駄目な奴でもなんとか生きていこうと思います

アオ

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ヘーゲルツ王立学園

武道会準備5

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それから1週間、1日3食と睡眠をしっかりと取らせた。頬の肉付きなどは全然足りないくらいだが、日に日に動ける時間が増え元気になっていって、会話も成り立つようになり名前も「シオ」と名乗ってくれた。
お風呂にも入れてあげると藍色の髪に夕焼け色よりも濃い朱色の眼が目立ち、可愛らしい子だと思った。

ちゃんと聞き取りもした。
震えて泣き出してしまうかと思ったが、存外そんなことはなくきちんと話してくれた。

それで分かったのは何とも反吐がでるような聞くに堪えない話だった。
もともとシオは孤児院で暮らしていたようだ。
そして6歳の時引き取り手が見つかり、孤児院から出た。しかしそこからが地獄だった。

シオを引き取ったのは人当たりの良さそうな中年貴族だった。
しかし実際はシオをおそらく幼児趣味のある貴族に売りさばこうとしていたのだ。そしてシオは必死に抵抗した。
その時タイミングがいいのか悪いのか、シオの魔法の才能が開花した。それからというもの、その貴族はシオを暗殺者として育て、自分の政敵など気に食わない者らを殺させていた。
いつからそれをやらされていたのだと問えば、僕の顔色を伺い言いにくそうに小さく「ななさいくらい…。」と答えた。
…子供に暗殺をさせるなんてこの世界では当たり前なのか?いや、そうあってはならない。
確かにこの世界で殺人は日常茶飯事。盗賊などを生きるためにやむ負えなく殺すことなんて珍しくない。
だけど十にも満たぬ子どもにやらせるなんて間違っている。

これが僕の汚い心から生まれた偽善心からくる考えだったとしてもこれだけは合っていると思った。


途中何度かたどたどしくなりつつも、話してくれたシオにいう。

「話してくれてありがとう。とりあえずシオ君を苦しめたやつが来ることはないよ。ゆっくり安心して休んで。何も心配しないでゆっくりしようね。」

僕がそういうと本当に疲れていたようでことりと寝てしまった。
その後、僕の手を握ったままなかなか目を覚まさないので、訪れてきた教頭先生とドリトン先生に書いた報告書をわたし、今後の方針を話し合う。
シオに関してはこのまま僕が預かることにしていいと殿下から指示があったようでうれしかった。




ドリトンside


俺は、本当なら今頃文官として王宮に従事しているはずだった。
しかし運悪く、試験当日平民を忌み嫌うクソ試験官にあたってしまったようで、はたらいてもいない不正を疑われた。
もちろんその時は正論で打ち負かしたが、試験後、仲間を引き連れてきたらしい試験官にあやうく牢屋に入れられそうになった。
人生詰んだかと思い絶望しかけた時「お前、俺の手下にならないか?」という王子らしかぬ言葉とともに助けてくださったのが第二王子殿下だ。
それからというもの、恩義を感じたのもあるが何より文官より殿下の手足となり働く方が楽しかったので、ずっと殿下の命に従って生きている。

社交界での噂集めもその命のひとつだ。
外見が比較的整っている方だったことや王立学園の教師という地位が幸いし、ご婦人方の中でまぁまぁな人気も得た。そして最近よく聞いていたのが”ヴァラムフィールド公爵家の秘珠”だ。

ヴァラムフィールド公爵家は最強の名を欲しいままにし、鬼竜の一族で知られる代々続く名門公爵家だ。
一度そこの長男である黒曜騎士団長を見かけたことがあるが、男らしく逞しい、恐ろしい程美しい容貌をした男だった。
遊び人で知られる令嬢が粉をかけようとした瞬間に気迫で卒倒しかけたと言っていた理由がよくわかった。

その秘珠っていうのにはいろいろな噂があった。
黒髪の可愛らしい少年を監禁してるとか、未だかつてないほど険しい顔で登城してきた黒曜騎士団長が黒い塊を腕にかかえて甘く笑ってた(←これは言ってた奥様も疑心暗鬼だった)とか、騎士団候補生まぁいろいろだ。

はっきりしないことだったが一応殿下に報告するともう会ったことがあるといい、少しでも悪いことをいうやつがいたら徹底的につぶせ、とおっしゃった。
それで奥様方の情報網を疑ったことはほぼないがこれであの超絶美形男に恋人のような存在できたことを確信した。

それから時が経ち、第四王子殿下の護衛や第一王子派の子息が多く通っているヘーゲルツ王立学園で数学教師をすることになった。
虫けらどもが多く、駆除には確かに苦労したが、爽やかな顔で敵を精神的に追い込んでいく同僚(ハリス)とかもできたし、役に立ててるし、なんだかんだ充実していた。

そして王太子争いも佳境を迎えそうな時期に新しい生物教師がきた。
まだ教師としての経験はないようで、普通に後輩ができると正直に嬉しかった。

どうやら第二王子殿下が連れてきたやつのようだった。だから情報共有も兼ねて同じ第二王子派として動いていることを明かそうと思ったが、しばらくは様子見と言われた。
ほとんどのことに関して急進派の殿下にしては珍しいと思った。

しかし観察していると殿下が様子見といった理由もわかってくる。
いろいろと異常なのだ。

まず礼儀正しいのにやけに他人にへりくだりがちというアンバランスさ。
そして恐ろしい戦闘能力。明らかに第一王子の仕業である実地訓練では、後からむさくるしい騎士科の生徒らにきいたところ、騎士経験があり実地での経験も豊富なギオツクでさえ死にかけたキメラを一撃したそうだ。
どうなってる?それだけじゃない。ヒドラと単騎で、しかも生徒を守りながらとか、剣術も魔術もセンス・威力・精度・判断力など全ての観点において普通じゃない。
能力値を数字におきかえたらとんでもないことになりそうだ。

戦闘能力が気になって自主的に始めたという夜の見回りについていくと、有り得ない捕獲の仕方で侵入者をとらえた。それで話が真実だと言う事をようやく理解した。
洗脳魔術に気付いた洞察力・観察力の高さ。優秀すぎる。

これで能力を鼻にかけるわけでなく、逆に何かに怯えているような小さな背中と染み出る自己評価の低さには驚いた。

もっと気になりいろいろと観察し始める。
自分のテリトリーにいれた人間には甘いようで俺がこっそり見てたりしてもほとんど気づかないので楽だった。

アサギリを意識していると、実地訓練での戦闘後に黒曜騎士団の副団長が珍しく慌てて安否の確認をしつこく図っていたり、アサギリガ元黒曜騎士団遊撃隊隊長の赤燐騎士団員と一緒にいるところを目撃した。
それによく付けている緑色のループタイ。ほかにもいろいろとある。
というか緑・黒曜騎士団・高い戦闘能力。このみっつが揃った時点で気づけることだったのだ。

生物教師のアサギリ=ヴァラムフィールド公爵家の秘珠=黒曜騎士団長の番、だと。

すっきりしすぎて口からポロっとアサギリの目の前で秘珠のことを言ってしまった。その時のアサギリの無理矢理閉じ込めていた想いが、相手のことを考えてしまう思考が、蘇ってしまった瞬間の表情は一生忘れられない気がする。

獣人の中でも竜の番に対する執着は凄まじく見つけられたら最後、甘くオトされて一生手中の珠として扱われる。
おそらくアサギリと黒曜騎士団長は番関係であるはず。
なのにどうして離れているのか、閉じ込められず見逃されているのか、わからない。
しかし少なからずアサギリは特別な、俺なんかには抱いてくれない想いを抱えているのはわかる。

あーぁ、知識豊富なとことか強いとことか優しいとことかくすって笑ってるとことかいいなって思ってたのになぁ…、最初から相手にすらしてもらえない人だったって訳か。
まっ仕方ない仕方ない!俺にはアリスティアちゃんがいるしね!
きっとこれから出会いがもっといい出会いがあるはず!、うん。

気を取り直し椅子から立ち伸びをする。


ふぅ
明日から、武道会だ。
アサギリには知らせていないがこの武道会の最終日、王太子が決まる。

正念場だ。






――

更新遅くなりすみません。
長くなったせいなんです。許してください😵‍💫
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