ご愛妾様は今日も無口。

ましろ

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53.共に笑い合いながら

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「ナディアありがとう。あと、ごめんね?」
「ううん、お母様大好き」

あのムカつく男と話し終えてから、まずはナディアの部屋に向かった。
私とあの人の子供なのに、なんでこんなに人の心を理解しているのかしら。……これが反面教師か。

「ナディアは私達にこのままやり直して欲しい?それとも、」
「どちらでもいいわ。どうなってもお二人が私の両親なのは変わらないし、ただ、幸せになってほしい」

……この子が、こんなに大人だったなんて知らなかった。それとも、不甲斐ない私達のせいで大人にならざるを得なかったのか。それなら本当に申し訳ないことだ。

「貴方が素敵過ぎて困ってしまうわ」
「そうでもないです。最近の気になる男性ランキング1位はブラスさんなので」
「……それだけはやめなさい」

なぜ?あんなのの何がいいの?

「でも、あんなに一途に思われたら幸せそう」
「自分の父親にって所に注目して」
「恋とはままなりませんね」

うそ、恋?恋って言った?!

「趣味が悪過ぎる!」
「ふふっ、では私の嫁ぎ先はちゃんと考慮して下さいね。あまりにおかしな相手だと、失意のあまり駆け落ちしてしまうかも♡」
「……アレがアロイスから離れることはないでしょう」
「あら、ではお父様も一緒ですね。大好きだから大丈夫です。欲張りセットだわ」

これは……本気?脅し?我が子ながら怖いわ。

「王族として生まれたのだから、政略結婚は仕方が無いでしょう?」
「まぁ、諦めたらそれでお終いです。私は何処までも足掻くと決めてしまいました」

……この小悪魔をどうしたら……

「お父様だって王家の後継者争いを止めたわ」
「え?」
「お父様があらゆることに介入して貴族の力を弱めたでしょう?そして、王族派貴族派中立派の垣根を低くした。だからお兄様達を別々に利用しようなんて輩は減ったではありませんか。
私は仲良し家族が大好きです。だから、変えられるって知っているんですよ」

……そう。だからあんな無理を。

「私は貴方に負けまくりだわ」
「伊達に蚊帳の外ではなかったのですわ。外からの方が物事は見えますのよ?」

うちの娘怖い。最強かも。確かに番犬は必要な気がしてきたけど、アレはいらない。もう少し毛並みのいいのが欲しいわね。

「貴方の婚約者を探しましょうか」
「選ばせてくださるの?」
「相手の意見を尊重するわ」

この小悪魔を御せるものに限る、という注意書きが必要ね。




「ということがあったの」
「ナディアのそういった度胸の良さは君譲りだね、アンヌ」

悩んでいても仕方が無いので、アロイスのもとに来てみた。

「でもさすがにブラスは無いな」
「意見が合って良かったわ」
「そうだな。宰相のご子息……は、少し弱いか。ああ、いっそ近衛騎士団の副団長は?彼なら程よく腹黒くて腕も立つし、見た目も悪くない」
「…………は?」

その方は確か30歳近くて、何処かの貴族の次男か三男じゃなかったかしら?

「国民受けはいいと思うよ。実力でのし上がり騎士爵を手にした男だ。もちろんナディアと彼の意見が大事だけどね」

貴方はそんなことを言う人だったの。

「王族は嫌いだった?」
「……そうだね。同じ人間なのになぜ、とは思っていたかな。生まれた家で差があり過ぎるだろう?もう少しそういったものを無くせれば、とは考えていた」

そうなのね。私は公爵家に生まれたのだから、誇りを持って国に貢献し、下の者達への施しを忘れず謙虚であれと思っていた。
でも、貴方はそんな上下関係を無くしていきたいと思っていたのね。

「本当に、隣に立っていたのにまったく違うものを見ていたのね。20年も」

私達は本当に相互理解が足りていない。

「……貴方は私と別れたいの?」

彼の視線がこちらを彷徨うが、決して合うことはない。まるで今の私達のようだ。

「君を、家族として大切に思っている」
「ええ」
「でも、一人の女性として心から愛せるかと言われると……出来ないとしか言えない。すまない」

そうね。ずっと家族としてしか関係を育んで来なかったもの。愛なんて、種すら蒔いていない。そんな努力はして来なかった。お互いに。

「……うん、そうよね。私達はそういう関係だったわ」

それなら。

「それでいいわ。家族愛。私はそれが大切だもの」
「……だが、愛されたいと……それも本心だろう?」

そうね。あんなふうに愛されてみたかった。貴方しかいないと縋られたかった。誰かの、唯一の女になってみたかった。

「私は束縛は嫌いなの。やりたいように出来ないと腹が立つ。貴方の隣は楽だったわ。やりたいことを思う存分やって、限界前には貴方がブレーキをかけてくれて。
貴方の見せた愛に憧れたけど、本当にされたらぶん殴る気がするわ。
それにね、今はトリスタンの愛の方が好きよ」

あの、見返りを求めず、相手を慈しむ姿が素敵だと思った。あんな優しさを私も手にしたいと思ったわ。

「……犬でも飼うかい?」
「そうね!あの子は犬だわ!飼うなら大型犬ね。貴方の生活を助けてくれるかしら」

何処かの国で、目の不自由な人の歩行などを助ける賢い犬がいると聞いたことがある。でも、この人にはあの駄犬がいるから不要かしら。

「飼うなら猫の方がいい。一緒に寝たら気持ち良さそうだ」
「……貴方、他人の気配が嫌なのではなかったの?」
「そうだね。でも、それも悪くないかなって。もう殺されることも無いし」

……あのベレニスのせいか!

「それなら私と寝ればいいじゃない。一応妻なのだし」
「……君は寝相が悪い。蹴ってくるから嫌だ」
「!」

何てことなのっ!共寝の拒否は寝相の悪さ?

「あと、急に笑い出して怖い」

寝ながら笑うの?やだ、恥ずかしいっ!

「……猫を飼いましょう。フワフワの」
「ふはっ!うん、頼むよ、ふふっ」

アロイスのこんな笑顔を初めて見た。
ベレニスが居なくなって重荷が消えたのかしら。
感情を失っていたのは、幼少期に命の危機に晒されていたからなのかもしれないわね。

たくさん間違ってすれ違ってきてしまったけど。
こうやって穏やかに暮らしていけるのは悪くないわ。私が欲しかったのは、こうやって二人で笑い合える関係だったのかもしれない。

ねえ、私も家族として貴方が大切よ。
もう今更宣言はしないけど。
だってそれも愛だ。ずっと大切にしてきた愛なのだ。



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