「寝られない?」
「おれ……どうなる、の」
「どうなるって…」
「人を殺したんだ、それも、たくさん。」

殺してしまったことを怖がっている。
この子が殺人という罪の重さを理解しているということだ。
殺人の罪は重い。しかしそれを強制的にやらせた奴がすべて悪いに決まっている。
しかしそれはどう言えば伝わるのだろうか。ただやらせた奴が悪いなんて言っても伝わらないだろうし、何より殺した感触は忘れられない。

「僕は君と同じ経験をした訳じゃないけど、君がこれ以上ないくらい頑張ったことは、わかる。」
「がんばったって…?」
「つらいのも苦しいのも我慢できて偉いってこと。普通の子じゃこんなことできないよ。」
「え…?」

泣きそうな真っ赤な目をみる。
身体をゆるく引き寄せ小さな頭を抱きしめてパサついた髪の毛をすきながら言う。

「もう頑張らなくていいよ。一旦忘れよう。後は僕に全部任せていいよ。」
「でも、おれ…、ひとを」
「殺したのは決して君の意思じゃないし、僕はどうにかして殺さないように頑張ってたのを知ってる。大丈夫だよ。」
「でも、でもおれは…結局ころしたんだよ……!」

嗚咽交じりの声で僕の胸に向かって強く絞り出すように言った。
きゅうっと胸が締め付けられて切なくなり、同時にこの子にそう思わせる要因をつくった奴にどうしようもない怒りがあふれてくる。

「ちょっと難しい話になるけど、君はどこに自分のココロがあるか知ってる?」
「…?わかんない」
「うん。誰もどこにあるかなんてわかんないよ。だけど誰も届かない触れられないところにあることを、僕は知ってるんだ。」
「さわれない…?」
「例えば、髪の毛が抜けたとするでしょ。だけど、だからといって考えてることとか自分の感情とかがどっかに行っちゃうことはないでしょ?だから髪の毛にはココロは入ってないね。きっとほかもそう。」
「…うん…。」
「だからね、君の身体を操った人がいけないんだよ。それは君じゃない。だから、ね?」

それからその子は泣き疲れて眠ってしまった。
可愛らしいことに、僕が身体を離して寝かせようとしたら僕のワイシャツの左手の袖をつかんで離さない。



動けなくてどうしようかと思って子供の顔を眺めていたらバサバサと音をたてて窓からクロが入ってきた。

「久しぶりだね。」

起こしたくないので小さな声で話しかける。鳥だから返事があるわけはないけれど。
でも本当に久しぶりな気がする。一昨日から一、二日会っていなかったからかな。
今まで毎夜のように来てくれていた鳥が一、二日来ないからって寂しくなるなんて我ながら重症だ。
こんなんじゃクロ依存症だ、と思いながらぼぅとする。

すると僕をじっと見ていたクロがいきなり飛び込んできた。
膝の上に着地したかと思えば、さっきまであの子を抱きしめていたせいで涙とかで汚れているところに頭を押し付けられ、突っつかれる。左手が使えないせいで挙句の果てにはベッドに押し倒されてしまう。
そして鳥だからそんな気はないはずなのに僕の首元を羽で擽るので、くすぐったくてつい声が出てしまう。

「ぅひゃっん、ん」

まるで感じているような自分の声にぞっとして冷静になり、暴走するクロをつかみ起き上がった。

「もう、いたずらしないで!」

クロを膝の上にのせ、落ち着かせるように羽を撫でてやる。ふぅ、びっくりした。

「ん?」

いつもサラサラでふわふわで綺麗な羽が今一瞬ザラッとした。肌荒れ、じゃなくて羽荒れか?
綺麗にしてあげようと思い、ザラザラとした部分を探して見つける。
しかしそこにあったのは予想外のモノだった。

鱗だ。

若竹わかたけ色のような淡萌黄うすもえぎ色のような、違う角度からみると様々な緑が見える。
不思議だけど、凄く綺麗だ。ずっと見ていたい。

だけどふと純粋な疑問が頭に浮かんだ。
この世界の鳥には鱗をもつ種がいるのか…?
綺麗な緑を見るとどうしても彼が思い出されるけど、そんなはずはない。僕に会いに来るなんてないし、人が獣になるなんて普通無理だ、聞いたこともない。
もし会いに来るとするならそれは復讐ぐらいだけど、いつも真っすぐで凛々しい彼はそんなことしないと思う。
うーん……。
今度ドリトン先生とかナナル先生に聞いてみるか。
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