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44.女神のように
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私が婚約したのは15歳の誕生日が少し過ぎた頃。
お相手は、マイルズ・ミューア、16歳。
程よく豊かな領地を持つ伯爵家の嫡男。性格も優しく穏やかな人で、私はなんと恵まれているのだろうと感動したものだ。
ただ、気になる事も少しだけあった。
彼には異母兄弟がいたのだ。
顔合わせの時も俯いたままで、遊びに行っても図書室に隠れている。そんな弟君は、マイルズ様の悩みの種だった。
「母が弟を傷付けるんだ。悪いのはグレンじゃなくて父上なのにな」
そう、悲しげに笑う姿に、
「私達が守ってあげましょうね」
そう微笑めば、彼はありがとうと嬉しそうに笑った。
「あ、噂をすれば」
図書室の窓からチラリと見えた弟君に、笑顔を向け手を振ってみる。
「あら。隠れちゃったわ」
「君が綺麗だから恥ずかしかったんじゃない?」
「ふふっ、マイルズ様ったら」
ほら。きっと大したことないわ。私達は上手くやっていける。大丈夫よ。
結婚の準備は順長に進み、結婚式まであと少しだった。
「ダイアナ、綺麗だ」
「式まで我慢しなきゃ」
「ん、そうだね。でも少しだけ」
私達は少しだけ、あとほんの少しだけと言いながら、結局は最後まで致してしまった。バレたら叱られるかも、という背徳感が余計に私達を盛り上げてしまったのだ。
「怒られちゃうわね?」
「そしたら一緒に謝ろう」
「そうね、一緒なら怖くないわ」
でも、叱られたのは私だけだった。マイルズは私を置いて天国に旅立ってしまったから。
「なんて愚かなんだ、純潔を失うだなんて!
どうするんだ。そんなでは何処かの後妻か問題のある男しかいないぞ」
なぜこんなことになったの……
私は幸せになれるはずだったのに!
「私は修道院に行きます。マイルズを愛しているの」
「……ハァ、何が愛だ。ただ、自分の欲望に負けただけだろうが。だいたい、お前みたいな甘ったれが修道院だと?やっていけるわけ無いだろう」
どうして決めつけるの?私だって頑張れば何とかやっていけるはずよ。
「粗末な食事に掃除や洗濯、風呂だって毎日では無いぞ。耐えられるのか?一生だぞ」
「……お風呂に入れないの?」
何それ。体が腐ってしまうわよ。お父様は私を脅そうとしているのね?
そんなふうに父様と揉めていると、伯爵家からグレンと結婚してほしいとの申し入れがあった。
「そんな、グレンとだなんて」
「……そうだな、彼が可哀想だろう」
なぜ?どうして私ではなく彼が可哀想なの?
「兄のお下がりだなんて、普通は嬉しくないだろう」
お下がり?私は古着と同等だと言うの!?
「お父様は私が嫌いなのね」
「それが現実だ。お前が自分で価値を下げたんだよ」
「……そんなことない。だってグレンは私を望んでいるじゃない!」
あの子は私を見て頬を染めていた。きっと私が好きなのよ。だから兄がいなくなった途端、私を求めて来た。
ふふ、弟なのに酷い子よね。
「私は愛するマイルズの願いを叶えるわ。彼はグレンの幸せを願っていたもの。私と結婚したら、それは叶うのよ」
ちゃんと優しくしてあげる。マイルズの為に。
グレンと再婚約した。でも、相変わらず彼は隠れてしまう。でも、私には魔法の呪文があるの。
「グレン。マイルズ様は貴方の幸せを願っていた。私に彼の最後の願いを叶えさせて?」
そう言えば、彼は泣きそうな顔で出てくる。
「……ごめんなさい。俺なんかと」
「大丈夫。一緒に幸せになりましょう?」
そう囁やけば、喜びと、喜んでしまったことへの罪悪感で顔を歪めるグレンを見るのは少し楽しい。
「ごめんなさい。絶対に貴方に不自由な生活はさせないから」
「ありがとう。貴方と結婚出来てよかった」
不自由ない生活を誓ったグレンは、私にほとんど仕事をさせなかった。
「こんなに何もしなくていいのかしら?」
最初こそ嬉しかったけれど、少し使用人の目が冷たい気もする。……そうだわ、子供よ!
グレンが私には触れようとしないから1年経っても子供が出来る訳も無く。
グレンに抱かれることに抵抗もあったから放っておいてたけど、そろそろ子作りを始めなきゃね?
「グレン、子供が欲しいわ」
「だけど……君は兄の大切な人だ」
「そうね。彼の大切な家よ。私達が守らなきゃ」
そうして閨に誘えば、彼は私のことが本当に好きなのだろう。
「ごめんなさい、好きです……好きです……」
そうやって泣きながら、私を大切に大切に抱いてくれた。
グレンは私を喜ばせるのが上手い。
まるで私を女神かのように扱うのだ。
あ、そうか。
「グレン、貴方の体が心配よ。無理し過ぎないで」
私は使用人に聞こえるようにグレンの体を気遣う言葉を紡ぐことにした。
そうしていくうちに、仕事中毒の酷い夫と、そんな彼を何とか諌めようとする健気な妻が出来上がる。
おかげで使用人が優しくなっていった。
だから、彼等にも優しくする。
「手が荒れているわ。いつも頑張ってくれてありがとう。このクリームを使って?」
「わ!このブローチ、貴方の瞳にそっくり!プレゼントさせて?日頃の感謝の気持ちよ」
そうやって身近な使用人の心を掴む。
だって、私の予算はたくさんある。それくらいの出費はどうってことない。
そして、彼が私との距離を詰めようとすると、夜に寝言のふりでつぶやく。
「……マイルズ…、さびしいよ……」
そうすれば、彼はそっとベッドから降り、執務室に戻って行った。今日も私の為に仕事を頑張るのだろう。
翌朝、一人取り残されたことに悲しそうな顔をし、それでもそんな夫を心配すれば、慈愛の女神の出来上がり。
私の人生は恵まれている。
お相手は、マイルズ・ミューア、16歳。
程よく豊かな領地を持つ伯爵家の嫡男。性格も優しく穏やかな人で、私はなんと恵まれているのだろうと感動したものだ。
ただ、気になる事も少しだけあった。
彼には異母兄弟がいたのだ。
顔合わせの時も俯いたままで、遊びに行っても図書室に隠れている。そんな弟君は、マイルズ様の悩みの種だった。
「母が弟を傷付けるんだ。悪いのはグレンじゃなくて父上なのにな」
そう、悲しげに笑う姿に、
「私達が守ってあげましょうね」
そう微笑めば、彼はありがとうと嬉しそうに笑った。
「あ、噂をすれば」
図書室の窓からチラリと見えた弟君に、笑顔を向け手を振ってみる。
「あら。隠れちゃったわ」
「君が綺麗だから恥ずかしかったんじゃない?」
「ふふっ、マイルズ様ったら」
ほら。きっと大したことないわ。私達は上手くやっていける。大丈夫よ。
結婚の準備は順長に進み、結婚式まであと少しだった。
「ダイアナ、綺麗だ」
「式まで我慢しなきゃ」
「ん、そうだね。でも少しだけ」
私達は少しだけ、あとほんの少しだけと言いながら、結局は最後まで致してしまった。バレたら叱られるかも、という背徳感が余計に私達を盛り上げてしまったのだ。
「怒られちゃうわね?」
「そしたら一緒に謝ろう」
「そうね、一緒なら怖くないわ」
でも、叱られたのは私だけだった。マイルズは私を置いて天国に旅立ってしまったから。
「なんて愚かなんだ、純潔を失うだなんて!
どうするんだ。そんなでは何処かの後妻か問題のある男しかいないぞ」
なぜこんなことになったの……
私は幸せになれるはずだったのに!
「私は修道院に行きます。マイルズを愛しているの」
「……ハァ、何が愛だ。ただ、自分の欲望に負けただけだろうが。だいたい、お前みたいな甘ったれが修道院だと?やっていけるわけ無いだろう」
どうして決めつけるの?私だって頑張れば何とかやっていけるはずよ。
「粗末な食事に掃除や洗濯、風呂だって毎日では無いぞ。耐えられるのか?一生だぞ」
「……お風呂に入れないの?」
何それ。体が腐ってしまうわよ。お父様は私を脅そうとしているのね?
そんなふうに父様と揉めていると、伯爵家からグレンと結婚してほしいとの申し入れがあった。
「そんな、グレンとだなんて」
「……そうだな、彼が可哀想だろう」
なぜ?どうして私ではなく彼が可哀想なの?
「兄のお下がりだなんて、普通は嬉しくないだろう」
お下がり?私は古着と同等だと言うの!?
「お父様は私が嫌いなのね」
「それが現実だ。お前が自分で価値を下げたんだよ」
「……そんなことない。だってグレンは私を望んでいるじゃない!」
あの子は私を見て頬を染めていた。きっと私が好きなのよ。だから兄がいなくなった途端、私を求めて来た。
ふふ、弟なのに酷い子よね。
「私は愛するマイルズの願いを叶えるわ。彼はグレンの幸せを願っていたもの。私と結婚したら、それは叶うのよ」
ちゃんと優しくしてあげる。マイルズの為に。
グレンと再婚約した。でも、相変わらず彼は隠れてしまう。でも、私には魔法の呪文があるの。
「グレン。マイルズ様は貴方の幸せを願っていた。私に彼の最後の願いを叶えさせて?」
そう言えば、彼は泣きそうな顔で出てくる。
「……ごめんなさい。俺なんかと」
「大丈夫。一緒に幸せになりましょう?」
そう囁やけば、喜びと、喜んでしまったことへの罪悪感で顔を歪めるグレンを見るのは少し楽しい。
「ごめんなさい。絶対に貴方に不自由な生活はさせないから」
「ありがとう。貴方と結婚出来てよかった」
不自由ない生活を誓ったグレンは、私にほとんど仕事をさせなかった。
「こんなに何もしなくていいのかしら?」
最初こそ嬉しかったけれど、少し使用人の目が冷たい気もする。……そうだわ、子供よ!
グレンが私には触れようとしないから1年経っても子供が出来る訳も無く。
グレンに抱かれることに抵抗もあったから放っておいてたけど、そろそろ子作りを始めなきゃね?
「グレン、子供が欲しいわ」
「だけど……君は兄の大切な人だ」
「そうね。彼の大切な家よ。私達が守らなきゃ」
そうして閨に誘えば、彼は私のことが本当に好きなのだろう。
「ごめんなさい、好きです……好きです……」
そうやって泣きながら、私を大切に大切に抱いてくれた。
グレンは私を喜ばせるのが上手い。
まるで私を女神かのように扱うのだ。
あ、そうか。
「グレン、貴方の体が心配よ。無理し過ぎないで」
私は使用人に聞こえるようにグレンの体を気遣う言葉を紡ぐことにした。
そうしていくうちに、仕事中毒の酷い夫と、そんな彼を何とか諌めようとする健気な妻が出来上がる。
おかげで使用人が優しくなっていった。
だから、彼等にも優しくする。
「手が荒れているわ。いつも頑張ってくれてありがとう。このクリームを使って?」
「わ!このブローチ、貴方の瞳にそっくり!プレゼントさせて?日頃の感謝の気持ちよ」
そうやって身近な使用人の心を掴む。
だって、私の予算はたくさんある。それくらいの出費はどうってことない。
そして、彼が私との距離を詰めようとすると、夜に寝言のふりでつぶやく。
「……マイルズ…、さびしいよ……」
そうすれば、彼はそっとベッドから降り、執務室に戻って行った。今日も私の為に仕事を頑張るのだろう。
翌朝、一人取り残されたことに悲しそうな顔をし、それでもそんな夫を心配すれば、慈愛の女神の出来上がり。
私の人生は恵まれている。
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