愛なんか消えてしまえと願う私は悪くないと思う

ましろ

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8.恋は盲目というのは本当なのです

 私が叫んだあと、なぜか場がシンッと静まり返ってしまった。
 ……あれ? 私、何かおかしなことを言ったっけ?

「あの……? お母さん達を叱ってほしい……んですけど。……だめですか?」

 とりあえず、もう一度繰り返してみた。
 できればすぐに返事がほしい。おじさんが無理なら、次はおじいちゃんに頼まないといけないもの。

「いや、すまん。聞こえているが」

 ですよね? こんなに至近距離で聞こえないなら、お向かいのおじいちゃんよりも大変だわ。

「その……、私は何を叱ればいいんだ? いや、それよりもお金がほしいとか、この家に迎え入れてほしいとか、もっと他の願いの方がいいんじゃないか?」
「えぇっ⁉ 駄目ですよ!」
「……そうなのか」

 怖い顔だと思っていたおじさんがすっかり困り顔になっている。どうしてかしら。

「フィリシア。お前は両親のどういうところを叱ってほしいんだ? それを言わないとこの人も困るだろ」

 話のかみ合わない私達を見かねたのか、レイさんが教えてくれた。なるほど!

「あのね? 『ばっかり』はずるいって叱ってほしいんです」
「……ばっかり。とは?」
「お母さんばっかりお姫様なの」

 我が家はそんな『ばっかり』が横行しているのだ。

「お母さん『ばっかり』一番大切にされるし、お母さん『ばっかり』か弱いわ」

 そりゃあ、私はとっても強いわよ? 滅多に病気にならないし、ちょっと熱が出たって動いているうちに治っちゃう。ちび達をいっぺんにおんぶと抱っこだってできちゃうくらい力持ちだし。
 でも、強かったらずっとずっとずぅ~~っと、私ばっかり頑張らないといけないの?

「お母さん『ばっかり』きれいな手をして……私『ばっかり』こんな手なの」

 おじさんの前で手を広げてみせた。
 短く艶のない爪に、あかぎれがいくつもある、お世辞にもきれいとは言えない荒れた手。

「……まさか、君が家事をしているのか?」
「だって、私が一番料理が上手ですから」

 初めて包丁を握ったのは何歳だったかな。
 お母さんに刃物なんか持たせられないと、私が小さい頃はお父さんが料理をしていた。
 でも、お父さんはお外でお仕事をしているのに、家のことをするのは大変そうで。
 だから助けてあげたかった。だから頑張ったのに。

「家族のために頑張ることは嫌じゃないわ。よその家だって子どもが家事をお手伝いくらいするもの。だから、家事をするのが私の仕事になっても、最初は誇らしかった」

 お父さんを助けてあげられるのが嬉しかった。すごいな、ありがとうって言ってもらえて、これからも頑張ろうって思った。

「でもね? お母さんはずっと変わらないの。今でも刺繍やお裁縫のお仕事をするくらい。それなのに……どんどん赤ちゃんが生まれるの」
「……今、ソフィアの子は何人いるんだ?」
「私を入れて七人。あと、お腹の中にもう一人います」
「七……っ、いや、八人っ⁉」

 やっぱり驚くよね。だって我が家はみんな健康優良児。食事だって満足とは言えないし、目が行き届いているわけでもないのに、誰一人欠けることなく健やかに育っている。ありがたいことだわ。
 幼い子どもが亡くなるなんてざらなのに、なんなら出産時に母子ともに亡くなることも多いのに、子ども達はみんな元気だし、お母さんだって何人産んでもきれいなままだ。
 だから、お母さんは本当はまったくか弱くないと私は思っている。
 それなのにいつまでもお姫様だから!

「おかげさまで私、子育てのエキスパートなんです」

 これ以上の表現があるだろうか。でも、一度誰かに言ってみたかったので、ちょっと嬉しい。

「……やはり、資金援助が必要か」

 おじさんが重苦しくつぶやいた。
 え? どうしてそうなるの?

「おじさん、それはだめ! ぜ──っったいにだめよ!」
「いや、だがお金があれば君だって」
「私達の生活に回る前に、お母さんへのプレゼントに変わる! ドレスや宝石や真っ赤なバラの花束に変わっちゃうから!」

 
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